キューはお兄ちゃん
城で青い子竜タニアを預かった健太郎達は、彼女を連れて家へと戻った。
アドルフからは取り敢えず二週間程、一緒に暮らしてみて欲しいと頼まれている。
また、タニアの食べる水産物は毎日、市場から家に届ける様にしておくので、二週間の間に彼女の好物が何か探って欲しいとも言われていた。
「この子があの時の卵、随分小さいなぁ。よろしくタニア、僕はトーマス」
「……クルル(……タニアだよ)」
タニアはキューの手を握り、トーマスにチラチラと視線を送りながら小さく鳴いた。
同じ竜族という事もあってかタニアはキューに対しては警戒心を解いたようだ。
また、キューも妹分の前ではカッコつけたいのか、タニアを気遣いずっとそばを離れずにいた。
「凄く大人しい子だね。大丈夫、この家の子は君に意地悪したりしないから」
「クルルル……(本当……?)」
見上げながら尋ねるタニアにキューは本当なの、とキュエーッと鳴いた。
「さぁ皆、挨拶して」
「こんにちはタニアちゃん、私はミミだよ」
「俺、ケント、仲良くしようぜ」
「僕はルック、よろしくね」
「僕はジェフ、ちょっと触ってもいい?」
「ジェフ、この子は女の子だよ、駄目に決まってるじゃん」
「ちぇッ、キューの鱗との違いが知りたかったんだけど……」
「それはもっと仲良くなってからだね。私はシャラ、お姉ちゃんと思って甘えていいわよ」
子供達は笑みを浮かべて次々とタニアに挨拶をしていく。
「クッ、クルル(タッ、タニアです。よろしくです)」
「「「「「「可愛いッ!!」」」」」」
ペコリとお辞儀をして鳴いたタニアに子供達の声が重なる。
「へへッ、行儀のいい竜だぜ、キュー、テメェとは大分違うなぁ?」
「キュエーッ!!(黒豹、うるさいのッ!! 今日からキューはタニアのお兄ちゃんとして生まれ変わるのッ!!)」
「ほう、では模範となる様に規則正しい生活をせねばな」
「キュエーッ!!(もちろんなのッ!!)」
ムンッと胸を張り鼻を鳴らしたキューを見て、ギャガンがグリゼルダに尋ねる。
「おい、グリゼルダ、こいつなんて言ってんだ?」
「どうも兄としての自覚が芽生えたらしい、今日からは自堕落な生活は止めるそうだ」
「ほぉ……じゃあ、いっちょ走りに行くか?」
「キュッ、キュエーッ……(そっ、それはッ……)」
言い淀んだキューをタニアの円らな瞳がじっと見つめる。
「クルル……?(キューお兄ちゃん、どうしたの……?)」
「キュッ、キュエーッ!!(おっ、お兄ちゃんはこれから体を鍛える為に走りに行くのッ!!)」
「クルルル?(体を鍛える?)」
「キュエーッ!!(そうなのッ!! お兄ちゃんはタニアを守れる強い竜になる為に体を鍛えるのッ!!)」
「クルル……クルルッ!(タニアを守れる……お兄ちゃん、大好きッ!)」
両の拳を握りキラキラとした目を向けたタニアに、キューは得意げに胸を張った。
その後、自分から玄関を飛び出し午後の日差しの中、走り込みを始める。
「へへッ……よぉチビ竜、俺はギャガンだ。礼を言うぜ、あいつをやる気にしてくれてよぉ。竜の王って言われてる赤竜があの腹じゃ情けねぇからなぁ」
ギャガンがそう言ってタニアに手を伸ばすと、彼女はビクリッと体を震わせたが、ギャガンが優しく頭を撫でるとやがて彼を見上げクルルと鳴いた。
「さて、トーマス、グリゼルダ、俺達も走りに行くか?」
「分かりました師匠」
「ギャガン、今日は走り込みの後、お前に魔術の基礎を教えてやろう」
「おう、頼むぜ」
ギャガン達が走りに出るとタニアは子供達に囲まれ最初は戸惑っていたが、やがて一緒になって遊び始めた。
その様子を見ていた健太郎はやっぱり子供は凄いなと改めて思った。
馬車で家へと向かう間、タニアはキューの手を握りずっと不安そうにキョロキョロしていた。
言葉の分かるグリゼルダが話しかけ不安を取り除こうとしていたが、武骨な喋り方のグリゼルダではタニアの不安を払拭する事は出来なかったようだ。
恐らく城では周囲に人間の大人しかいなかったのだろう。子供達と遊ぶタニアは、健太郎にはとてもリラックスしている様に見えた。
「コホー」
大丈夫そうだね。
「そうだね、それじゃあたしは晩御飯の用意をするとしようか」
「コホーッ?」
あっ、そうだミラルダ。ミミが言ってたんだけどこの近くに護身術を教えている所があるの?
「護身術? ああ、転生者のヨウさんがなんとか拳いう武術を女の子達に教えてるんだよ」
転生者、それになんとか拳……ワンチャン、八極拳の可能性も……。
「コホーッ!」
それ、俺も習いたいんだけどッ!
「あんたが武術を? 必要ない様な気もするけど?」
「コホー……」
この体は力が強すぎるからさ、それにビームや変形だと強力過ぎて誰か殺しちゃうかもだし……。
「うーん、確かにあの赤い光や巨大化、それにバリスタは危ないかもねぇ……分かったよ。まだ時間があるしヨウさんとこ案内してあげるよ」
「コホーッ!」
サンキュー、ミラルダッ!
「いいって事さ。みんな、あたしゃちょっとミシマを案内してくるから、タニアの事、頼んだよ」
「分かった、任せてミラ姉」
「よろしくね、ケント。じゃあミシマ行こうか」
「コホーッ!」
んじゃ、みんな言ってくるね!
「「「「「行ってらっしゃい!!」」」」」
「……クルル(……行ってらっしゃい)」
健太郎が右手を上げると一斉に子供達の声が響き、遅れてためらいがちなタニアの鳴き声が聞こえた。
その声に送り出され、健太郎とミラルダは護身術を教えているというヨウの道場へと歩みを進めた。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




