その13
「久しぶりダナ」
「なにを……」
「えー、少しぐらい話をしてくれてもいいじゃないカ」
開口一番、そいつはいつもの調子だった。
が、その『いつも通り』が俺の神経を逆撫でた。頭には血が上る感覚がし、心はどんどん塗り潰されていく。
「……まぁいいサ。それにしても一人かイ? 途中までは色んな人がいたと思ったんだケド」
「…………」
「もしかして……もしかして、『俺に任せて先に行け』なんて展開ガ?」
「………………」
「うわーすごいじゃないカ、いいないいn」
それ以上、そいつの言葉は聞こえなかった。そこまでが、我慢の限界だった。
後から考えれば、それ以外にも理由はあったのかもしれない。気がつけば俺の体は、ナイフを抜いて飛びかかっていた。すでに目の前にはトカゲの顔がある。
「あああああぁぁぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」
その勢いのまま武器を突き出すも、体の一捻りで避けられる。それでもなんとか一撃見舞おうと、二三とナイフを振り回すが、その切っ先はかすりもしない。
「いいネ。いい敵意だ。それもいい具合に馴染んでいるみたい、ダ!!」
「ぶっ……!」
続いての四撃目。それをくるりと体を回して避けられ、その回転を利用した蹴りが飛んでくる。見事なまでに攻撃を躱された直後だったこともあり、その蹴りは俺の顔面に吸い込まれた。
「かはっ!!」
蹴りを受けた体は、その勢いを殺すことないまま、入り口付近の壁に叩きつけられた。
当然、壁も硬くはなく、痛みはない。が、それでも殺しきれなかった衝撃が、体を駆け巡る。肺からは空気が搾り出され、喀血する。
壁から離れた体は重力に従い、今度は地面に叩きつけられた。
「ぐ……」
手をついて、立ち上がる。痛みはあるし、手も少し震えている。でも、ここで倒れるわけにはいかない。
悔しいが、あいつの言った通り、俺はみんなに託されてきたのだから。なにより、妹の、白奈のことも……。
そこまで考えてようやく。そう、ようやく僅かな違和感に気がついた。
「おや、ようやく気がついたカイ?」
動きが止まったのを見てか、そんな言葉が飛んできた。
そうだ。思い返せば違和感を感じる部分なんて、いくらでもあった。そもそも、どうしてドラゴンを倒そうと思った?
なぜ、白奈を助けることでなく、『それ』のためにナツメの手をとった?
違和感を感じる様な場面を思い返していくことでようやく、気がつく。
「まさか、あの感覚は……」
「正解、おみゴト。うん、君が感じていた黒いモノは、僕が仕込んだのサ。少なくとも僕が近くにいる時、君がそんな風に思える様にサ」
つまり俺が、ナツメの手を取り『桜花戦線』に参加したのも、ドラゴン共を見れば殺意が湧いたのも。その度に心が黒いモノに塗り潰されていく感覚、つまりは奴の仕業だった。これまでのことはほとんど、奴の掌の上だったということだ。
「くく……」
「……? どうしたんダイ」
思わず笑いが漏れる。
そんな俺の反応が面白くなかったのか、トカゲの声はどこか不機嫌そうだ。
ああ、そうか。確かにここは絶望するところなのかもしれない。だが、俺はそうではなかったらしい。
理由はどうあれ、俺は今ここにいる。倒すべき敵、助けるべき相手が目の前にいる。
ならば後は、するべきことをするだけだ。
「ああ、なるほど。君はそう考えるタイプカ。だったらちょうどイイ。もう一つの方もネタ明かしをシテしまおうか」
そう息巻く俺に、そんな言葉降ってきた。




