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【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第三章 宇宙へ

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13. 宇宙の旅

出発から1時間半で、地上から400kmを通過した。昔、国際宇宙ステーションがあった高度だ。

過去の映像では、宇宙飛行士が無重力で活動している様子が見られるが、宇宙エレベーターでは全然重力がある。宇宙ステーションは地球の周りを高速で公転していた。その公転の遠心力と重力が同じになるように速度を調整していたんだ。だから、宇宙ステーション内は重力と遠心力が差し引き0になって無重力だったんだ。


なんて豆知識を室内モニターのライブラリー映像で教えてもらえるんだな。

その豆知識によると、この辺りはスペースデブリがたくさんあるんで、宇宙エレベーターのケーブルを取り囲んでネットが張られているそうだ。クライマーはネットの中を通過している。

で、そのネットはものすごい柔軟性と粘着性を持っていて、秒速数kmで飛んでくる銃弾よりもズッと速いデブリをキャッチできる。

と、言っても全部じゃない。キャッチできるのはだいたい3割ぐらいだそうだ。キャッチできなくても速度が落ちてくれれば地球に引っ張られて大気圏で燃えてしまうからOKだ。

希に大きなデブリにネットが破られることがあるんだが、大きなデブリはずっと追跡しているから、危ないときはクライマーの速度を調整したり、運行を一時止めたりして避けているから問題ない。




昼になった。下部の客室ユニットに食堂がある。狭いので時間が指定された交代制だ。指定された昼食時間になったので、光と2人でエレベーター内移動用エレベーターで降りていく。何だか妙な感じだ。

食堂はさっぱりした内装で、社員食堂のようだ。セレブ用は違うんだろうな。

メニューはハンバーガーとポテトにソフトドリンクだ。まだ重力があるが、液体が飛び散らないように考えられているようだ。

楽しむというような食事ではないし、時間制限もあるので、普通に食べて個室に戻った。


楽しいのはここまでだ。あとはあまり変化がないので、飽きずに外を見続けるか、読書か、ビデオを観るか、昼寝ぐらいしかすることがない。と、思ったら光が仕事を始めたよ。真面目か? って、俺もやらなきゃな。

そうそう、他にもやるべきことがあった。運動だ。宇宙飛行士と同じだ。

予約制の簡易トレーニングルームがあるので運動ができる。というか、運動しないと地上に帰ったときに病院送りになるので、運動は義務づけられている。ちゃんとモニターされているんでサボると乗員から叱られる。今日は初日だし、まだ重力が強いから任意だが、明日からはやらないと行けない。


夕食を摂ったら洗面と、部屋に戻って支給されているアイテムで体を拭く。この辺りの手順は事前にレクチャーを受けているから問題ない。

そうこうしていると車内アナウンスがあった。


『まもなく、火星重力センターです。お降りの方はご準備をお願い致します』


室内モニターを見ると、地上から3900km上っていた。アースポートを出発して最初の施設、鉄道で言うところの駅に着いたんだ。

ここは火星と同程度の重力0.38Gの場所で、火星に向かう人が訓練をしたり、火星移住のための研究をしたり、小金持ちが観光に来るところだ。割と小さな施設で、今回は常駐員の交代と消耗品の補給などを行うため、30分ほどの停車だ。

俺たちは観光じゃないんで見学とかはしない。エレベーターに乗り続けるだけだ。そろそろ寝る時間だしな。

流石に細いシングルベットで2人では寝られない。駄々を捏ねる光を説得して自分の部屋に戻ってもらう。


「無重力になったらまた一緒に寝られるよ」


ってね。旅はまだ長いんだ。ロケットと違って。




出発から30時間。2日目の昼過ぎに月重力センターに着いた。月面と同じ0.17Gの場所だ。ここは月面開発の研究と要員訓練の場所だ。結構大きな施設になっている。そして、登りと降りのクライマー交換の場所だ。

