その6
「…そうか、十数人、と言ったところか」
「いやー、流石に全員は救えなかったっすね。すいませんっす」
「何を言う、あの状況の中でよくこれだけの人数を救ってくれた。私はお前たちを誇りに思うよ」
「いやー、そんな、照れるっすよ〜」
帰投後。俺たちは例に漏れず、ナツメのいる作戦室にやって来ていた。
他でもない、今回の報告をするためだ。
ナツメの手元には資料。俺たちが車内で眠りこけている間に、他の人が作成してくれたらしい。細かいところは俺たちが加筆したが、ほとんど出来上がっていたものに何点か加えただけだ。
結局、救出できたのは18人。そのいずれも、大なり小なり怪我を負っている状態で、だ。
それでも、ナツメは今回の結果に満足とは言わないまでも、納得をしてくれたらしい。
「疲れただろう? 今日はここまでにしてやるから休んでこい」
「んー」
「どうした?」
「いや、それなんすけどね。最後に俺たち寝てたじゃないっすか。それでなんか元気になってるっぽいんすよね…だからーー」
「誰が、肉体的な疲労だと言った?」
「へ?」
「裕二を見てみろ」
ぼんやりと思考をしていると突然、ナツメから話を振られる。それに呼応して、マークもこちらを覗き込んでくる。
突然の居心地の悪さにたじろいだ瞬間。
「うわ、裕二、顔色どうしたんだよ!?」
マークに指を刺される。それほどひどい顔色なのだろうか。が、それを言うならマークだって。
「言っとくがお前も大して変わらないからな?」
「げぇ、まじっすか!?」
ひどい顔色だ、と言おうとしたところでナツメにセリフを取られる。飛び出しかけた言葉は、あえなく喉の奥に引っ込んでいった。
「まじだ。あれほど人の悪意に晒されたんだ。精神的に疲れていてもおかしくない。だからこその休息だ」
「それなら、了解っすよ。行こうぜ裕二」
「ん? ああ……」
未だ頭はぼんやりするものの、マークに肩を組まれ、一緒に退室する。
そうして、今回の作戦は幕を閉じたのだった。
ーー
他に人がいなくなった作戦室。部屋のあちこちで動作しているシステムやハードの稼働する音以外、何も聞こえてこない部屋で。さっきまでいた二人を思いながら、ナツメは思索に耽っていた。
(クソ! ……やってくれるじゃないか!!)
続いてドン! と机を叩く音。他でもない、彼女自身が、目の前の物を殴り、出した音。
そうして彼女が悔しそうに睨む先には、モニターに映る一体の影の存在があった。
ーー
「なぁ裕二、せっかくだし風呂でもーー」
「いや、今日は…いい…」
「そうか、ってお前さっきよりやばい顔になってるぞ? 大丈夫か!?」
振り返ったマークからそんな言葉が飛んできた。それに対しては大丈夫、と返すものの、正直そのマークの声で吹き飛びそうだ。
頭が痛い、足がふらつく。まともに思考がまとまらない。
「悪いが俺は部屋に戻るよ」
「お、おう。気をつけてな」
そう言ってマークと別れてから、できるだけなんでもない様に歩く。…いや無理だ。視界がふらつく。足が地面についていない様な気さえする。
そんな状態で真っ直ぐ歩けるわけもない。すぐに隣までやって来たマークが肩を貸してくれてようやく。
俺の部屋の前までやってこれた。
「ほら、ついたぞ」
扉を開く。そこにはトカゲの姿が。
「おワ! びっくりシタ。ゾンビが襲って来たのかと思ッタ」
「はは、ハロウィンなら大人気っすね…。ってそれどころじゃないんすよ。裕二の奴、気分が悪いみたいで」
「おっと、そりゃ急がないト。奥に運んでクレ」
言って道が開けられる。そのまま裕二は部屋に入り込み、俺を寝台へと転がした。
「これでよし、っと」
「ふーム、体調は問題ない様に見えるガ…?」
「っす。どうも精神的に疲れたらしくて」
「マー坊は大丈夫なのカ? お前も似た感ジに見えるが」
「ああ、俺は大丈夫っすよ。これから風呂でも入ってスッキリして来ます。そうすりゃ、これぐらいすぐ回復しますから」
そう言って、立ち上がるマーク。そう言いつつも、彼自身限界なところもあるのだろう。それでもここまで運んでくれたことにお礼を、と意識を持ち上げたところで。
「……」
「ありゃ、寝ちまったカ」
限界だった意識はそのまま一度落ちた。
ーー
「…?」
目を覚ます。あたりを見ると暗闇。だが、おそらく俺の部屋なのだろう。どことなく安心感に似たものを感じる。
トカゲはもう寝たのだろうか。そう思って、あたりに意識を向ける。
「……が、もう、始まるんダナ」
一部が聞き取れない様な声がすぐ真横から聞こえてくる。トカゲだ。
それが何かを問いただす前に、トカゲは席を立ち、そして。
ドアの開いて閉まる音がした。そうして部屋はまた、静かな場所になった。




