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勇者が世界を守るなら、誰が勇者を守るのか。 ~弟が世界を救うようなので、邪魔する奴らは私が全員切り伏せます~【64000PV感謝!】  作者: 寝る前の妄想人
第2章 戦乱のカドゥラン領 覚醒せし禁忌の力

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第53話 カドゥラン領強襲⑱ 番人

 私が斬り放った一撃は、

 月を裂いて、空を震わせた。


 町の鐘楼が、音もなく真っ二つに崩れ、

 巨大な鐘が、重力に引かれて静かに落ちていく。


 石畳を砕き、地を揺らす衝撃――

 その直後。


 ゴォォォォン……。


 あれはまるで、

 “魔将ダウロを討ち果たした”ことを告げる、勝利の鐘みたいだった。


 ふわふわと舞っていた魔力の黒雪が、すっと掻き消える。

 代わりに現れたのは、見慣れた――でも無惨に壊された町の姿。


 あの鐘が鳴ったって、何も戻ってこない。

 壊されたものも、失いかけたものも、すべては……。


 「ノア……!」


 私は、路地裏へ駆け出した。

 斬撃の直前に、彼をかばって運んだあの場所へ。


 急げ、急げ、お願い、生きてて。


 何度も足がもつれそうになった。

 けど、そんなの気にしていられない。


 そして――見つけた。


 「……ノア……!」


 血と焦げにまみれた体。

 地面に伏して、ぐったりと動かない弟の姿。


 私はしゃがみこんで、その体を抱き起こす。

 まだ温かい。柔らかい。


 震える腕で、そっと安全そうな場所まで運んで、膝の上に寝かせる。


 「……っ、お願い……」


 胸に、そっと耳をあてた。


 ──トクン、トクン。


 ……聞こえる。


 「……生きてる……!」


 もう、何も言葉にならなかった。

 胸の奥がぎゅっと痛くなって、ただ、ただ涙がこぼれる。


 私はノアの体を、ぎゅっと、もっと強く抱きしめた。


 「……こんなに……傷だらけになって……がんばったね……ノア……」


 涙が、ぽたりと落ちて、

 ノアの胸元を濡らした。


 