宇宙エレベーターは鉄道で言うと単線だ。登りと降りのクライマーを交換しなければ複数のクライマーを運行できない。鉄道と違って、たとえ一部分でも複線にはできないので、クライマーを交換するためのちょっとした工夫がある。

まず、荷物の少ない降りクライマーのユニットが、シフォンケーキの縦切りのように大きく2つに割れる。その間を登りクライマーが通過して、通過後に降りクライマーがまたドッキングするというわけだ。月重力センターには、この分離した降りクライマーを支える機構があるんだな。

ここまで1日半、帰りも1日半なので、3日に1回ぐらい運行できそうなものだが、クライマーを整備したり、巨大な貨物の積み下ろしやユニット編成をしたりする必要があるんで連続運転はできないんだな。

それと、この先は施設が少なくて、さらに施設間の距離が長い。クライマーの交換はあまりできないんだな。交換用施設を作るにも金と時間が掛かるから難しいところだ。




3日目の夕方、と言っても時計以外に時間を感じる要素がないのだが、低軌道衛星投入ゲートに到着した。地上から23,750kmの場所だ。ここから人工衛星をポイッと投げるて姿勢制御してやると、ゆっくり落ちて行きながら高度300kmの低軌道に入ってぐるぐる地球を回るんだそうだ。

これも室内モニターで見られるライブラリーの豆知識だ。

今回の運行では、積み荷の内、低軌道人工衛星を下ろす作業がある。そして登り降りのクライマー交換も行われる。


狭い部屋に3日もいると流石に辛いので、ここで6時間休憩だ。休憩のための施設もあって、宇宙シャワーとか広めの運動設備とか、マッサージ器なんかがある。乗客だけでなく、搭乗員も一緒に休憩だ。

ほぼほぼ無重力なんで、みんなぷかぷか浮いて楽しんでいる。こうなると肩こりとかも起きないんだがな、マッサージ器は大人気だ。


宇宙シャワーは人間洗濯機と言っても良いかもしれない。裸になって日焼けマシンのようなユニットに入り、目、鼻、口を塞ぐホース付きのマスクを着用してスタートすると、洗剤入りのシャワーが全身を洗ってくれる。

手が届くところは自分で擦っても良い。ほぼ無重力なので、壁にぶつからない範囲であっちこっち結構擦ることができる。

すすぎが終わると乾燥までしてくれるので、外に水が漏れる心配がない。さっぱりした。


3日目の夜更け。宇宙エレベーターは出発して再び上昇していく。

さっぱりしたし、無重力になったんで、狭い個室でいよいよお楽しみタイムだ。地上では決して体験できない噂に聞く体位を試すことになった。凄い時代だね。




6日目の朝。静止軌道ステーションに到着した。地上から36,000km。完全無重力。まだ目的地じゃない。

ここは人工衛星をポイとやると、静止軌道に入ってくれる便利なところだ。今回は投入する人工衛星はないそうなのでステーションのスタッフはのんびりしている。

ここでも登り降りクライマーの交換と乗客乗員の休憩だ。今回は12時間休む。


7日目朝。出発。そして9日目の早朝。ようやく月・コロニー連絡ゲートに到着だ。地上から50,000km。移動だけで170時間。休憩も含めて200時間もかかった。船旅のようだが、船と違って狭い。なかなか苦しかったぞ。セレブ達はもっとゆったりしたユニットを使うんだろうな。目一杯料金取ってくれ。


ここが宇宙エレベーターでの俺の目的地だ。ここから宇宙バスに乗ってコロニーに行く。

宇宙エレベーターは地球と一緒に自転している。ただし、地表が中心から6,370kmなのに対して、ここはプラス5万kmだ。移動速度も遠心力は半端じゃない。

だから、ここからタイミングを見計らってスペースバスをポイと投げると、その半端ない遠心力で簡単に月やコロニーまで行けるそうだ。

今回の運行の積み荷の大半はここで下ろす。というか、コロニー資材を積んだ貨物ユニットをまるごと外してスペースバスにくっつけるんだ。バスというよりスペース鉄道みたいだな。

