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休日の午後になると、黒いローブを羽織ったミヨリは『明星の導き』と呼ばれる新ダンジョンのゲート前まで足を運んでいた。
ゲートの近くには受付の人が待機している建物があるけど、急造で建てられたものなので、他のダンジョンにあるものと比べると外観が粗末だ。
ミヨリは首をめぐらせて、今回の探索に同行するメンバーたちを見た。
綾乃と玲奈は白銀の軽装鎧を着ていて、腰に剣を下げている。
小春は白いローブを身にまとっていた。
美鈴は黒い革鎧を装着し、腰の左右に鞘に収まったダガーを吊している。
涼子は修道服っぽい白と黒の色がまざったローブの上から軽装鎧を着て、大きな戦鎚を背負っている。
今回はこの五人と共に『明星の導き』に挑戦する。
先日のイベントで告知したときはソロでもぐるつもりだったけど、玲奈から緊急で連絡がきて、パーティとして同行したいとかなり熱い感じで交渉された。パーティを組むのはミヨリとしても構わなかったので了承した。
他の探索者にも声をかけたり、メンバーを募集したりしていたみたいだけど、ここにいる人たちしか集まらなかったようだ。
「ムラサメちゃんも来てくれたんだね」
「あぁ。ミヨリとパーティを組むのは怖いが、高確率で『明星の導き』を踏破するだろうからな。新ダンジョンをはじめて最深部まで攻略したメンバーに加わるのは、探索者として名誉なことだ」
綾乃は深呼吸を繰り返しながら、胸元に手を添えている。ミヨリと行動することに恐怖を感じているのは本当だけど、これからもぐる新ダンジョンに胸をときめかせているのだろう。
「わたしはミヨリくんの活躍をもう一度この目で見たかったからね。山積みのスケジュールを調整して、駆けつけたよ」
玲奈は誇らしげに笑いながら、ミヨリのほうに身を寄せてくる。呆れた目をしている綾乃を見るからに、かなり無理してやって来たのだろう。
……この人、トップクランの偉い人なのに、フットワーク軽すぎじゃない? そう思ったけど、ミヨリは口には出さなかった。
ミヨリは後ろに下がって玲奈から離れると、「あっ、はい」とだけ返しておいた。
「小春ちゃんが来てくれたのは、意外だったよ」
「うっ! ま、まぁね……」
ミヨリが声をかけると、小春はビクリとした。前回ミヨリとパーティを組んだときのことを思い出したのか、視線をあちこちに泳がせている。
まだミヨリへの恐怖心はぬぐいきれていないようなので、同行を志願してきたのは本当に意外だ。
そしてこのまえダンジョンで知り合った二人にも目を向ける。
ミヨリの視線に気づくと、涼子がゆっくりと歩み寄ってきた。その後ろを、仏頂面をした美鈴が追いかけてくる。
「ミヨリさん。今日はよろしくお願いします」
「やるからには、最深部まで踏破してみせるわよ」
涼子は礼儀正しく頭を下げて挨拶をしてくる。
美鈴は意気込んでいるけど、さっきからミヨリとは極力目を合わせないようにしている。
「いきなり『明星の導き』を攻略すると、ミヨリさんが言い出したときは驚きました。てっきり攻略に乗り出すのは、もっと先のことなのかと」
「このまえ二人に会ったときは、まだ決めてませんでしたからね。攻略しようと決めたのは、ムラサメちゃんに惨殺されまくったあとです」
「いや、あれはゲームの話だろ! その言い方だと、わたしが何かしたみたいじゃないか!」
かたわらで話を聞いていた綾乃が、慌てて口を挟んで補足してくる。ミヨリの発言に涼子も美鈴も引いていたので、あんまり補足の意味はなかった。
「ところで二人とも、玲奈さんと知り合いだったんですか?」
ミヨリは玲奈のほうを一瞥してから尋ねる。
さっきゲートの前に集まったとき、涼子と美鈴は玲奈と軽く言葉を交わしていた。
「なんだいミヨリくん? もしかして、わたしとこの二人が親しいと思って、妬いてくれているのかい?」
「え? 違いますけど?」
即答すると、玲奈は微笑みながら「ふぅ。やれやれ」と両手をあげて肩をすくめる。
……玲奈さん、いま傷ついたな。綾乃は胸の内でそうつぶやいた。
「ミヨリさんの推察どおり、わたしたちは玲奈さんと何度か顔を合わせたことがあります。ですので、今回のダンジョン攻略に志願した際も、すんなりと受け入れてもらえました」
「この二人はレベルが高くて、場数も踏んでいるからね。実力は心配しなくてもいいよ」
前に見たときに腕が立つことは感じ取れていたが、玲奈が太鼓判を押すのなら間違いないだろう。
三人のやりとりを近くで聞いていた綾乃と小春は、「いくら探索者として実力が高くても、ミヨリと同行する上ではあんまり意味がないな」と内心で思っていた。




