第4話 ノア君は転生者なの?
私とノアは、3歳になった。
この世界に生を受けて、もう三年が経つ。
その間、私はこの世界の常識や知識を少しずつ学びながら、なんとか“それっぽく”ふるまって過ごしている。
正直な話――かなり無理してきた。
たとえば、赤子のくせに泣かない。 生後半年で本を読みはじめ、 1歳になる頃には食事もトイレも一人で完璧。
当時の私は「やばい、やりすぎた!?」と本気で焦ったけど、
家族の反応はというと――
「この子、天才かもしれない!」
……という、まさかの楽天解釈。
おかげで“転生者特有の行動”は、ただの優秀な子どもとして受け入れられてしまった。
いや、ほんと……助かった。
まぁ、天才扱いされてしまった以上、これからも気を抜かず慎重に立ち回らないといけない。
だけど、こうして穏やかに日々を過ごせているのは、この“誤解”のおかげなのだ。
そろそろ頃合い――私はそう踏んで、一人になるチャンスをうかがっていた。
子どもだけでは危ないと、大人たちは常に目を光らせている。
しかし3歳ともなれば育児にも少し余裕が出てくる頃合い。
両親の注意も、わずかに緩み始めていた。
私はこっそり庭に出ると、決めていた“あの確認”を実行に移す。
まだ舌っ足らずな口を必死に動かして、両手を前に突き出し呟いた。
「ステータス、オープン!」
……何も反応がない。
私の言葉だけが空しく風に流されていった。
おかしい。ステータスウィンドウ、出ない。
もしかしてコマンドが違う?
「メニュー画面起動!」
「スキルリスト表示!」
「プロフィール、ひらけゴマ……!」
――ダメだ。ぜんっぜん反応しない。
よく考えたら、この3年間で「レベルアップ!」とか「スキル獲得音」みたいなメッセージも一度も聞いたことがない。
目覚めた時からずっと、何も。そう、“システム”の気配がない。
……つまり、これは――
完全没入型の異世界転生。
ウィンドウも、数値表示も、ナビもなし。
感覚と経験だけが、すべてを物語る。
リアルに“生きる”しかない世界。
それが、この異世界――イクリスというわけか。
……うわ、マジか。
これ、想像以上に難易度高くない?
スローライフ、どころじゃないじゃん。
正に第2の人生ってわけね。
「ねぇね、なにひとりでおしゃべりしてるの?」
――ふいに、背後から声がした。
振り向くと、そこにはやっぱりというか、案の定というか……。
この子は、私のかわいいノア君。
さらさらと風に揺れる金髪。
透き通るような蒼い瞳。
3歳にして既に“将来を約束された美形”としか言いようがない容姿を持つ、私の弟。
いやほんと、顔面偏差値だけで国がひとつ救えそうなくらい。
一方で、私の髪はオーシャンブルーのような艶やかな色合いをしている。
この色は、母譲りだ。ノアが父に似た金髪なら、私は母に似た青い髪。
双子といっても、二卵性だから容姿は意外と違う。
まあ、負けてないけどね!顔面偏差値では!
蒼い瞳は私も同じで、家族の中では私とノアだけがこの“特別な瞳”を持っている。
それが“神の才覚”――聖印を持つことと、関係しているのだろうか。
それに今日ばかりはこの子にも、大事な"あの"ことを聞かなくちゃいけない。
――“君も、転生者なの?”
私は慎重に口を開いた。
「ねぇ、ノア。てんせいしゃって、知ってる?」
ノアはきょとんとした顔で、首をかしげた。
「てんせいしゃ? それなあに? ねえね、っていつもむずかしいことばつかうよね」
……これは本当に、なにも分かってない反応――な気がする。
もし、これが“ごまかし”だったとしたら……
正直、上手すぎる。
思い返してみれば、これまでノアの生活をずっと注意深く見てきた。
でも、彼のふるまいはどこからどう見ても、子供そのものだった。
“転生者特有の言動”なんて、微塵もなかった。
(……質問を変えてみるか)
「ねぇ、ノア。生まれてくる前のことって、覚えてない?」
「……たとえば、女神さまと会ったこととかない?」
「白い狼とか、見たことない?」
軽く言ったつもりだったけど、私の声は少しだけ――熱を帯びていた。
少し食いつき気味に聞いたその瞬間――
「むずかしいよ〜……あ、女神様といえば〜!」
(反応があった!)
思わず身を乗り出す。
これは……なにかつかめるかも!? ついにそれっぽい記憶、来た!?
「いまからお母さんがね、この星の神様のお話しするんだって。
女神様も出てくるって!」
……そうきたか。
私はその場に静かに崩れ落ちそうになった。
(そっちかぁ~~~~!!)
結局、ノアの言う“女神様”とは、母によるこれからの“読み聞かせ予定”のことだったらしい。
完全なる、純粋報告。
(……いや待て、これほんとに覚えてないのか? それとも、知らないフリしてるだけ?)
私は、じーっと問い詰めるような鋭い目でノアを見つめた。
まるで内心を探るかのように、視線で揺さぶる。
だがノアは、そんな視線をまったく意に介さず――にこっ。
純粋無垢な笑顔を満面に浮かべて、まるで太陽みたいに眩しく返してきた。
……そのあまりの純粋さに、思わずこちらが負けそうになる。
(どっちにしても――この弟、手ごわい! が、これ以上の追及は無理かな)
ふたりで家の中へ戻ると、夕暮れの光がリビングをやさしく染めていた。
木の床に差し込む陽が、どこか懐かしくて。私はふと立ち止まる。
「ただいまー!」とノアが元気よく声を張り上げた。
奥の部屋からすぐに応える声がする。
「おかえりなさい、リア! 一人で急にいなくなっちゃだめでしょ?」
母――シンシアが、膝に絵本を乗せて微笑んでいた。
その隣には、毛糸の編みかけとお茶の香り。なんとも、あたたかな絵だった。
私はコクリと頷いてから、さりげなくノアを見やる。
(うん、まあ……“調査”としては不完全燃焼だったけど、かわいさは正義ってことで許す)
「ふふ、わかってくれたのならいいのよ。じゃあ、今日はちょっと特別なお話をしてあげるね」
シンシアがふたりを手招きし、私とノアは母の両脇にちょこんと座る。
絵本の表紙には、金の光を背負った女性の絵。
そして、その周囲には、光の花のように六つの属性の輝きが広がっていた。
まるで、この星のすべてが祝福しているかのような――神話のワンシーン。
「それじゃあ今日は、この世界イクリスがどんなふうに生まれたか、特別なお話をしてあげるね」
優しい声とともに、語りはじめられたその物語。
それは、まるで“絵本”のように語られた神話だった。
「むかしむかし、星がまだねむっていたころ――
宇宙のかなたから、きらきらひかる流れ星のような女のひとがやってきました。
その人は――」
母は、この世界の創星話を絵本を片手に語りだした。
私は背筋を伸ばす。
この世界で生きていく上で、なにか大切な“鍵”が語られる気がして。
小さな胸を静かに高鳴らせながら、しっかりと耳を傾けた。
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