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エピローグ

 無事に完結までこぎつけました。

 繋いで紡いだお話でした。

 皆様に感謝です。

 

 4月1日。

 環は目覚めた。

(おっ・・・お?おお)

 ベッドから飛び起き、二三度ジャンプする。

 この日、すこぶる身体が動くのを彼女は喜んだ。

 だが、今日がお別れの日だと認識した。

「そっか・・・ありがとう私の器」

 小さく呟き、手を合わせ感謝する。

「そうとなれば・・・」

 彼女はとっておきの白いワンピースに着替えた。

 それから母に長い髪を梳いてもらい、オキニの赤いリボンを巻いた。

「お母さん、ありがとう」

「どういたしまして」

 親子は笑った。

 

 玄関へと向かう環に、家族のみんなが見送る。

「お母さん、お父さん、お兄ちゃん、いってきます。ありがとう」

「なに急にありがとうなんて」

 そう言う母に、

「いいじゃん。ありがとうって素敵な言葉だよ」

「じゃあ、俺からもありがとうだ」と和志。

「いってらっしゃい。ありがとう」と俊二。

「いってらっしゃい。ありがとう。疲れたらすぐ帰って来るのよ」

 母の言葉に一瞬だけ躊躇した彼女だったが、

「・・・うん。いってきます」

 と外をでた。

 家族はちょっぴり一抹の不安を抱いた。



 心地よい日和の中、環はこの光景を目に焼きつけるようにゆっくりと歩いて碧の家へと向かう。

 玄関先で碧がそわそわしている。

 目が合った、ふたりは思わず笑顔となる。


「よっ、環」

「おはよう。アオちゃん」

「なんか、環が来るような気がしてさ」

「そっか、私も会いたいと思ってたんだ」

「奇遇だな」

「ふーん。奇遇だね」

「そうだな」

「へへへ」


 ふたりはゆっくりと歩いてデートを楽しんだ。

 水辺の散歩道を歩いて、ランチは凪やで高菜ピラフを食べ、ぶらぶらしていると気づけば夕暮れが迫ろうとしていた。

「あっという間だな」

「そうね」

「そろそろ帰ろうか」

「うん」

 

 ふたりは鬼童町の交差点を渡り、沖の端へと戻って来た。

「・・・そろそろかな」

 ぽつりと環は呟いた。

「ん?」

 と碧。

「ちょっと休まない」

 彼女は彼の袖を引いた。 


 稲荷町の河口がみえる公園でふたりはベンチに腰かける。

「夕陽がきれいだな」

 そう言って、大きく伸びをする彼に、

「・・・そうね」

 と彼女は頷いた。

「・・・どうした?環」

「うん」

 環は大きく深呼吸をする。

「大丈夫か」

 碧の言葉に大きく首を振り、

「うん。もういいの」

「いいのって」

「もう私ずっと幸せだったから」

「なんだよ突然に」

「うん、うん、そうだよね」

 環はそう言いながら涙ぐむ。


「・・・え、え」 

 彼女の身体が透き通っていくのをみて、碧はすべてを悟り激しく動揺する。

「・・・お別れの時みたい」

 彼女の言葉が彼には受け入れられない。

「は・・・なに言ってるの?そっか、去年とおんなじ・・・今日、今日は4月1日エイプリルフールだもんな・・・そっか、嫌だなあ~環」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「アオちゃん」

