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第十八話 泰平vs霞

 泰平と霞が庭で向き合う。


「お前と稽古するのは初めてだな」


「は、はい! よろしくお願いします」


「さぁ、いつでもかかってきていい」


「じゃあ……遠慮なくっ!」


 地面を強く蹴り、泰平は一気に加速する


 刹那、泰平の拳が空気を切り裂くように霞に襲いかかる


 突如、どこからか霧が現れ、霞の姿を完全に隠した


 泰平は動揺するも、霧を掻き分けながら拳を振り抜く

 が、虚しく空を切ってしまった


 次の刹那、強烈な手刀が泰平の首筋を直撃、泰平はその場に倒れ込んでしまう


(な、なんだ……なにが起こった?)


「私の勝ちだな」

 そう言い、霞はフッと笑った


「あの霧は……?」


「私の影能力、影霧(えいむ)だ。自身の影から霧を生み出すというだけだ」


「だけって……めちゃくちゃ強いじゃないですか。姿を隠して奇襲とかできるし」


「攻撃力は皆無、最終的には能力者自身の実力に左右されるような能力が強いと……?」


「いや、まぁ……でも霞さんは強いじゃないですか」


「努力したのさ、周りに置いていかれないようにな。……ところで、何をあっさりやられてる、高坂泰平」


「す、すみません…」


「今までの稽古は岳が相手だったからな。真正面からの圧倒的な力を如何に捌き、如何にカウンターを取るかが主流だった、そうだろ?」


「そうでした」


「お前は見事、格闘術の基礎を実戦レベルにまで成長させた。この短期間でな。それは見事だ。だが、私から言わせればお前には重大な欠陥がある」


「重大な……欠陥……?」


「視界が無くなると何もできないことだ」


「……え? 視界ですか?」


「先程のように視界を奪われるとお前は何もできない。それではまだまだ三流だ」


「そ、それは理不尽では……」


「確かに理不尽だ。だが戦場では何が起こるか分からない。如何なる状況でも適切に対処する必要がある。それができずに死んでいった者達を、私は何人も見ている……」


 霞が悲しげに俯く


「よし、立て。もう一回だ。今回の稽古は視界に頼らない戦い方を心がけろ」


「は、はいっ!」

(といっても視界に頼らない戦い方って一体なんなんだ? ……匂いとか……?)


 泰平の頭に犬になって匂いを辿るイメージが湧く

 直後、首を横に振ってそのイメージを吹き飛ばした


 泰平は深呼吸し、心を落ち着かせ、戦闘態勢を取る


(とにかく、今日の短い稽古の中でなにかヒントだけでも掴まなきゃ……!)


 泰平は再び間合いを詰める


 霞が霧で覆われて初め、姿が見えなくなる


 それでもお構いなしに泰平はまた拳を突き出した


 しかし、やはり当たる気配はなかった……


 直後、泰平は拳の軌道を一気に変え、右方向へ拳を振り抜く


 が、やはりそれも空を切り霞からの反撃にあう


 霧の近くにいることは危険と判断した泰平は後方に飛び、距離を取る


「大したやつだな。まさか二度目でもう防がれるとは思っていなかった」


 泰平は霧の中からの反撃を両手を交差して防いでいた


(やりにくい……。霞さんはパワーが岳さんほど無い分、技術で揺さぶってくる……! こっちの嫌なところを機械みたいな正確さで攻撃してくるからガードが精一杯……!)


「どうした、こないのか? まさか、怖気付いたか?」


 霧が晴れる中、勝ち誇ったように言った


(ここまで戦って分かった…! 霞さんは相手を誘導して隙を突く戦い方。霧で姿を消した瞬間、右に動いたのが見えた、だから攻撃をそっちに変えた。でも当たらなかった……。きっと、全ては右方向に攻撃をさせるためのブラフ…って! 俺また視界に頼って……! さっき言われたばっかりなのに!)


 泰平から汗が垂れる


(視界からの情報は極力信用しない。その上で霞さんに攻撃を当てる。匂い、音、肌への感覚。それらを研ぎ澄ます……!)


 泰平がまた霞との距離を潰す


 霞の姿がまた霧に覆われる


 泰平は今度は右足で蹴りを放った


 しかし、それも空を切った


 直後左から脇を狙った鋭い拳が放たれる


 咄嗟に左手でガードしようとするも、間に合わず直撃してしまう


 さらに霞は、裏拳で追撃

 狙いは頬

 泰平にガードする余裕はなかった


 あまりの痛みに、泰平の目には涙すらうっすら現れた


 しかし、無慈悲に再び放たれる拳


 泰平は必死にかわし、カウンターで蹴りを放つ


 やはり霧を裂くだけで霞を捉えられない


 現時点では霞が圧倒的優勢。当然と言えば当然だった

 元々の実力差に加え、泰平は観察眼という武器を封じられている

 強みを封印されれば誰であろうと防戦一方になる


(何も――何もできてない……! 攻撃も掠りもしない……!)


 泰平の心は若干折れかけていた


(こんなんで俺、実戦でやってけるのか……? みんなと違って未だに影能力どころか開脳も発現できてない!)


(初任務は柊さん達がいるから大丈夫かもしれない……。でも柊さん達がいない任務は……?俺、このままじゃすぐ死ぬんじゃ……?)


そんな思考がよぎったことにハッとした泰平は、それらを吹き飛ばすように首を振った


(馬鹿野郎……! 俺はあの日、何を誓った! 俺と同じ境遇の人をもう出さない! そう決めただろ! 例えその道中に茨が生い茂ってようが進み続ける……! 茨が皮膚を抉って、傷だらけになろうが関係ない!)


 深く息を吐く

(探れ……! 目が使えないならそれ以外で感じろ! 匂いでも音でも何でもいい!)


 目の前には、泳ぐように霧が水流のように空中を流れていた


 しかし、それらは泰平の動きを硬める要素


 それを彼は知っていた


 余計な情報を入れず、余計な感覚を閉じ、それ以外の感覚を研ぎ澄ます


 泰平はゆっくりと、目を閉じた


 視覚を閉じたことにより、触覚、嗅覚、聴覚など、他の感覚がより鋭くなっていく


 肌を伝う空気、周囲の匂い、先ほどまで感じなかったものを感じる


(もっと……もっと集中しろ!)


 泰平が集中を一層上げたその刹那――

 世界が“うるさく”なった


 風の流れが肌を刺す

 衣擦れの音が鼓膜を叩く

 自分の心臓の音がやけに大きく響く


 濃い霧の中を、泰平の感覚が掻き分けていく……

 その先で、何かが動く気配――!


 気づけば蹴りをそこに放っていた


 蹴りを放った泰平の目は、紫を帯びていた


「ッ――!?」


 辺りを震わすほどの大きな衝撃と音が響き、霧が晴れた


「お前……その威力……」

 霞は壁に叩きつけられながら呟いた。

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