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【完結】--新生--生まれ変わって山へ、宇宙へ  作者: 浅間 数馬
第三章 宇宙へ

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14. L1-1

星空はいくら見ても飽きない。

という人もいるが。ずっと変化がないと流石に飽きる。宇宙エレベーターも、各ポートも地球と一緒に自転しているから星空が動いている。だから長時間見ていると変化があるから飽きないけれど、スペースバスはまっすぐ飛んでいくので、無限の彼方と言って良いほど遠くにある星は止まって見えるんだ。ずっと。

星空が楽しいのは宇宙エレベーターに乗った最初の3日ぐらいだな。あとはスペースバスに乗り換えたときにちょっと見るぐらいだ。

そうなると暇つぶしは読書か、音楽・映像ライブラリーを楽しむか、トレーニングルームで汗を流すぐらいしか余暇の過ごし方がない。

そんなわけで、仕事を持ってきている人はオーバーワークになりがちだ。残業、休出した方が時間が潰せるからな。実際、曜日感覚がかなり怪しくなっているから、無意識に休日出勤してたりする。

俺の場合は瞑想で時間を潰そうと思っていたんだが、なぜか雑念が去ってくれない。おかしいな、新生前はあんなに心が落ち着いたのに。光が俺の遺伝子操作依頼したっていうからその影響かな? わからん。


もう一つ。結構時間を取られる務めが俺にはあった。光とのメッセージ交換だ。光がテキスト、音声、動画と様々にメッセージを送ってくる。内容は全部一緒だ。

退屈でさみしいのは解るが、ものすごく距離離れててタイムラグが大きいから通話もしてやれない。自分で選んだ仕事だ。がんばれ! とはメッセージで送れない。心の中で念じる。

で、返信メッセージを作る。毎回同じだと炎上するから内容を変えなければならない。これが大変だ。そんなにネタないよ。考えてる内にまたメッセージが来ちゃう。返事がないって怒ってるよ。地獄だ。


L1-1到着まであと5時間だ。辛かった旅もようやく終わりだ。流石に気持ちがはやって仕事が手に着かない。今日は代休にした。目が覚めてからずっと、旅の資料のドッキング方法解説を読んだり、モニターの数値を確認したり、映像を見たりしている。

今、モニターを見ると、昨夜は点のようだったコロニーが目の前にある。少し前までは周囲にもコロニーが見えていたが、今はL1-1に近いので、視界のすべてがL1-1でいっぱいだ。


昨日から断続的に減速している。コロニーの公転に合わせて相対速度を0にしなければならないが、空気抵抗とかがないから簡単には減速できない。減速にはロケット噴射を使うが、ここで多くの燃料を使う。

噴射する度にGを感じるが、苦しくはない。乗客と積み荷に負担が掛からないように、少しずつ断続的に減速しているわけだ。


コロニーの中心軸から、アイスキャンディーの棒のようなものが伸びている。それが港だ。以前、BJスペース建設でVR映像を見た通りだ。

そう言えば、あのときは会議室の大スクリーンだった。凄い迫力だったな。光と一緒に驚嘆したっけ。今は目の前の10インチモニターだ。実際の方が迫力がないというのも残念なものだ。


L1-1のすぐ近くに到着したが、乗客は待機させられている。今は貨物ユニットの切り離しが行われているからだ。貨物ユニットは、ここからタグボートのような小さな宇宙船に曳航されてL1-BJの建設現場にゆっくり運ばれるんだ。


貨物ユニットの切り離しが終わって、スペースバスがコロニーのポートに接舷した。様々なチェックが終わるまでは各自個室で待機だ。少ない手荷物をまとめて心を落ち着ける…… うん、全然落ち着かないな。どうしちゃったんだ? 俺。


メディカルチェック用のウェアラブルデバイスを身につけるように、というアナウンスがあった。乗ったときからズッと付けているが、念押しだ。

無重力空間から重力のあるところへ移動すると体調不良が起きることが少なくない。だから運行側で監視するんだな。




ようやく下船許可が下りたんで個室から出ようとすると、他の乗客も一斉に出てきて通路は大混雑だ。たいていの乗客はコロニー初訪問で、俺と同じようにワクワクしている。

ぞろぞろと宇宙船の出口に向かう。ポートも無重力だから、ちょっと力を入れるだけでスーッと移動できる。止まれないので前の人にぶつかりそうで気を遣う。と思ったら、逆に後ろから押されて玉突き衝突だ。危ない危ない。