「嫌だっ!」

「ねぇ、アオちゃん・・・」

「絶対に嫌だっ!」

 碧は環を強く抱きしめる。

「ありがと。アオちゃん」

「行かないで。頼むからもう行かないでくれよ・・・」

 碧は人目も憚らず泣き喚いた。

「うん。私も行きたくないよ。だけどもう十分嬉して幸せなんだ」

「まだまだ。俺といっぱいやることがあるだろっ!」

「・・・うん、いっぱいいっぱいあるね」

「だったら!」

「うん、幸せ過ぎて・・・幸せ過ぎるから・・・ね」

「たまきっ!たまっ!」

「これ言いたくて・・・ありがとう」

「うわっ!もう!もう!やめて!やめてよ!」

「環は幸せでした」

「まだまだいっぱいいっぱいあるだろ」

「うん・・・うん、あるよ」

 環は碧の胸の中で何度も頷いた。

「でも、言わなくっちゃ」

「いやだ」

「もう一度言うね。たまはとってもとってもしあわせでした。さよなら、アオちゃん、愛してます」

「たまきっ!」

「ふふふ、わたし・・・言えたよ」

「たまきっ!!」

「・・・りがとう」

 そっと環は碧に口づけをすると、魔法が解けたかのように、その身体は粉となって風に乗り有明海へと向かった。

 空に彼女の赤いリボンが舞った。






 それから・・・。


 伊武受雷と真美はその訃報をネットで知った。

【元アイドルグループちぇんじまいらいふリーダー謎の死去】

 そして今日の朝刊にも掲載されていた。

 その若すぎる死は、マスコミにとって格好のネタであった。

「死とはなんぞ」

 彼は書斎で新聞を読みながら呟き、妻真美の淹れたコーヒーに手をつけずじっと天井をみた。

 白い湯気があがって、彼の視界に入る。

「・・・あなた」

 真美がなにか言いたそうに口を開いた。

「うん、生ある者はいずれ必ず死ぬ。遅かれ早かれ・・・俺だって君だって・・・だけど彼女はイレギュラー(例外的)な存在だったとしても早すぎた。それを環君が受け入れ望んだとしても・・・だ」

「そうね」

「すべては彼女の思いがどうだったか・・・だ。人生の良し悪しは結局、本人しかわからないのだから」

「きっとあの子は幸せだったと思う」

「ああ、私もそう思う」

「きっと」

「朝メシにしよう」

 受雷はゆっくりと椅子から立ち上がる。

「うん」

 真美は頷いた。



 喫茶凪やのマスターはその一報を聞いた瞬間、

 コーヒーカップを落とし、不覚にも客にひっかけてしまった。

「あぢいっ!ちょっと、マスターっ!」

 激昂する常連に気づくことすらなく、その場に崩れ落ち、滂沱と涙を流した。

「そっか・・・そうだったのか。だから一生懸命・・・」

「マスターっ!」

「今日は閉店だ。出ていってくれっ!」

 ヒロシは客の背を押して外へ出す。

 ドンドンドンっ!

