汗臭い
○
「美奈子さん…オレ、勝ちました」
目を開けたら、そこに孝太がいた。
布団から出た彼は、美奈子に前に座っていたのだ。
勝った?
一瞬、何のことか分からなかった。
ただ、その腫らした顔の孝太は、とても誇らしげで。
それが、たとえケンカに勝ったという意味であっても、他の意味であっても、どうでもよかった。
「「そう…おめでとう」」
勝った負けたより。
孝太が、いまここにいてくれることの方が、本当は嬉しかった。
その気持ちを、美奈子は隠さず言葉に乗せる。
言葉だけでは、足りなかった。
本当に、本当に嬉しくて。
両手を、伸ばしていた。
「「おめでとう…おめでとう」」
意味なんか分かってないのに、孝太の首にかじりついて、美奈子はただそれを繰り返す。
彼は汗臭かったが、そんなことどうでもよかった。
いや。
臭かったからこそ、そこにちゃんと彼がいるのだと、これは現実なのだと、自分の身体に教えられたのだ。
「あの、み、美奈子さん…」
戸惑った、うわずる声。
はっとする。
そうだ。
突然抱きしめられたら、彼だって驚いて当然だ。
「「あ、ご、ごめんなさい」」
美奈子が、慌てて離れようとしたら。
身体が、逆に戻ってゆくではないか。
え?
磁石でもついているかのように、自分の身体が孝太に押し付けられたのだ。
強い力で。
え?
「み、美奈子さん…」
孝太の腕によって、彼女は強く強く抱きしめられていた。
ええっ?