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第52話 カドゥラン領強襲⑰ 奥義「空亡の玉響」

 (こんなの、避けられない――)


 街の誰もが、滅びを確信した。


 恐怖が、地を這った。


 その瞬間、誰もが確信した。

 これは、もう避けられない。

 これは、終わりだ。


 町を守る者たちも、戦う術を持たぬ者たちも、誰もが――滅びを、確信した。



 だが、たった一人カナリアだけが、迎え撃つべく全身の感覚を研ぎ澄ませる。


 その着弾点で、呼吸を整え、刀を構え、風の気配を読むように呼吸を合わせる。


 「……そう。あんた、“ダウロ”って言うんだ」


 カナリアの瞳が細められる。怒りでも、憎しみでもない。そこには、わずかな感情の揺らぎがあった。


 「おじいちゃんを……私達から奪ったあんたを、私は絶対に許さない」


 刀を握る手に、力がこもる。


 「……でも、それでも……」


  一拍、息を吐き、言葉を紡ぐ。


 「あんたが誰より強いってことは、認めてあげる」


 「この七年、私はずっと刀を握って生きてきた。誰よりも、誰よりも、強くなりたくて。でも、覚醒したノアと私の二人がかりで、ようやく届くなんてね……」


 黒雪が足元で舞い上がり、視界に紅い月がにじむ。


 「……武人として、あんたに贈るよ。私の全てを」


 「ダウロ。ここで、終わろう」


 流星のように迫るダウロの魔槌。その質量と速度は、いかなる盾でも防げない。逃れるには、門を使って空間ごと離脱するしかない。


 (私だけなら……黒雪を使って、躱せる……)


 だが、頭に浮かんだその選択肢を、すぐさま自ら振り払う。


 (でもそれじゃ、町の人たちは……全員、巻き添えになる)


 逃げるわけにはいかない。ここで止めなければ、この“死”の塊は、地上にいるすべてを押し潰す。


 (なら、やることは一つ!)


 視線が鋭くなる。全神経を、迫りくる敵に集中させる。


 (さっき使った、“門を開ける斬撃”――あれを、もう一度。けど今度は……あいつの分厚い身体の“中”に)


 一瞬、迷いが過った。


 (いや、違う。それだけじゃ届かないかもしれない……)


 刀を握る手に、力がこもる。次に選んだのは、“躊躇なき覚悟”だった。


 (確実に仕留めるならアイツが飛んでくる空ごと――空間そのものを、“断ち切る”!!)


 カナリアはすべての黒雪を操作し、自身を中心に周囲へと集束させた。

 黒き粒子が螺旋を描き、直径十数メートルにもおよぶ漆黒のドームを形成していく。


 その膜は半透明で、夜空を反転させたような穏やかな色合いを帯びていた。

 表面を漂う黒雪の粒子たちは、微細な振動で宙に軌道を描き――まるで戦場の全方位を“監視”しているかのようにうごめく。


 それは、“結界”であり、“視界”であり――

 “世界そのものを書き換える陣”だった。


 異界のゲートの使い手にのみ許された、異界の絶対領域。


(この“間合い”に入った瞬間――アイツの着弾より速く、確実に仕留める!)


 カナリアは静かに構え、瞳を閉じる。

 全神経を、迫る破滅の気配に研ぎ澄ます。


 ――ゴウウウゥゥゥゥ……!


 耳鳴りのような風切り音。

 空気が震えるほどの質量が、真上から迫ってくる。


 (……速い。おそらく、5秒もない)


 黒雪の中を駆ける風の音が変わる。

 カナリアは残されたすべての魔力を刀に集約させた。


 刀身が震え、バリバリと黒き歪みが音を立てる。


 その瞬間――黒雪が、空から迫る魔力の奔流を捉えた。



 「……来る!」



 かっ、とカナリアの目が見開かれる。

 視界に映るのは、すでに頭上十数メートルにまで迫ったダウロの巨体――


 紅月を背に、禍々しい魔力を纏いながら、鉄槌と化した左腕を振りかぶる。


 「終わりだああああああッ!!」


 左腕の“終焉の鉄槌”が、都市ごと押し潰さんと振り下ろされる――まさにその瞬間だった。


 刹那、時間が止まる。


 ――いや、違う。


 極限まで研ぎ澄まされたカナリアの超感覚が、すべてを“スローモーション”へと変えた。


 (……この感覚――)