少しずつ乗客の列が進む。コロニー側に入ってしばらくすると、目の前に5人が横に座れる座席ユニットが見えた。コロニー内移動ポッドだ。

列の前の人が移動ポッドに乗り込んでいる様子が見える。座面の下に荷物を入れて腰掛けてシートベルトを締め、肩と胸を押さえる安全バーを下ろすと扉が閉まって動き出す。すると次の移動ポッドがやってきて扉が開く。まるでテーマパークのアトラクションのようだ。

俺の番が来た。一番隅の席に腰掛ける。5人全員準備ができると出発だ。俺を先頭に横向きに、コロニー内部に入っていく。扉の内側、つまり俺の目の前にはモニターがあって現在地と行き先が表示されている。事前に読んだ案内の通り、まずは 0.5Gの入場ゲートに行くんだ。

照明に変化はない。特別な音響効果もない。そりゃそうだ。アトラクションじゃないからな。

コロニー本体に入ったと思われるところで座席が回転し、今度は足の方向に動き出した。

なるほどね。無重力とか重力とか、慣れていない人に勝手に動かれたら事故の元だ。こういう乗り物で連れて行った方が安心だよね。


だんだん重力を感じてきた。コロニーの円周側に移動しているんだ。基準となるフロアは地球の地表と同じ1Gだが、ろくに訓練も受けていないのに何日も無重力空間にいた人がいきなり1Gの場所に立つとたいていトラブルになる。まずはここで休んでいくんだ。


入場手続きはちょっと面倒だ。ここは国際コロニーなので各国共同運営だが、日本じゃない。外国の入国手続きのように検査が行われる。

検査が終わったらラウンジに行く。

ここでは仮眠や食事が取れる。シャワーもある。ゆっくり休んでからメディカルチェックを受けて、合格ならもう1つしたの 0.8Gのラウンジに行ける。メディカルチェックはウェアラブルデバイスで自動で行われている。

軽く食事した後、シートに腰掛けて休みながら周囲を見ると、心なしか床が湾曲しているように見える。気のせいじゃないな。コロニー中心からどれくらい外にあるのか解らないが、おそらく直径2、300mぐらいの円筒形内部にいるからだ。円周方向を見ていると気分が悪くなりそうなので中心軸に平行に、円筒の高さ方向を向いて休んだ。


どうやら体調が悪い人が居たようだ。メディカルスタッフがやってきて、全自動車椅子でどこかへ連れて行った。運動をサボったのかかな? 持病があったら宇宙には来られないはずだからな。体質とか、メンタルが原因というのもあるかもな。


スペースバスや宇宙エレベーターの中でどれだけ運動していたかでこのラウンジの滞在時間が変わる。俺は暇に任せて結構運動していたので、1番じゃないけど割と早く、3時間ほどでウェアラブルデバイスが移動OKのサインを出したんで下に移動できた。

下のラウンジへの移動は普通のエレベーターだったが、中に座席があった。乗ったのは俺1人だが、エレベーターAIが必ず座れと言うので素直に座って乗った。降りる速度が少し遅い気がした。そして、降りるに連れて体が重くなる気がした。これが重力か。当たり前のことを改めて実感したよ。遅いのも事故防止なんだろうな。


下のラウンジでも同じように2時間休息。ようやく基準フロアへの移動許可が出た。


基準フロア、コロニー内の地面がある高さに着くまで丸一日かかった。コロニー到着前から変な緊張が続いていたからクタクタだ。俺は早い方だったが時刻はもう夜8時だ。遅い人は上のラウンジで一泊だな。

コロ開事務所には明日行くことになっている。今日は一般のビジネスホテルで一泊することになっている。巡回バスに乗って予約したホテルに行き、チェックイン。

宇宙エレベーターのアースポートにあったホテル以来、2週間ぶりに普通のホテルだ。洋式なので大浴場とかないのが残念だが、個室の洋式バスタブにちょっとお湯を張って、下半身だけ湯船につかった。ベッドでも大の字になって寝られた。熟睡。




翌朝。ホテルをチェックアウトしてコロ開事務所に出頭。今回の出張ではL1-1の見学、そしてL1-BJ建設現場の視察をする。こっちに滞在して間もなく1年になるというおじさんが同行してくれることになった。おじさんと言ってもまだ新生していない自然人の50歳。俺の半分の年齢だ。ややこしい。


