第147話 貸しを一つと、ご褒美一つ
「そうなの……でも、転移を使うには実は条件があって」
「その条件って?」
「……言えない」
「え?」
「ごめん。言えない」
ノアの目がぱちぱちと瞬きを繰り返す。数秒の沈黙が流れた。
「ええええっ!? ここまで教えといて、それはないよ姉さん!」
両手をバタバタさせながら、ノアが思いっきり抗議の声を上げた。
ちょっとだけ膨れた頬に、ほんの少しのイラ立ちと困惑がにじんでる。
(……ごめん。でも今は、まだ言えない。それが私のいまの正直な気持ちなんだ!)
「本当、ごめんなさい! 今はどうしても話せないの。……でも、いずれはちゃんと話すから。お願い、信じて」
私は、転生してから一番くらいの強さで、ノアに手を合わせながら精一杯懇願した。
両手を合わせる仕草に、自然と力がこもっているのが自分でもわかる。
心の奥をぐっと押し出すようにして、伝えたつもりだった。
ノアは、一瞬ぽかんとした顔をして私を見つめていた。
でもやがて、その表情がむーっと考えこむようにと沈んでいった。
「……もう。……わかったよ」
不満そうに、でも怒っているわけでもなく。
納得はしてない。だけどそれ以上は聞けない、そんな表情だった。
「でも約束だよ。絶対に、いずれは話すこと。……きちんと、姉さんからだからね」
「ありがとうノア!」
その言葉に、私は強くうなずいた。
胸の奥に、罪悪感が刺さったままなのは変わらないけども。
「それに今日のこと1個貸しね? 僕が頼み事をしたら、ちゃんという事聞くこと! わかった?」
ノアはそう言って、にこっと微笑みながら、小指を私の前に差し出してきた。
その仕草があまりにも優しくて思わず、胸がぎゅっとなる。
(ああ……本当、私は弟に恵まれたなぁ、貸し借りにすれば気を使わせないって配慮も出来るようになってるし、お姉ちゃんは嬉しいよ)
「うん。約束」
私はそっと小指を絡め指切りをした。
ぴたりと重なった指先のあたたかさが、心の奥にじんわり染み込んでいくようだった。
「「指きったぁ!」」
(結局のところ、ノアに自白させるつもりだったのに……得られた成果って、私が自分から秘密を話すって約束することになっただけじゃん……トホホ。立場、逆転されちゃったな)
「ほら、姉さん! 持ってきたパン、一緒に食べようよ!」
ノアがにこやかにバスケットを手に、パンを差し出してくる。
しかも――ちゃんと、私の好きな種類のやつだ。こういう所がノアの良いところなんだよね。
(……違うか。ちゃんと、成果はあったよね。ノアとの関係が、壊れなかったこと。……これ以上の成果なんて、ないか)
私は苦笑しながら、パンを受け取る。
どこか気恥ずかしくて、でも嬉しくて――
その時、バタン! と私たちの私室の扉が、勢いよく開かれた。
「「うわっ!?」」
驚きとともに、双子らしくぴったり揃って声をあげる。
そこに立っていたのは――赤髪のエルフ、マルシス先生だった。
(ノックなしで来るなんて珍しい。研究室はノック忘れたら注意されるのに……)
「先生もパン食べます? おいしいですよ!」
ノアが何事もなかったかのように、いつもの調子でパンを差し出す。
けれど、マルシスは一歩も動かない。目元だけが揺れていた。
「ノア君……!」
そのまま駆け寄ると、何の迷いもなくギュッとノアを抱きしめた。
「な、なななな、なんなんですかこれ!?」
「ちょっ!弟にいきなり何するんですか先生!?」
ノアが慌てて身をよじろうとするも、マルシスの腕はがっちりノアを掴んで離さない。むしろ逆に引き寄せられて、彼の顔はふわっとした胸元に先生のネクタイと一緒に吸い込まれるように沈んでいく。
「宿敵ライゼルを打ち負かしたのを、私もこの目で見ていました。……こんなに心を動かされたのは、久しぶりです」
落ち着いた静かな声。けれど、その中にあふれる気持ちを抑えきれない感情が見て取れる。
(あのマルシス先生が、こんなに感情を……!? いつもなら、ちょっと面白いから放っておきたいけど……ノアにくっつきすぎ!!)
「宿敵って、あの人僕の剣の先生ですからね!? 気持ちは分かりました! だから、お願いです、離れてくださいってばぁあああ!」
(この人距離感バグってるからなぁ・・・女風呂の時もめっちゃ顔近かったし、女の私でもドキドキしたくらいだもん)
「そうですか。苦しいのなら、離れます」
急に冷静な口調でそう言って、マルシスはパッとノアを解放した。
ノアはその場に崩れ落ちるように倒れ込み、四つん這いで肩を上下させる。
「はぁ、はぁ……びっくりしたぁ……」
放心したように息をつくノアに、マルシスはまるで何事もなかったかのように歩み寄ると――
「では、最後に」
そう言って、ノアの額にちゅっと小さくキスをして小さく微笑んだ。
「……!?」
「以前の魔法の授業の時のような、魔法の投げキッスではないですよ。」
ノアはその場で固まり、完全に硬直。
みるみるうちに顔が真っ赤になっていく。
「なななななななな……なんで!?」
私は一瞬口を押さえたが、すぐにそれどころではなくなった。
「ちょ、ちょっとマルシス先生!? なんで今キスしたんですか!?」
「ノア君への賞賛とお礼です。私のような美人にキスをされて、喜ばない男性がいるとは思えません」
真顔で言い切るその姿に、私は思わず頭を抱えた。
「あああもうっ! 美人なのはわかりますし、知ってましたから! ご退出願います!!」
私はたまらず、マルシス先生の背中をぐいっと押す。半ば強引に扉まで連行し、ノブに手をかける。
「確か今日は泊まっていく日でしたよね? 」
マルシスは振り返って、いつもの無表情で、静かに告げた。
「では、二人とも。おやすみなさい」
バタン。
勢いよく扉が閉まった。
「ノア、大丈夫……?」
そう声をかけかけた瞬間、すでに床にいたはずのノアの姿は消えていた。
視線を移すと、ベッドの中にうずくまって布団をかぶった塊が一つ。
布団の端がぴくぴく震えていた。
「話しかけないで! もう今日は寝る!!」
くぐもった声が布団の奥から飛んできた。
(……まぁ、気持ちはわからんでもない。うん、今日はこれ以上語らないことにいたしましょう。お後がよろしいようで。)
「おやすみなさい」
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