貨物ユニットの組み替えと乗客乗員の休憩のため24時間滞在する。コロニー行きのスペースバスも24時間後に出発予定だ。

そういうわけで、今日は少し狭いビジネスホテルぐらいの部屋で滞在だ。


光とはここでお別れだ。まるで今生の別れのような顔をしている。まあ、宇宙旅行だからな。昔より安全だとは言え絶対ではない。ちょっとした空気漏れでも死ぬことは昔と変わらない。

そういえば、再新生してからスキャンしてないな。何かあったら今度こそ終わりか、はたまたもう一度前回の記憶でやり直しか。どっちも嫌だな。宇宙に来る前によく考えておくんだった。


光はエレベーター会社の社員だからな。コロニーではなく、エレベーターの終点まで見学に行く。地上から96,000kmの太陽系資源採取ゲートだ。途中には火星連絡ゲートがあるだけだ。郊外に行くと駅の間隔が開くようなもんだな。

で、所要時間は… あと200時間も乗るのか。って、ここまだ中間点なのね。大変だ。行ってらっしゃい!

だがその前にたっぷりお別れの儀式だ。はぁ。若いからってねぇ。




光と別れてスペースバスで出発だ。地球の自転で生じる遠心力を使う。慣性の法則で今までまったく気がつかなかったが、宇宙エレベーターもステーションも俺も、地球と一緒に高速で自転と公転してたんだな。物理学の知識としては知っているが、いざそういう状況に置かれて考えてみると実に不思議なものだ。

ここは地上から5万kmも離れているから、自転による遠心力は半端じゃない。タイミングを合わせてちょっとロケット噴射するだけで高速でカッ飛んでいけるんだ。宇宙エレベーターでは5万kmを9日かけて移動したが、スペースバスは4日で150万km先のスペースコロニーに着くんだ。すげーぜ。

ただし、投げ出す方向がちょっとでもずれたら生きて帰れる保証はない。スペースバス本体は昔の探査機のように何年もかけて帰ってこれるかも知れんが、中の人間がそんなに生きられるほど食料を積んでいない。コールドスリープはまだ夢の技術だ。

今のところ大事故は起きていない。発表された範囲では。すべてを発表しない国もあるから解らんがな。


というわけで4日間。今度は休憩なしで飛んでいく。

スペースバスは終始無重力なので、客室はカプセルになっている。資料映像で見た大昔のカプセルホテルに似ている気がする。これが長辺を接する形で並んでいる。通路側から見ると、ちょっと蜂の巣のようだ。どうやら強度を出すためにハニカム構造にしているらしいから尚更だ。

通路で向きを変えて頭からカプセルに入る。中には専用モニターとか、体を固定する器具とかがある。ほぼ寝るだけのスペースだが、出発と到着時にはGがかかるので、乗客全員が各自の部屋に入って体を固定する。

登場するとすぐに時計の変更指示が出た。PDAを見ると変更確認の表示が出ていた。宇宙エレベーターは日本より20時間遅れている、スペースバスはコロニーと同じGMTなので日本より9時間遅れ、宇宙エレベーターより11時間早くなる。この時差はなかなか面倒だ。


出発はあっさりしていた。期待したほどのGはかからなかった。出発の合図のあと、グッとくる感じが少しあったがすぐに楽になった。べつに体を固定しなくても良いんじゃないかと思うが、ルールはルールだ。そんなところで意固地になっても意味がない。


10分ほどでにベルト着用サインが消えたので、早速ロビーに移動した。カプセルの足下には鏡があって、通路に人が居ないことを確認して、足から抜け出す。

ほとんどの乗客がロビーに集まって窓の外や大型モニターを見ていた。窓は小さくて数が少ないので交代で覗いている。

俺も覗いてみたが、窓は進行方向の横に着いているので、後方の地球は見えない。正面より後ろの方に月が見える。月は地上で見るよりもずっと大きく、鮮明だった。それだけでも良い思い出になりそうだ。