 扉を叩く。

「帰れっ!」

 ヒロシは叫ぶ。

 しばし呆然とその場に佇んだ。

 夜中となってパソコンの前に座った彼は、

「必ず君を・・・君たちを歴史に刻むよ」

 涙で滲むモニターにそう呟き、無心で没頭し、ちぇんじまいらいふ全てのライブ映像を世界に向けて発信する。



 茜は狼狽した。

「そんな・・・環ちゃん、ついこの前、私たちの結婚式に来てくれたじゃないの・・・ねえっ!」

 突然の環の死にパニックとなる彼女を健司は抱きしめる。

「茜、落ち着け」

「そんな・・・そんな」

「だって・・・そうだ!じっちゃんとばっちゃんにお願いしよう」

「・・・何を?」

「環ちゃんを迎えに行ってって・・・」

「お前・・・」

「だって、今からもっともっとあの子は幸せになるはずだったんだよ」

「そうだな」

「もっと・・・もっと・・・もっと」

 茜は泣きじゃくる。

「そうだな」

 健司は茜を優しく強く抱きしめ続ける。



 綺羅々はすらりと雷切丸を鞘から抜いた。

 さっきからずっと瞳から涙が溢れている。

「依り代が失われし今っ!我こそが環となりて柳川の神となるのだっ!」

 闇環は対峙する綺羅々にそう吐き捨てた。

「・・・・・・」

 正眼に構える彼女は無言だった。

「どうした誾千代よ」

「・・・・・・」

「なにか言ったらどうだ」

「・・・・・・」

「これからは私が環だ」

「・・・・・・ふざけるな」

「ほう。喋れるではないか」

「今日で貴様・・・いや柳川の宿怨を全て断つ」

「環がいなくなった今、もうひとりの環がいなくなってもよいのか」

「戯言を」

「なんだと・・・」

「貴様は断じて環ではないっ!」

「抜かせっ!」

 刹那。

 白刃が煌めき上段から一閃される。

 闇環は袈裟斬りに両断され今度こそ消滅した。



 それから半年が経った。

 食卓には4人分の朝食が並んでいる。

「いただきます」

 絵美、俊二、和志は両手を合せる。

「和志、今日こそ職安行くのよ」

「まあ、善処する」

 母の言葉に息子はそう返すが、

「俺がついて行ってやろうか・・・それとも、いっそのこと海苔屋の若旦那をやるか」

 俊二が続けて言い、

「おっ、それいいじゃん」

 絵美が頷いた。

「却下」

 和志は即座に否を告げる。

「なんで」絵美。

「悪い話じゃなかろう」と言う俊二に、

「俺も自分でやりたい事をみつけたい・・・環のように」

 息子ははっきりと自分意志を明確にした。

「そうか」

「そうね」

「だが、まだその時ではない」

 お笑い芸人みたいにガクリと夫婦はオーバーリアクションをする。

「はあ」

 ため息の父に、

「いつまで戦士の休息するつもりなのよ」

 呆れる母、

「あと少し・・・もう少し」

「はあ」

「まあ、お兄ちゃんらしいか」

 家族は久しぶりに笑い合った。



 さらに1yearsAfter。

 環の眠る明石家の墓に碧はいる。

 そっと線香をあげ、静かに手を合わせる。

 その隣には静が目を閉じて祈っている。

 春の風が吹いて、桜の花びらが舞った。

 ふたりはゆっくりとその場を立ち上がる。

 コツコツ。

 足音がする。

「ああ」碧。

「綺羅々さん」静。

 振り返ると綺羅々が両手を振っている。

「こっちに帰って来ていたんですね」

 碧の言葉に彼女は頷く。

「今日は大事な日です。全国津々浦々2潜む妖怪退治よりも・・・ね」

「はい、そうですね」

 綺羅々と静は笑いあった。

 蝋燭の炎が風のせいか激しく揺れる。

 それはまるで笑っているかのように。

 みんなは振り返って明石家の墓をみる。

 碧、静、綺羅々は、まるで環がそこにいるように感じられた。

 


 柳川の掘割には満開の桜が咲き誇っている。

 風に舞う桜の花びらは天高くのぼっていく。

 

 







Special Thanks〜繋いで紡いだお話〜


・読んでくださった皆様

 参加させていただいた主催者の皆様


・冬の童話祭2025参加作品

「うまれてはじめてぼうけんする」


・しいな ここみ様、「梅雨のじめじめ企画」より

「かなしいあめのひのおもいで」


・春チャレンジ2025

「四月嘘〜環のゾンビィ復活〜」


・夏のホラー2025企画

「水底で」

「3years 3summer times とHorror?」

・夏のホラー2026企画

「音のないセカイ(仮)」


・武 頼庵(藤谷 K介)様、主催「さいかい物語」企画

「四月嘘~環のゾンビィ復活。Black or White?Dream~ 」


・コロン様、個人企画「酒祭り」より

「鎮魂探偵伊武受雷〜柳川酒奇譚〜」


・しいな ここみ様の個人企画「瞬発力企画」より

「だいすけ「瞬発力企画」にチャレンジしてみた」から一部抜粋


・武 頼庵様、主催の個人企画「夏の遊び」

「ビバ☆沖縄っ」


・秋の文芸展2025

「さあいこう~ちぇんじまいらいふ結成ばなし~」


・なろう感想企画 戦記

「戦姫と戦鬼」


・JR西じゆうに大賞1

「おしのびせとうち旅行」※規定文字数に及ばす。


 本当に感謝でございます。


 原坊さんの「思い出のリボン」を聴きながら。

 すぺしゃるさんくす。


 悔しいかな、企画に参加した拙作たちをこえることは出来ませんでした。

 なんとなく過疎るのはこと分かっておりました。

 けど、繋いで紡いだこのお話は誇りたいのです。

 それから点を線にしてみた試み、やってみてよかったであります。


 完結まで読んでくださって、改めて感謝です。

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