第十七話 初任務直前稽古
「朝か…」
自室で起きた泰平が伸びをする。
それと同時に、昨日の夜のことが脳裏に浮かぶ。
(嫌なこと、思い出させちゃったかな?もし幻花がそれでまた落ち込んでたらどうしよう……)
そんな思いを抱えながら居間に向かった。
「お、泰平おはよ〜!」
そこにはいつも通りの幻花がいた。
作り終えた朝ごはんを居間の座卓に運んでいる。
奥の台所には燈が料理をしていた。
(昨日のことが嘘みたいだ)
「泰平? ねぇ泰平!?」
「え、あぁごめん何?」
「ねぇ、挨拶は?」
「あぁ、ごめん。」
「全く……。挨拶は基本だよ〜? 一日の始まりなんだから」
「ごめんごめん。今からちゃんと言うから」
深呼吸し、気持ちを落ち着かせ、笑顔を作る。
「幻花、おはよう」
「うん、おはよう」
幻花も笑顔で返した。
その時燈が作り終えた朝ごはんを持ってきた。
「おはよう、泰平くん」
泰平に気づいた燈は微笑みながら声をかけてきた。
「あ、お、おはよう燈さん」
(やばいエプロン姿可愛い〜!)
「キョドんなよっ」
幻花が肩で泰平をつつく。
「きょ、キョドってないしっ!」
「嘘つくなよ。バレバレだっつーの」
「だ、だから違うから!」
「なんか、二人とも仲良いね。何かあったの?」
二人が言い合う姿を見て不思議そうに燈は尋ねる。
幻花は燈を見てニヤリと笑うと泰平の腕に抱きつき言った。
「何もないよね〜? 泰平」
「な! なんで抱きつくの!」
「え〜、いーじゃん。あたしと泰平の仲でしょっ」
「そんな仲じゃないよ!」
「るせーな朝から…集中できねーじゃんかよ」
「お、鋭一おっはー。」
「朝から騒がしいんだよ。たまにはテンション下げろよ」
「そーれは無理な相談かな〜」
「さ、みんな揃ったことだし、朝ごはん食べよっ?」
四人が座卓を囲んで座る。
「いただきまーす!」
「いただきます」
「今日はどんなことするんだろう」
「早く任務に行きてぇな。悪霊どものブサイクな間抜け面が悶え苦しむところを拝みてぇ」
「鋭一くん怖いよ」
「そういう気持ちで挑んだ方が徹底的に戦えんだろ。燈もそういう気持ちを少しは持て」
「えぇ……。うーん、でもあの人たちも元は人間だし極力苦しめたくはないんだけど…」
「燈さんは優しいんだね」
泰平がフォローをいれる。
「ただの平和ボケだろ」
「そんなことないよ。人それぞれ信念がある。燈さんの信念がそれってだけだ」
「それってなんだよ。苦しめたくないーってやつか? やっぱただの平和ボケじゃねぇか」
「もー、やめなよ。朝から喧嘩しないの」
幻花が仲裁に入る。
「るせぇよ」
「ま、まぁまぁ……。ごめんね。私の発言がダメだったね」
「燈さんはなにも……」
そんなこんなでご飯を食べ終えた四人は稽古着に着替え、稽古場に向かうのだった。
***
「今夜、もしくは明日、本部から任務が入り次第出動する。心身共に準備しておくように」
稽古場に着いて早々、柊から衝撃的なことを告げられる。
柊達はいつもの稽古着ではなく、今回は黒い長羽織に黒袴を着ていた。
「いや、あの、初任務も驚きなんですけど…まずその服は?」
「これは俺たちの隊服だ。影将としての正装さ」
(そういえば、初めて会った時と同じ服装だ……)
「遂に初陣か、ウズウズするぜ……!」
「うぅ……ちょっと不安かも」
「あ、あはは……大丈夫だって燈……」
(やっぱりまだ怖いのか、幻花)
「そこで、だ。今夜出動する場合も考えて今日の稽古は早めに終わらせる。それまでは休養を取るように」
「はぁ!? 稽古はやるだけいいだろ!」
「休むことも稽古と同じぐらい大事だ。お前は少し黙ってろ。耳障りだ」
鋭一は霞を睨みつける。
柊はそれを横目に話を続ける。
「そしてお前たちに零影隊の隊服を配る。事前に聞いておいたお前たちの身長を元に作った。受け取れ」
柊が一人ずつ隊服を配る。
「あれ、思ったより軽い…!」
