5話 幸せな時間
※男性同士の恋愛を含みます。
苦手な方はご注意下さい。
栄斗は無言で傘を少し持ち上げ、隣に入れるよう場所を空けた。
「…飯、まだなら、行かね?」
慧斗が言うと、歩き出す
目的地は決まってないのに…。
「…俺ん家来る?」
ポツリと慧斗が言う。
「いや!ごめん今の無し!
違うんだ、栄斗の部屋に行ったけど、俺の部屋にはまだ招待してないし、昔みたいに、飯作ろうか?って思っただけで…別に何かあるわけでも――」
「行く…久しぶりに慧斗のナポリタン食べたい。」
慌てて話す慧斗を、遮るように栄斗は言った。
慧斗は驚きと嬉しさで、目を見開いた。
「うん、良いよ。…じゃあ行くか。」
「ビール買ってこ?」
「良いね。」
少しぎこちない雰囲気の二人も、慧斗のアパートへ着く頃には、いつも通りに戻っていった。
「…適当に座って。」
「…うん。慧斗ぽい部屋…。片付いてるな。」
「お前が散らかし過ぎなんだよ!」
そんな軽口な会話をしていると、栄斗の肩へ目がいく。
「栄斗!肩濡れてる。ごめん、俺が傘入れてもらったから…。待って今、お湯溜めるから。」
「ははは。そんな慌てなくて良いから。」
慧斗がバタバタとバスルームへ行く。
(上、脱いじゃおう。)
そう思いながら、栄斗は濡れた服を脱いだ。
そこへ慧斗が戻ってくる。
「っ!」
視線が交じる。
先に逸らしたのは慧斗。
「待ってて、スウェットがあるから。」
俯きながら、栄斗の前を通る。
「っ!?」
腕を掴まれ、引き寄せられる。
「…慧斗、顔赤い…。」
そう言うと、さらに慧斗を抱き寄せる。
「…えい、と…?」
「しー。俺の心臓の音ヤバくない?」
耳を澄ますと、今にも破裂しそうなくらい早い。
「そんな事言ったら、俺も…。」
栄斗の背中に腕を回して、抱き締める。
「ホントだ…。もうどっちがどっちかわんないわ」
そう言って顔だけ離すと、真っ赤になって見つめ合う。どちらかともなく再び唇を重ねる。
降り続く雨音だけが、静かな部屋に響いていた。
気怠い感じのまま目を開けると、栄斗と目が合って飛び起きた。
「っ!いつ、から、起きてた?」
「10分くらい前?」
ニコニコとしながら栄斗は言う。
「お、起こせよ。」
「そんな動揺すんなよ。」
いつもと同じ笑った顔なのに、なんだか違って、くすぐったかった。
そしてグゥ〜。と同時に鳴ったお腹の音が、幸せな気持ちにさせた。
「腹減ったな。
あっ!と、すぐナポリタン作るから、シャワー浴びてきな。」
「うん。ありがとう…」
少し慌ただしい慧斗に、栄斗は聞く。
「今日、授業?」
「うん午後から。栄斗は?」
「俺、朝から…。」
少し気まずそうに栄斗は目を伏せた。
「え!?大丈夫?」
「うん…。」
(あまり良くないけど…。もう遅いしな…)
「今から行く?うちからじゃ遠いか…。」
慌てる慧斗に、栄斗は優しく微笑むと、ちゅっと触れるだけど口付けをした。
「なっ!」
顔が赤くなる慧斗。
「大丈夫だから、今日ここに居ていい?」
「え、あ、うん。」
「ははは。シャワー借りるね。」
「おう…。」
(なんだよ、幸せかよ。)
慧斗は赤い顔のまま、ナポリタン作りを始めた。
「ごめん。皿、流しに置いといて、帰ったら片付けるから。」
「いいよ俺やっとく。」
「…ありがとう。じゃあ、行ってきます。」
「うん、行ってらっしゃい。」
名残惜しそうに、慧斗はドアを開けた。
(同棲してるみたい。)
(一緒に暮らしてるみたい。)
二人は同じ事を思っていた。
つづく。
慧斗と栄斗の初めてを、ムーンライト版として書いてみました。
良かったらそちらも読んでみてください。




