丸い竜と伯爵からの呼び出し
金竜王の迷宮からクルベストへと戻った健太郎達は、レベッカの家でのんびりとした時間を過ごしていた。
帰宅時には子供達はふわふわになったミラルダの髪に驚き、何があったのかといつも通り話をせがんだ。
ミラルダはレベッカも含めた家族に今回の出来事を物語の様に語り、幼い子達は目をキラキラと輝かせ、年長のトーマスはまた無茶な事をと呆れ、レベッカは寅三郎みたいな事してるねぇと苦笑を浮かべていた。
健太郎も子供達の一人、ジェフに約束していた竜の鱗を渡したり、トーマスにへし折ったシャーリアの牙を渡したりした。
そんな感じで家に特に大きな変化は無かったのだが、一つだけ、キューだけは出掛けた時よりも更に太く丸くなっていた。
起き出して来た真ん丸なキューにギャガンが牙を剥き尋ねる。
「テメェ、走り込みはしてたのか?」
「キュッ、キュエー……(そっ、それはその……)」
「してないですよ、師匠。誘ったんですけど、引っ張っても動かなくて……」
「そうか……じゃあ、今日から走り込み再開だなぁ……」
「キュッ、キュエーッ!!(いっ、嫌なのッ!! キューは美味しい物を食べてのんびりするのが好きなのッ!!)」
涙ながらに訴えたキューにギャガンはふぅとため息を吐いて、首を横に振り説得する様に話す。
「なぁ、キュー。今回、いろんなドラゴンを見たがテメェみてぇに太ってる奴は一匹もいなかった。つまりテメェは普通のドラゴンの体形じゃねぇって事だ……お前も同族に会った時、色々言われんのは嫌だろう?」
そう言ってキューの肩に手を置いたギャガンの問いに子竜はフルフルと首を振る。
「キュエー……(別に何を言われてもいいの。キューは他の人と違う、ナンバーワンじゃなくてオンリーワンだから……)」
「……ミシマと同じでお前も何言ってんのか分からねぇが、どうも嫌らしいな?」
「キュエーッ!(そうなの! 黒豹分かってくれたッ!?)」
ブンブンと嬉しそうに何度も頷くキューにギャガンはニタッとした笑みを浮かべる。
「クククッ……そうか嫌か……だが駄目だ、そのたるんだ体は見ていて不快だ。そういう訳だから走り込みだ!! ついて来いッ!!」
「キュッ、キュエーッ!!(嫌なのッ!! 助けて硬い人ッ!!)」
「あっ、こらッ!」
キューは腕を掴んだギャガンを振り払い、リビングでミミと遊んでいた健太郎に泣きついた。
「コホーッ」
キュー、俺もお前は太り過ぎだと思うぞ。ギャガンが言った通り他のドラゴンは皆シュッとしてたからな。ちょっと走って来なさい。
「そうだよキュー、ミミも少しは運動した方がいいと思うよ」
「キュエー……(硬い人……ミミ……)」
ジェスチャーで走れと健太郎が伝え、それにミミも賛同すると、目に涙を浮かべたキューは今度は朝食の準備をしていたミラルダに泣きついた。
「キュエー、キュエー!?(獣の耳の人はそんな事、言わないよねッ!?)」
「ん? 何だいキュー? 運動しないとご飯はあげられないよ。流石にそんなに丸くなっちゃあ、あんたの身体が心配だからねぇ」
「キュッ、キュエー!?(そっ、そんなッ!?)」
わなわなと両手を動かしキューはミラルダから後退ると、最後の砦とばかりに二階の書斎でミラルダの蔵書を読んでいたグリゼルダに助けを求めた。
「キュエーッ!!(助けて角の人ッ!! 黒豹がキューを無理矢理走らせようとするのッ!!)」
「……ふむ、走り込みか……ギャガンに剣を教わるにしても基礎体力は必要だな……私も付き合うとするか」
「キュッ、キュエーッ!?(なっ、何言ってるのッ!?)」
「何って、エルダガンドの軍は魔法主体ではあったが、体力づくりに走る事はしていたぞ。それにその体じゃもう飛べないんじゃないのかお前?」
「キュッ、キュエー……(そっ、それは……)」
言い淀んだキューに背後から射す様な視線が向けられた。
