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幽間世界  作者:
1/83

紗夜の記憶

私の母は死んだ。


私を庇ったからだって周りは言っていた。


電車の事故だったらしい。正直その瞬間のことはよく覚えていない。


音も、匂いも、怖さも。


あとから「大変だったね」と言われて、そういう出来事だったのだと知った。


母がいなくなってから家は変わった…というより、父が変わった。


前はどんな人だったのかもう思い出せない。帰ってくる時間が遅くなって、声が大きくなって、家の中がうるさくなった。


私はそれを見ていただけだ。何かを感じていたのかもしれないけど、名前をつけるほどの感情はなかった。


学校でも同じだった。笑う理由も泣く理由も分からなかった。


人と話すのは面倒じゃないけど、楽しくもなかった。


驚くことも期待することも、いつの間にかしなくなっていた。


そうした方が静かだったから。


母の墓だけは今でも場所が分かる。そこに行くと、少しだけ落ち着く感じがする。


母は何も言わないし、私も何も言わない。ただそこに立っている。


それだけでいいと思っていた。



だからあの時も、特別な気持ちはなかった。

たまたま霊感を持ち合わせていた私だから、そこに見えるはずのないものが見えただけ。

話しかけられたから返事をした。


ただそれだけ。


私の人生は壊れたわけじゃない。最初から、どこか欠けたまま続いていただけだ。


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