前方のちょっと横に太陽があるが、そっちは窓ガラスに自動フィルターがかかっていてよく見えない。肉眼で見たらあっという間に失明するからな。


高速で飛んでいるのだが、窓の外を見ても全然変化がない。月だけが少しずつ遠ざかっていく。

それ以外はまるで停まっているようだ。星が好きな人はずっと見ているが、たいていの人はすぐに飽きてそれぞれやるべきことを始めた。

俺はとりあえずスペースバスの見学をした。移動できる範囲はどんどん移動する。トイレ、洗面、シャワーは共用だ。そしてここにもトレーニングスペースがあって毎日義務化されている。

娯楽としてはビデオライブラリーと音楽ライブラリーがある。個室のモニターやヘッドセットで楽しめるようになっている。


通信のタイムラグが大きいが、個人のPDAも普通に使える。光からメッセージが来てた。昨日のメールが今頃? と思ったら時差による勘違いだった。ついさっき送ってきたようだ。

気になったのでメッセージヘッダーの転送履歴を詳しく見てみると、一度地球のサーバーを経由して、さらに宇宙エレベーターの終点から無線で送信されていた。日本でのメッセージ交換なら1,2秒で届くところを、宇宙に来たら1分近くかかっている。こういうところで宇宙のスケールを感じるんだな。

で、メッセージの中身はって言うと…… さみしいって、別行動になってからまだ半日も経っていないぞ。

とは言え、返信はお座なりにならないように言葉遣いに気をつけて励ます。炎上するとまずいからな。『俺もさみしい』とか添えて。

あれ、俺っていつからこんな表裏を使い分けられる人間になったんだ? これも遺伝子いじられたからかなぁ。だとしたら光のせいだぞ。俺は悪くない。うん、そういうことにしておこう。


空いた時間は仕事だ。個室で直立姿勢で仕事する。上下が解らないから立っているのか寝ているのか解らない。浮いているからどこも疲れない。ただ、操作する度にPCがグラグラするんで、備え付けの固定器具で壁にPCを固定する。すると、今度は自分の体のブレが気になる。固定用ベルトで自分もPCと反対側の壁に貼り付くと、今度は肘が壁にぶつかってPCを操作しずらい。

そう言えば、ガイドブックにやり方が出ていた気がするぞ。PDAで閲覧すると、向かい側の壁から固定用のバーを伸ばして腰のベルト、へその辺りに付けろ、とある。なるほど。これなら体も動かないし手も自由に動くな。


いつも通りPCでコロ開のサーバーに接続して作業する。うん、やっぱりレスポンスが遅い。コマンド入力してから結果が表示されるまでちょっと待たされる。

まるで、20世紀の終盤、ネットワークが普及し始めた頃のようだ。その頃のことは文献でしか知らないが、初めてネットワークを使った人達は遅くても繋がることを喜んでいたようだ。しかし、繋がるのが当たり前の時代にこのタイムラグは辛いぞ。

この先、コロニーに近づくにつれてこの待ち時間がどんどん長くなっていくんだな。イライラしないように気をつけよう。メンタルの訓練された宇宙飛行士ではないからな、なかなか辛いよ。

ん!? メンタルの訓練? あ、俺、座禅とかやってるじゃん。再新生してからあまりやってなかったから忘れてたよ。応答が帰ってくるまで瞑想しよう!



=====

留浦2「あいつ、大丈夫かなぁ。ちゃんと瞑想できるのか?」

紗綾香「魂が別人ですからね。記憶として瞑想を知っていてもできないでしょうね」

光2「大丈夫。悩むような性格じゃないから、瞑想できなくても平気だよ」

留浦1「なるようになるということだな。我々としては見守ってやるだけだ」

各数値は筆者の概算です。間違いや見込み違いがあると思います。

『それはないだろう』という数値がありましたら感想欄からご教授頂けますと幸いです。

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