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第6話 私が知らない場所で賽は投げられる。

ローネアン連合国 西境――かつて人と魔が共に暮らした《オルティナス城》跡。


月明かりが差し込む、崩れかけた古城の広間。

石畳には無数の亡骸が横たわり、血の匂いが重く空気に沈んでいた。

その中心に、一人の男が膝をついていた。


「……遅かったか」


騎士たちの亡骸に手を添え、目を閉じる。

それは哀悼ではなく、静かな諦めの祈りだった。


男の名は――ギルバート・ピアソン。

知と力を兼ね備えた導きの賢者。


灰色のローブは幾層もの術式が編み込まれ、その裾には戦いの激しさを物語るよう

な裂け目があった。

その下に隠された肉体は、年齢を重ねた今なお逞しく、鍛え上げられている。


伸ばした髭には白が混じり、額の皺は幾多の苦難を物語っていたが、

その眼差しは鋭く、どんな闇にも屈しない意思の炎が灯っていた。

杖を握る手には揺るぎない覚悟と、幾千の魔法を操ってきた技量が感じられた。


だが今は、ただ“ひとり残された者”でしかなかった。


その時空気が震え、空間が歪む。


「――《異空穿槍ヴォイド・スピア》」


紫電を帯びた三本の魔槍が、上空からギルバートを貫かんと迫る。

彼は一瞬で属性の揺らぎを察知し、地を滑るように跳ねてかわした。


「賢者ギルバート・ピアソン……ですね」


襲撃者は、漆黒のローブを纏った――“魔族”。

肩までの白髪に、蒼く光る魔眼。狂気と知性を同居させた異質な存在だった。

その異形を、ギルバートは生まれて初めて目にした。


数多のモンスターと対峙してきた彼でさえ、魔族に関しては文献でしか知らない。

実際に最後に確認された個体は、今から八百年以上も前の記録が最後だったのだ。

果たして、自分の力が通じるのか――一瞬、不安が胸をよぎる。


だが、目の前の存在よりも、まず気にかかったのは“場所”だった。

ここは“女神の大地”――人と魔を隔てた結界によって守られた、人類側の聖域。



魔族が容易に踏み入れるはずのない場所だ。

結界を越えた痕跡も、侵入の兆しもない。にもかかわらず、奴は現れた。


一体、何が起きている?


ギルバートの思考に、冷ややかな疑念と鋭い警戒が走った。


「まず名を問うのが礼儀というものだろうに。貴様らは攻撃が挨拶か?

しかし信じられん。魔族が女神の大陸に何故居る。目的はなんだ?」


ギルバートの問いに、宙に浮かぶ黒衣の男は不気味な微笑を浮かべた。


まるで舞を舞うかのように静かに地に降り立つと、優雅な所作で右手を胸に当て、深々と一礼した。


その仕草は、皮肉とも礼儀ともつかぬ奇妙なものだった。


「我が名はゼノムス。魔大陸七魔星一柱、《消滅のゼノムス》。

あなたには、ここで消えていただきます」


その瞬間――ゼノムスの身体に、魔力の波動が走った。

空間が微かにうねり、彼の周囲に黒紫の輝きが浮かぶ。

禍々しい術式が空間に滲み始める。


「ヴォイド――」


だが、ギルバートはその気配を逃さなかった。


(やはり……来るか!)