「そりゃあ、隊服はいわば戦闘服だからな。動きやすいように改良を重ねられている。体に慣らすために今日の稽古はそれ着てやるぞ。俺たち男は外に出るから燈と幻花は中で着替えろ」
「わ、分かりました!」
「了解で〜す♪」
泰平と鋭一は庭で着替えた。
隊服は初めて会った時に柊が着ていた服と似ている。
柊は黒の長羽織黒を身につけているが、泰平達の隊服は黒い剣道の胴着のようなものだった。
着心地は良く、見た目に似合わず伸縮性もあり、動きやすい。
「体に丁度フィットする……!」
「それは良かった。隊服は階級によって違う。見習いは少し簡素なものだが性能面での大きな違いはない。動きやすいし、悪霊からの攻撃を軽減する防護服のような役割もあるからな」
「凄いですね……! なんか、いよいよって感じがします。本当に零影隊の一員なんだって」
「まずは今夜か明日の任務の成功を考えろ。下手したら死ぬからな」
「上等だ……!」
(そうだ……ここ最近稽古に打ち込んでいたから忘れてたけど、本来は下手したら簡単に命を落とす世界だった。……手が震えてきた…まだ現場にも行ってないのに……)
そんな泰平の様子を見て岳が口を開く。
「そう脅すな。泰平、心配すんな。俺達がついてる。何かあったら守るから安心しろ」
「岳さん……! ありがとうございます……!」
「お前達が見習いから小影になれば俺たちが毎回任務に同行するということは無くなる。同行しなくなった途端死なれるのは勘弁だ。成長しろよ、泰平」
「だから脅すなっての」
「おい、着替え終わったぞ。入ってこい」
霞に呼ばれ、泰平、鋭一、柊、岳の四人は中に入る。
「お前らも様になってるな」
隊服を見に纏った幻花と燈を見て柊が言った。
(か、かわいい〜! 女子の隊服は男子とちょっと違って巫女装束っぽいんだ!燈さんの隊服姿まじで似合ってる!! 幻花もスタイル良いから何着ても似合うな……!)
泰平が心の中で叫んでいると、燈が声をかけてきた。
「ど、どうかな……? 変じゃない? 大丈夫?」
「すっっごくお似合いです!! かわいい!!」
「えっ、かわ!? あ、ありがとう……」
少し恥ずかしそうに燈が答える。
「どうよ、これ」
幻花が鋭一を試すように言う。
「あ? どうって何が」
「かわいいかって聞いてんの! なんで分かんないかな」
幻花が少し不機嫌そうに言った。
「いや知らねぇし。てか隊服なんだからかわいいもクソもねぇだろ」
「幻花もすごく似合ってるよ。かわいい!」
泰平が割り込むように言った。
「っ! で、でしょ〜?あたしはなんでも似合うし、当然だよねっ」
珍しくちょっと照れ臭そうにしていた。
「よし、今日も稽古開始だ。ウォームアップに筋トレをした後、ひたすら実戦形式で鍛えるぞ。泰平は…そうだな。今日は霞に見てもらえ。岳は影能力の方に来てくれ」
「私が? 何故?」
「敵は常に同じようなタイプとは限らん。岳は正面から殴り合ってくれるタイプだが……霞、お前は違う。泰平には今までとは異なるタイプと対峙した時、どう対処するかを考える稽古にしたい」
「なるほどな……」
「岳から聞いたが泰平はかなり強くなった。もう手加減は不要とのことだ」
「……それはつまり影能力の使用を認める、という解釈で合っているか?」
「あぁ、それでいい」
「はい!? 影能力!?」
泰平がその会話を聞き、素っ頓狂な声をあげる
「ただし、開脳、影法具の使用は禁止だ。影能力は使っても良いが怪我をさせないようにしろよ」
「分かっている。言いつけを守らないどこぞのバカとは違うのでな」
「あぁ!? 俺のこと言ってんのか!?」
「自覚があるなら治せ」
鋭一が声を荒げ、霞がそれに言い返す。
「霞と泰平は庭。それ以外は中だ。分かったらとっとと始めるぞ。時間が勿体無いからな」
(霞の影能力は開脳の発現条件、"極限の集中状態で感覚を研ぎ澄ます"にぴったりだ。上手くいけば泰平も……)




