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ファンタジーハンター  作者: Who
恐怖と救い
19/49

その5

「ほらほら、大人しくしてくださいっす!」

「やめて、離して!!」

「大人しくしろって!」

「いやー、拐われるー!!」


……まるで悪役ヒールの様だ。

いや、まるでもなにも、彼らにとってはまさしく悪役なのだろう。

人の群れに駆け寄り、最初に近づいた肩を掴んで、振り向かせる。そうしてその体にいくつか打撃を入れるも、少しも大人しくなってくれない。

それどころか、逃げ出そうと暴れられてしまう始末だ。


「クソ!埒が明かない」


マークがこぼす言葉にも頷くことしかできない。

幸か不幸か、ドラゴンには人がアリの様に群がり、碌に動けていない。それ自体はいいのだが、あまりに人が多すぎる。

一人捕まえているうちに、二人が逃げ出す様な始末。それではいくらやっても意味がない。かと言って気絶させれば、それは大きな荷物が一つ増えるだけだ。

ーーと。


キュルルル、キキィ!!


少しばかり甲高い音。車のブレーキが聞こえてくる。


「こちら輸送班、現地に到着した。……そこの二人、聞こえるか? こちらには鎮静剤の用意がある。一人ずつでもいい、連れて来てくれ!!」

「待ってました!」


車のドアが開き、そんな声が聞こえてくる。それは、今の俺たちにとっての救いの言葉。ドラゴンに群れる人たちにとっての恐怖の声だった。


「まず一人、頼みます!」

「いや、やめて、わたしは、ぁーー」


一人確保。

奇しくも、その最後の声はメガネの男のものと似ていた。


「よし、どんどん頼む。まだ空きスペースはあるからな」

「了解っす」


無言で頷く。次だ。とにかく今は一人でも多くーー


(しろ、な……?)


振り返り、ふと、その姿を見る。いいや、違う、ありえない。だって白奈は既に。

そう思いながらも、その似姿に近寄る。肩に手を置き、そして。


「やめてください」

「っ、やめろ」


違った。当然だ。なぜなら彼女は既に死んでいるはずだから。

それでも、今目の前の人は生きている。肩に置いた手は、まだ離れていない。


「ちょ、離してください!」

「落ち着け、馬鹿なことはやめろ!!」

「そうよ、馬鹿よ! 馬鹿だから死ぬの!!」

「馬鹿だから死ぬ? それは流石に甘えすぎっすよ」


目の前の彼女に手を振り払われた後、突然、横からマークの声が飛んできた。

直後にバヂッ、という音がしたかと思うと、急に彼女の体から力が抜ける。

目も閉じられ、まるで気絶でもしたかの様な……。


「マーク、それは?」

「これっすか? さっき借りて来たっすよ」


言って、自慢げにマークは手の中の黒い物体を見せつけてくる。

一対の突起がついたそれは、マークがスイッチを押すたびに、青白い光を産みながら、バヂ、バヂヂ、と音を立てている。紛れもなく、スタンガンそのものだ。


「いやーやっぱ便利っすね、こういうの」


そう言いながら次々と人を気絶させていくマーク。そうして気絶した人たちはそのまま車まで運ばれ、そして知らない場所で目を覚ます、というわけだ。

やはり俺たちは悪役なのだろうか。



ーー



「ここまで、っすね」


現在、ドラゴンは未だに、人に群がられている。が、地上に残っている人は全て回収した。流石にそれ以上は俺たち自身の命に関わってくる。

それをわかっているのか、ナツメも続けろ、とは言ってこない。

加えて、彼らをドラゴンから引き剥がすと、まず間違いなくこの車も襲われるだろう。なにせ、人の命をたくさん積んだ、宝箱のようなものだ。

一人救うために、これまでの成果を無駄にしてしまっては意味がない。


「ああ、行こう」


俺たちは踵を返し、車に乗り込む。

二台来ていた車も、俺とマークが乗り込めば、二台ともほぼ満席だ。よくもまぁ、これだけの命を運び込んだものだ。

俺たちが乗り込んだのを確認すると、車は静かに、それでいて迅速にその場を後にし始めた。俺たちが助けきれなかった、人たちを置いて。手の届いた人たちを助けるために。


「どうした? さすがの裕二も疲れたのか?」

「ああ。少し、な」


マークの軽口に答えるのもそこそこに、目を閉じる。

全ては救えなかったが、それでも俺は確かに人を救ったのだと、そう思いながら。


後日。

その埠頭にはいくつかの水死体が散見されたらしい。

無論それは、俺が諦めた命、俺たちが見捨てた命だったのだろう。

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