「キュエー……(何なの……)」
書斎の入り口に立ったギャガンが、逃げ出したキューに妙にギラギラした目を向けている。
「……キュー、行くぞ」
「ギャガン、私も参加しよう」
「おう」
「ほら、キュー。きっと運動した後の方が食事は美味いぞ」
「キュエーッ!!(運動なんかしなくても、いつだってご飯は美味しいのッ!!)」
「いいから早く来いッ!」
「キュエーッ!!(いやぁッ!!)」
走りたくないと駄々をこねていたキューだったが、その後、グリゼルダの浮遊魔法で無理矢理外に連れ出され最終的にはギャガンの指導の下、一時間かけて街の中をランニングする事となった。
■◇■◇■◇■
それから一週間程が過ぎた。
朝のランニングから戻ってくるなりへたり込んだキューを横目に、朝食を終えたギャガンはクエストの間も走り込みを続けていて基礎体力の付いたトーマスとグリゼルダを連れて庭で剣術の訓練を始めた。
その様子を見たミミが健太郎を見上げ問い掛ける。
「ドラ○もんは練習しないの?」
「コホーッ……」
練習か……この体のパワーで剣を使うと簡単に人を殺しちゃいそうだし、覚えるならやっぱ格闘技がいいんだよね。
そう言うと健太郎はミミに拳を上げて、軽くパンチを打ち出す仕草をして見せる。
「パンチ? あっ、ミミ、知ってるよッ!! ごしんじゅつって言うんだよねッ!! エッチな人を懲らしめるって隣のお姉さんが習ってるって言ってたッ!!」
「コホー……」
護身術……この世界の体術か……習うなら八極拳だと思っていたが、それも面白そうだな。後でミラルダに聞いてみるか……ありがとなミミ。
「えへへ」
そんな事を考え健太郎が教えてくれたミミの頭を撫でていると、玄関の扉がコンコンっとノックされる。
「はいはい、ちょっと待っておくれ」
エプロンを付けたミラルダが台所から出て玄関の扉を開ける。
そこには青い軍服を来た青年が敬礼しながら立っていた。
「貴女がミラルダ様でしょうか?」
「ミラルダはあたしだけど、あんたは?」
「伯爵様の使いで参りました」
「伯爵様の?」
「ハッ、竜の事でお尋ねしたい事があるとの事です。馬車をご用意しておりますので、ミシマ様、キュー様、それと魔人族の方、グリゼルダ様とご一緒に城までご同行お願いできますか?」
「竜の事で……分かったよ。準備するからちょっと待っておくれ」
ミラルダは頷いた青年に頷き返すと、リビングにいた健太郎、そしてソファーでぐったりしているキューに声を掛ける。
「聞こえてたね二人とも?」
「コホー……」
ああ、竜の事……青い鱗の竜の卵に何かあったのかな?
「そうかもしれないね。とにかく行ってみようじゃないか」
「キュエー(キュー、もう動きたくない)」
ソファーに寝そべり動く様子のないキューにミラルダはしょうがないねぇと、エプロンを外しながら苦笑を浮かべた。
その後、ミラルダは庭にいたグリゼルダに声を掛けギャガン達に出掛ける旨を伝えると、彼女は鞄を肩に掛けそこから杖を取り出した。
「万能なる魔力よ、彼の者と大地との軛を断ち切れ、浮遊」
「キュエーッ!?(またコレッ!?)」
「じゃあ行こうかミシマ、グリゼルダ」
「コホーッ」
おうッ。
「了解だ」
「それじゃあミミ、お昼は用意してあるからみんなと食べておくれ」
「わかった。行ってらっしゃいミラ姉!」
「ああ、行って来ます」
「ドラ○もんとキューとグリ姉も行ってらっしゃい!」
「行って来る」
「コホーッ!」
行ってきますッ!
「キュエーッ!(キューは今日はもう動きたくないのッ!)」
そんな叫びも虚しく、宙に浮かんだキューを連れてミラルダは健太郎達と共に馬車に乗り、金髪角刈りおじさんことアドルフ・フィッシュバーン伯爵の待つ城へと向かった。
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