小さな青い竜
馬車に乗り金髪角刈りおじさん、アドルフの城へ辿り着いた健太郎達は彼の謁見室へと通された。
壇上の椅子に座るアドルフはキューを見て目を丸くした後、笑みを浮かべうんうんと頷いた。
「すまねぇな、いきなり呼び出したりしてよ。一応新顔に挨拶しとく、俺はフィッシュバーン伯爵領の領主、アドルフ・フィッシュバーンだ」
「私は魔人族のグリゼルダだ。ミラルダの所で厄介になっている。よろしく頼む」
「おう、よろしくなッ、グリゼルダッ!!」
アドルフは右手を上げグリゼルダに向けてニカッと笑う。
「それで伯爵様、御用は何でしょうか?」
「いやな、竜が獣人に走らされてるって噂を聞いてよ……実はな、お前らに取って来てもらった卵が孵ったんだ」
「青竜の卵が?」
「ああ、それでちょっと問題があってな……タニア、ほら、お前ぇと同じドラゴンだ。キューはお前ぇと同じダンジョンにいたらしいから、兄貴みてぇなもんだぜ」
アドルフは立ち上がり椅子の後ろに回ると、何かを抱き上げ再度椅子に腰かけた。
彼の胸には服にギュッとしがみ付き、不安げにこちらに視線を投げかける青い鱗の子竜の姿があった。
「クルルルルル(お兄ちゃん……それとあの青い人……気になるけど……やっぱり怖いよう……)」
竜の視線は順繰りとミラルダ達を見廻し、キューと健太郎を見た時だけほんの少し輝きを増したがそれも直ぐに治まり、最後はアドルフの顔を心細そうに見上げた。
「キュエーッ!!(凄く小っちゃいのッ!!)」
「コホーッ……」
あの青い鱗の竜の子供か……なんか繊細そうな子だなぁ。
「へへっ、こいつはタニア、暫く前に生まれて俺には懐いてくれたんだが、見ての通り人見知りでよ。その上、食が細くて少し心配でな」
「食が細い、うちのキューは何でも良く食べますが……」
「おう、それだッ! コロコロした竜が街中を走ってるって聞いてな。タニアも運動すりゃ飯も食う様になるんじゃねぇかと」
「ふむ……キューが丸いのはそもそもこいつが食い意地が張っているからだ。それに竜といっても種族に個体差がある……タニア、食事には満足しているか?」
グリゼルダがアドルフに抱かれた子竜に視線を送り尋ねる。
「……クルル……(……えっと、あんまり……)」
「ふむ、満足はしていないか……伯爵、タニアにはいつも何を?」
「へぇ、魔人族ってのは噂通り竜と話が出来るんだなぁ」
「まあな」
「へへッ、来てもらった甲斐があったぜ」
「で、いつもは何を食べさせている?」
「大体は俺と同じ物……そうだな肉が多いな。野菜も付けちゃいるがあんまり食べねぇ」
「そうか……青竜ということは……」
グリゼルダは顎に手を当て何やらブツブツと言い始めた。
「コホー?」
竜って肉食なんじゃないの?
「どうなんだろうねぇ、そもそもキューは出した物は何でも食べるからねぇ」
「キュエーッ!!(獣耳の人のご飯はいつも美味しいのッ!!)」
キューはそう言うと嬉しそうに飛び跳ねた。その拍子に丸いお腹がタプンッと揺れる。
「……ギャガンでは無いが、これはこれで問題ありだな……伯爵、タニアに魚を食わせた事はあるか?」
グリゼルダは揺れたキューの腹をジトッと見た後、アドルフに視線を戻し尋ねる。
「魚かぁ……ねぇな。俺はちまちましたのが苦手で、魚は骨が多いからあんま好きじゃねぇんだよ。だから魚がテーブルに並ぶこたぁねぇんだ」
「そうか……青竜は基本、水辺で暮らす竜だ。自然と食料は水産物になってくる。タニア、肉はお前には脂っこ過ぎたんじゃないか?」
「クルルル……(うん、ギトギトで少ししか食べられない……)」
「やはりか……伯爵、今日からはタニアには魚を出してみてくれ、焼いたもの、煮たもの、あと生のままでも……ほかには水草や貝、蟹とかも食うかもしれん。味付けは無しで」
「なるほどなぁ……タニア、悪かったな、俺の好みに付き合わせてよ」
「クルルルル(いいよ、パパ大好きだから)」
そう言うとタニアはアドルフの胸にスリスリと頭を擦り付けた。
「コホーッ……」
何だか凄く可愛いな……うちの食いしん坊と交換して貰えないだろうか……。
「ミシマ、キューだって可愛いじゃないか、そんな事、言うもんじゃないよ」
「コホー……」
いやだって、コイツ、基本食っちゃ寝してるだけだし、後は俺の手を噛んでるだけなんだもん……それにいつか食われそうでさぁ……。
「フフッ、手を噛んでるのはきっと甘えてるのさ」
「キュエーッ(手を噛んでるのは硬い人は噛むと落ち着くし、それになんかホワーッてなるからなのッ)」
「……ホワーッ……ミシマの身体は竜にとってマタタビ的な何かが……」
キューの言葉を聞いたグリゼルダの呟きはその後、アドルフが発した声にかき消された。
「食い物の事はそれでいいとして、俺としては人見知りの方もどうにかしてぇんだ。いずれ領民にもお披露目してぇからよ」
「コホーッ……」
もしかして依頼の時に言ってたあれを……。
「クルルル……(パパ、一体何を……)」
タニアは不安げにルドルフを見つめている。
「へへッ、心配すんな、人に慣れる為にしばらくミラルダんトコで暮らして欲しいだけだ。どうだミラルダ、頼めるか? 勿論報酬は弾むぜ」
「そりゃあ、別に構いませんけど……」
「クルッ!?(えっ、やだッ!?)」
タニアは涙目になりフルフルと首を振った。
その姿は怠けたいだけのキューとは、大分温度に差がある様に健太郎には感じられた。
「コホーッ?」
無理強いは良くないんじゃない?
「確かにね……伯爵様、嫌がってるのをムリにやらせても良いとは思えませんが?」
「うーん……タニア、そんなに嫌か? 俺はいつかお前の背に乗って、一緒に大勢の人の前を歩きてぇんだが?」
「コホー……」
やっぱりそれか……。
「……クルルルル……(……パパと一緒に……分かった、タニア頑張る)」
タニアはアドルフの胸に顔を埋めるとスーッと思い切り匂いを嗅ぎ、気持ちを振り切る様にピョンと彼の膝から飛び降りた。
その後、健太郎達の前までトテトテと歩くと、三人と一匹を見廻しペコリと頭を下げる。
「クルッ、クルルルル(あっ、あの、タニアだよ。よろしくお願いします)」
「コホー……」
うわぁ、可愛いなぁ……。
「確かにこりゃ、可愛いねぇ」
「ふむ、それに随分しっかりしているな」
「キュッ、キュエーッ!!(そっ、そんなちびっ子よりキューの方が可愛いし、しっかりしてるのッ!!)」
「クッ、クルルルル(あッ、あの、キューお兄ちゃんもよろしくです)」
「キュエー……キュエーッ!!(キューお兄ちゃん……任せるのッ!! キューがしっかり面倒みてあげるのッ!!)」
妹分が出来たキューはその事が嬉しかったのか、得意げに胸を張りその胸をドンッと叩いた。
お腹の肉がタプンッと揺れた。
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