 体が、覚えている。


 これは、おそらく転生前に剣術を学んでいた"あの頃"。

 自分より遥かに大きな相手の“振り下ろし”に対し、武器ごと斬り上げる一閃で迎え撃った――“あの技”。


 小さな身体で、必死に掴み取った、唯一無二の反撃術。


 そして今、カナリアの口が無意識に“その名前”を呟いた。

 この世界では聞いたこともない、異国の響き。


 だが、体の奥、魂は確かに――この技の名を知っていた。



「……対空一閃。奥義──《空亡(そらなき玉響たまゆら》」



 超高速で“居抜かれた”その一閃は、動作すら視認できない。

 ただ、刀身が残した一条の斬線――それだけが、空を貫いてはしっていった。




「終わりだああああああああああッ!!」


 黒き流星と化した自身が、着弾まであと数メートルに迫った刹那――

 ダウロは、確信していた。


 この一撃で終わる。

 この女も、勇者のガキも、町も、希望すらも。

 すべてを、叩き潰せると。


 だが、その瞬間――


 視界の端で、“ヤツ”がわずかに動いた――ような気がした。


(鞘に構えていたはずの……剣先が、光ってやがる……)

(……いつだ? いつ抜いた!?)


 いや、そう“思った”時には、すでに遅かった。


 なにかが、自分の身体を通り抜けたような――感じたことのない衝撃。

 だがそれは、錯覚としか思えないほど一瞬のことで、違和感程度の微細な感覚だった。


 だが次の瞬間、体の奥が灼けつくように熱くなり――

 内側から“裂ける”ような感覚と激痛が、一気に駆け上がる。

 言葉では説明できない、得体の知れない“違和感”。



 “本能”だけが、先に敗北を告げていた。



 理解など追いつかない。思考など、砕けていた。


 身体が崩れ落ちていく。

 理解が追いつかぬまま、身体が崩れ落ちていく感覚。 まるで、自分という存在そのものが、世界から切り離されていくかのようだった。



 抜刀――

 それはもはや、“過程”ではなかった。


 カナリアはすでに斬り終えた後――

 下から上へと振り抜いた斬撃の“残響”をその身に纏いながら、静かに立っていた。


 斜めに構えられた刀の切っ先は空を指し、風も、音も、時間さえも凍りついたように止まっている。

 この世界に遺されたのは、ただひとつ――“結果”だけ。


 一拍――


 空が、空間ごと縦に一瞬ズレ、そして静かに元へと戻る。



「ブモオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」



 ダウロの断末魔が、カドゥラン領全土を震わせた。


 その巨躯は、空中で――縦に、真っ二つに裂けていた。


 中心から、断面へ。断面から、飛沫へ。

 真っ赤な鮮血が、夜空を背景キャンバスとして咲き乱れる。


 深紅の“花”――それは、ダウロの死の象徴であった。


 雪のように舞う黒雪が、戦場を静かに包み、

 月の光が、崩れゆく魔将の影を照らす。

 花のように咲いた血飛沫が、夜空に消えていった。



 カナリアの全魔力を込めた斬撃の勢いは、留まる事を知らず、上空へ伸びていく。

 全てを裂く斬線は、かつて無能の烙印を刻んだ大聖堂の鐘楼を信仰ごと真っ二つに斬り裂き断ち割ると、さらにその軌道を狂いもなく伸ばしていく。


 山脈の峰を削ぎ落とし、その勢いのまま蒼穹を駆け昇る斬線。

 目指すは遥か上空、惑星イクリスを見下ろす三つの月――《三月の瞳》。


 そして――


 黒銀の閃光が、《狂気の紅月》へと到達した、その瞬間。


 細い光の線が、紅月の中心に、まるで“静電の傷”のように走った。

 それは音を奪われたかのように、静かに――まるで息を呑むように、月の地殻を裂いていく。


 沈黙の断裂。

 やがて、紅月の輪郭がほんのわずかにズレ、歪み始めた。


 夜空に浮かぶ月が、音もなく、ゆっくりと真っ二つに割れる。

 その断面から、光の残滓が幾層にも重なって溢れ出し、やがて紅き輝きは――静かに、異界へと吸い込まれていった。


 《狂気の紅月》――三月の瞳のひとつが、《崩星》した。


 それは世界を変える一閃。


 すべての終焉を告げる、静寂なる死神の一太刀だった。

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