 数刻前、空を引き裂くように響いた、獣の断末魔――

 それは、魔将ダウロの最期の咆哮だった。


 広場を中心に、町の各地に散っていた魔族たちの耳を鋭く打ち抜いた。


 「な……今の声……」

 「まさか……ダウロ様……?」


 不穏なざわめきが、瓦礫と炎の隙間から広がっていく。

 崩れかけた家屋の影、破壊された路地の奥から、ぞろぞろと姿を現す残党たち。

 その目には、戸惑いと疑念、そしてわずかな恐怖が宿っていた。


 広場に集まり始めた異形の群れは、目の前の光景を見て言葉を失う。

 裂けた地面、沈黙する鐘楼、そして……巨大な主の亡骸。


 その頭上を、魔鳥のような翼獣たちが不規則に旋回していた。

 そのくちばしが、金切り声で狂ったように叫ぶ。


 「ダウロサマ……シンダ……シンダ……!」

 「コロス? ニゲル? ドウスル? ドウスル? コロス? コロス?」


 理性なき意思が、空から地上に降り注ぐように乱反射する。


 まるで思考の濁流。

 魔将を失った魔族たちは、不安と混乱に揺れ、身じろぎすらできずに立ち尽くしていた。


 勝者の静寂に、再びざわめきが満ちていく――

 それは、まだ戦いが終わっていないことを告げる、恐ろしい兆しのように。


 魔将ダウロの死は、すぐに戦線後方の魔族たちにも伝播した。

 南大門前に待機していた第2陣の兵たちも、ざわめきと共に顔を上げる。


 その動揺を、真っ二つに裂くように――

 低く、唸るような羽音が南の空から響いた。


 次の瞬間。

 待機していた魔族の第2陣の南門の上空に、異形の影が降り立つ。


 それは、鋭い四翼と金属質の鉤爪を備えた、空の怪物。

 くちばしは剣のように尖り、紅の双眼と魔力は地上を貫くように光を放っていた。


 副魔将・ズーマ。

 “空中の死”の異名を持つ、空軍の指揮官。

 直前、カドゥランの空戦精鋭──バードマン大隊を空中戦で壊滅させた張本人である。


 その鋭い鉤爪には、まだ息のある最後の一羽が捕らえられていた。

 翼をもがれ、絶叫する兵士をぶら下げたまま、ズーマは旋回しながら高く高く舞い上がる。


 「ダウロ、死ス。ダガ敵戦力ハ壊滅状態。指揮権、引継グ」


 軋むような金属音で発せられる声は、空気そのものを凍らせるようだった。

 そして、続く命令が空から突き刺さる。


 「第ニ陣──突入開始。蹂躙セヨ。破壊セヨ」


 最後に、くちばしが大きく開かれる。


 「主ノ敵ニ、慈悲ハ不要ダ!」


 「ウオオオオオオオオオオッ!!」


 咆哮が、爆発するように上がった。


 地を這う魔族たちが吠え、

 壁の影から顔を覗かせていた異形の兵が立ち上がる。

 裂けた口から紫の煙を吹き出しながら、両腕を掲げるものもいる。


 四つ足の獣型は地面をひっかき、

 半死者の群れは呻き声を重ねるように、喉の奥で低くうねる音を響かせた。


 ――その声は、怒りか、歓喜か、あるいは単なる殺意か。


 だが確かなのは、彼らがいま、

 主を失った混乱から、“狩り”への欲望に切り替わったということだった。


 ズーマの頭上では、翼獣たちが同調するように空を旋回し、

 金切り声で吠える。


 「コロス! コロス! コロス!!」


 空と地が、咆哮でつながった。


 町全体が魔族の鬨の声に包まれようとした、そのとき――


 「……誰が誰を殺すって?」


 澄んだ、しかし圧倒的な響きをもった声が、

 ズーマの頭上、さらに高い空から降ってきた。


 その瞬間。ズーマの紅い目が見開かれる。


 風が裂けた。いや、“空そのもの”が引き裂かれた。


 ズーマが気づいたときには、すでに――

 彼の全身は、更なる巨大な鉤爪によって捕らえられていた。


 ギリッ……


 咄嗟に羽ばたく暇も、叫ぶ隙すらもなかった。


 黄金の光をまとった巨大な鳥。

 純白の羽毛に覆われたその神禽(しんきん)は、ただ無言で、

 副魔将ズーマという存在を、ひとつまみの小枝のように掴み――


 容赦なく、捻り潰した。


 バキィ、という、骨と装甲が砕ける凄絶な音が、広場に木霊する。


 それは、空の守護者《アルコン》。

 女神の祝福を受けし大陸、その空を預かる神獣。

 普段は一切人界の争いには干渉しない、“空の絶対中立者”。


 だが――


 そのアルコンが、ただ一羽の怪鳥を処理するためだけに姿を現したのだ。


 その異常さに、咆哮していた魔族たちの喉が、ぴたりと止まる。

 そして、アルコンの背に白きローブを纏った男が、ただ静かに立っていた。


 「アルコン、ご苦労だったな」


 柔らかな声で語りかけるのは、白きローブを纏った男。

 知性と威厳を兼ね備えた老練の賢者――ギルバート・ピアソン。


 神禽(しんきん)は、わずかに翼をたたみ、頭を垂れるように応じた。

 そして、次の瞬間。広がる空気が、深く震えた。

 それは、天地の境界から響くような、威厳ある声――


 「……空は、争いに染めぬ。それが、我が定めであった」

 「だが、魔族が破った。人と魔との“不可侵の盟約”をな」

 「……我が手を貸すのは空域のみ。地上は自分達の手で解決するのだな」


 ギルバートは小さく息を吐き、かすかに笑った。


 賢者の横に立つのは、蒼氷を思わせる髪を風に揺らし、

 鋭い眼差しをたたえた男性剣士だった。

 凛とした立ち姿に、清廉な雰囲気と武人の気配が混ざる。


 「……なんとか間に合いましたね」


 そう言ったアデルの声は落ち着いていて、

 焦りや驕りといった色はどこにもなかった。

 その背には、幾多の修羅場を越えてきた者だけが持つ、揺るがぬ剣気があった。


 もう一人の女性が、アルコンの背で静かに一歩、前へ出る。


 風にたなびく赤みがかったショートヘア。

 タイトな装束の隙間から伸びるエルフの白い指先に、淡く鋭い魔力が集束していく。


 彼女が向けた視線の先――

 それは、アルコンの鉤爪に握られていた、潰れたズーマの残骸。

 ……そして、その爪の隙間に、かろうじて息が残っていたバードマン兵士の姿があった。


 マルシスは魔術式を空中に描き、指先を軽く跳ね上げる。


 すると、アルコンの鉤爪がほんのわずかに開き、

 その隙間から、魔力の光に包まれた兵士の身体が、

 ふわりと引き上げられていく。


 「……生体反応、微弱。でも助かるわ」


 彼女は回復魔法を重ねながら、兵士をそっとアルコンの背に引き寄せ、

 その場に横たえた。


 「それにしても、大将級の姿と魔力が検知できませんね……どこへ?」


 マルシス。静かに戦場を観察し続ける分析官にして、ギルバート一行の頭脳。


 空に、静寂が戻った。

 地上には、魔族たちの沈黙だけが残されている。


 広がる静寂の中で、

 ギルバートは、アルコンの背の中央からそっと前に出た。


 その瞬間、風がざわめき、大気が震えた。

 彼の足元から、目に見えるほどの青白い魔力が淡く立ちのぼる。

 白きローブがふわりと膨らみ、

 賢者の体を包む魔力が、濁りなく、しかし底知れぬ光を帯びてゆく。


 尋常ではない気配――

 それは、“人族という枠を超えた”何かを、魔族たちに嫌でも思い知らせた。


 そして一言だけ、ぽつりと呟く。


 「……先に行く」


 それだけ言い残すと、彼は風をまとうように身を翻し――

 上空から一人降り立った。

 地上へ蔓延る悪魔たちを殲滅するために。


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― 新着の感想 ―
なんだか敵サイドの情報が一気に出てきた! ヾ(・ω・*)ノ 微妙に名前が覚えきれて無いけど、きっと再登場するときにリマインドがあると信じて先を読みます〜。 (`・ω・´)ゞ
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