賢者はわずかに目を細め――すでに構えていた杖を振り上げる。


「――遅い!」


待っていたとばかりに、先んじて魔力を解き放った。

空間を裂くように聖なる光が奔り、ゼノムスの術式を押し返す。


ギルバートが杖を振り上げるより早く、

淡い金色の光が空間に広がった。


「《聖蔓封鎖セイントグラスバインド》!」


蔓のような聖光がゼノムスの足元から噴き出し、

鋭く高速で伸びながら縛り上げようとゼノムスの動きを追いかけながらうねりをあげ

拘束せんと襲いかかる。


「……捕まると面倒ですね……!」


ゼノムスは魔力を跳ね上げ、空中へ舞う。

すぐさま指に魔力を掲げ――


「《闇影使徒シャドウサーバント》――」


「だから、遅いと言っている!」


ギルバートの声が重なる。地面が一瞬、隆起し――


「《崩裂地葬フォールン・クエイク》!」


ドンッ!!という轟音と共に、上下左右四方から石柱がゼノムスを中心に激突する。

崩れた床材も形を変え、四角い岩塊となって一斉に押し潰すように迫った。


 ――その刹那。


最初に発動させた、《聖蔓封鎖セイント・グラスバインド》が追いつく。

光の蔓が再び伸び上がり、飛翔する石柱の表面を這うように絡みつく。

伸縮しながら石と石を縛り上げ、隙間を封じるように“柩”の形を完成させた。


聖なる封印の棺。

ギルバートの仕掛けた連携魔法が、魔族の逃げ道を完全に奪った。


「――石棺に抱かれ、爆ぜろ!《聖閃十字クロス・ノヴァ》!」


封じ込めた岩の内側から十字の閃光が放たれた。

爆音と共に、四方の岩塊が内側から破裂する。


白銀の十字架が石棺を砕いた。


「……はぁ、はぁ……」


杖を支えに、ギルバートは荒い息を整える。


崩裂地葬フォールン・クエイクの初弾――あれは確かに死角から撃ち込めた。

奴を閉じ込めたの感触もあった。手応えも、ある……。


だがその時――


「……無詠唱三連発とは、さすがですね」


背後。血の気もない声が、耳元に突き刺さる。


「――何!?」


振り返った瞬間、ギルバートの視界に黒い影が踊る。必死に魔法を発動しようとするが


「あなたの方が、遅い!」


ゼムノスが静かに叫んだ瞬間、

地面から染み出した影が歪み、形を取った。


闇影使徒シャドウサーバント》――


黒い影の従者が2体、背後から襲いかかる。


ギルバートはとっさに一撃をかわすが、

バランスを崩したその隙――


「ッ……!」


二体目の爪が鋭く肩を切り裂いた。


「ぐっ……!」


返り血が宙を舞う。

致命傷には至らなかったものの、確かな深手。

ギルバートの片膝が地に落ちる。


 ――私が捉えたと思っていたのは、本体ではなく……あれは奴の闇影使徒シャドウサーバントの1体にすぎなかったか。


息を荒げながらも、賢者はわずかに顔を上げる。

その視線の先には、石畳に倒れ伏す騎士たちの亡骸があった。


「……ふふ、だが、何故?……という顔をしていますね」


 不意に、ゼムノスが口を開いた。口元には不気味な笑み。


「なぜ、私があなたの魔法をあれほど正確に躱せたのか――

 理解が及ばないといった表情だ……!」


ギルバートの眉がわずかに動く。

ゼムノスは一歩前へと出て、蒼く光る魔眼を指差した。


「ククク……答えは簡単です。あなたの“動き”が、私には“視えている”のです」


「――未来が、ね」


「魔神様より授かりし祝福。

この《未来視の魔眼》こそ、あなた方が抱える“希望”を最も確実に潰せる力!」


ゼムノスの声が、徐々に狂気を孕みながら高ぶっていく。


「あなたがどんな魔法を選び、どう動こうと、すべて私には先に“視える”のです!

まるで、あなたが決められた動きをする、あやつり人形でもあるかのように!」


ギルバートの表情が僅かに曇る。


それは、ゼムノスの言葉に怯えたからではない。

むしろ――その“絶対性”に、自らの戦略がどこまで通用するかを測る、静かな計算の目だった。


「……彼らも、手練れだった。その魔眼を使って手にかけたということか……」


悔しげに、ギルバートは血に染まった床を見つめた。


「しかし……なぜわざわざ、一人だけ生かして私をこの場に誘導させた?

その兵士にまで“呪い”を刻み、確実に死なせた!」


怒りがにじむ。


杖を床に突く音が、広間に響く。


「答えろ……! 貴様の“真の目的”はなんだ?

 そして、どうやってこの地に侵入した!? 魔大陸からこの人類大陸への越境は、結界によって封じられているはずだ!!」

ゼムノスは口角を釣り上げて笑う。


「質問が多いですね。ですが……目的については、すでにお伝えしましたよ?」


魔眼が、ギルバートの負傷した肩をじっと見つめる。


「“我々の目的の遂行”において、あなたという存在が未来を乱す――そう視えた。

 だからこそ、ここで消えていただく。それだけの話です」


「……結界についてはどうだ?」


白髪がゆるく揺れた。どこか芝居じみた仕草。


ふふ。ああ、それはもう……じきに“意味をなさなく”なりますよ。時間の問題です」


言葉の端に、確信めいた響きがあった。

ギルバートの眉がわずかに動く。結界の無効化――そんな芸当ができるはずがない。だが、この魔族の態度は、虚勢にも見えない。


まるで未来がすでに確定しているかのような物言いだった。

ギルバートの胸の奥に、冷たいものが落ちる。


ゼムノスの口元が歪む。


「……さて、随分と“口がよく動く”と思っていたが」

「――長話のせいで肩の傷が癒えてきていますね? 気づかないとでも思いましたか?」

「魔力検知されないように小さく仕込んだ魔法具……回復を狙っていたのですね?」


「チッ!」


ギルバートは傷ついた腕を確認しながら、足に風の魔力を込めて後方へ跳び退く。

(無理はできんが……動かすには問題ない!)


「さて……手負いの貴様を倒すには、十分でしょう!」


ゼムノスが魔族語で詠唱を始める。


二体の《シャドウ・サーバント》の影が地に溶け合い、

蠢きながらひとつの異形へと変貌していく。


「いでよ、そして蹂躙せよ《双獄狼オルトロス》!!」


石畳を突き破るように現れたのは――

灼熱と氷気を纏う、双頭の巨大な魔獣。


地を揺らす咆哮と共に、番獄の獣が躍り出る。

灼熱の牙が空を裂き、氷の顎が空間を凍てつかせながら、

その全身を跳躍させ――


今まさに、賢者を引き裂かんと襲いかかる!

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