まずは歩いて15分の宿舎に案内してもらう。


「上を見てください。あっちにも逆さまの街が見えるでしょ。頭では解っていても、慣れるまで気持ち悪いものですよ」

「確かに。1kmぐらい離れてますよね。あっちの人の顔が見えなくて良かった。でも、人や自動車が動いているのは解りますね」

「そうなんですよ。何か落ちてくるんじゃないかと不安になります。落ちる前に500m以上、上がらなきゃならないんで、ロケットでもなければこっちに来ないんですけどね」

「そうですね。地球で身につけた常識はなかなか変えられないですよね」


コロニーあるあると思われる話題だが、初めて体験するとやっぱり不思議だし、へー、っと思ってしまう。そんな話をしている内にすぐ宿舎に着いた。


「留浦さんの部屋はここです。ちなみに私の部屋はあそこですから、解らないことがあったらいつでも来て下さい」


宿舎は日本式だ。狭いワンルームだが、風呂に浴槽がある! 嬉しい。体育座りでやっと入れるサイズだがな。


「コロニーでの湯船はものすごく贅沢なんですよ。電力は太陽光から十分作れていますけど、水は有限なんです。運搬が大変ですからね。なので、コロニー内で浄化して循環させているんですけど、その能力も限度がありますからね。大量に水を使うことを遠慮しています。

でも、このサイズなら使う水の量はシャワーと変わらないから、毎日入っても大丈夫ですよ。それでも遠慮して、2,3日追い焚きする人も多いです。欧米人は毎日シャワーを浴びない人もいますからね」

「なるほど。気をつけます」


このサイズ、確か最初の大学時代に苦学していた同級生のアパートにあったのと同じぐらいだな。俺はこのサイズに入ったことはない。まさかこんなところで貧乏くさい生活をすることになるとは。人生、解らんもんだな。

そうか、そうすると昨夜、ビジネスホテルで半身浴とは言え湯船につかったのはまずかったかな? また日本人が水を無駄にした、とか悪評が立っていなければ良いが。

そういうわけで洗濯は自分で行わずにクリーニング店に出すそうだ。パンツも。日本人が経営しているお店だから気兼ねしなくて良いとは言うが…


宿舎に荷物を置いて、いくつか注意事項を聞いたらぶらぶらしながら近所の見学だ。


「外国に住んだことはありますか?」


歩きながらおじさんが問いかけてきた。


「いえ。50年以上前に学会でEとUに2回ずつ行ったことはありますが、いずれも短期間でした。住んだことはないです。興味がないんで海外旅行にも行きませんでした」

「そうですか。じゃ、ちょっと注意が必要ですね。ここは日本ではなく、外国だと思ってください。ここに来れる人は選ばれた人だけなので、治安は良いです。犯罪は聞いたことがないですね。でも、事故とか喧嘩は時々起きます」

「事故があるんですか? 乗り物は自動運転でしょ」

「欧米の人は自転車に乗りたがりますね。それで接触事故とか結構あります。

それと、ストレスが溜まるんでしょうね。ここは。結構頻繁に、些細なことで言い争いが起きますから、注意してください。

諸外国の人は我々とは常識が違います。まあ、慣れれば解ると思います。とにかく、100%自分が悪いとき以外は謝っちゃダメですよ。少しでも相手に非があると思ったら、自分の正当性を主張してください。そしてすぐにコロ開に連絡してください。顧問弁護士が助けてくれます」

「宇宙でも訴訟があるんですか?」

「ええ、ここは外国です。しかも地球と違ってストレスが溜まった人ばかりの。そういう所が気が休まらないところですよ。

そうそう、聞きましたよ。BJでは留浦さんがストレスのない環境を作ってくれるんですってね。早くBJが完成して穏やかな日本人社会ができることを願ってますよ。

ま、私はもうすぐ日本に帰りますけどね」


なるほどね。宇宙に来たと思っていたが、これから過ごすコロニー内は外国と同じなのか。ここまでの道中は、まさに宇宙旅行って感じだったのにな。

そして俺の役目は想像以上に重いものなんだな。初めて実感したよ。



=====

光2「無事にコロニーに着いたね。3代目光はエレベーターの終点まであと5日みたい」

留浦2「へー。それで、3代目光はエレベーターの終点に何日滞在するんだい?」

光2「長期滞在は無理ね。業務上の確認をしたら、3代目のあなたを待たずにすぐに地球に帰ると思うわ。コロニーに比べたらずっと狭くて気が狂っちゃうから」

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