[第19話]ドラゴン娘、王都に現る
一方、エアルトたちが王城でパーティーに参加していた頃。
王都に12ある市門のひとつでは、鎧に身を包んだ門番がふたり、職務そっちのけで飲んだくれていた。
「今頃、城の方では大盛り上がりだろうなあ。うまい飯にうまい酒。俺も一目竜殺しの英雄の顔を拝んでみてえもんだなあ。ヒック」
「まったくだな、相棒ぇ。英雄の凱旋っちゅうめでてえ時に見張りたあ、俺たちも運がねえ。ったくよお、こんな夜中じゃ門をくぐるやつも滅多といねえのに何を見張れってんだ」
酒をあおりながら愚痴垂れるふたり。
実際、王都の中心部とは違って城壁近くではほとんどの住民が寝静まっており、外を出歩く者などひとりもいなかった。……普段であれば。
城壁外から市門に近づく影がひとつ。
白い肌、赤い目に銀色の髪をした妖艶な美女。
しかしただの美女ではない。
頭部からは黒くねじれた2本の角、腰には黒い鱗に覆われた尻尾。
細身の体には似つかわしくもない巨乳は一切れの布もまとっておらず月明かりに照らされているが、本人は気に留める様子もない。
「おい。俺たちゃ、少しばかし飲みすぎたようだぞ。幻でも見てるのか?」
門番のひとりがそう言いながら、もうひとりの頬をつねる。
「いててっ。いや、こりゃ夢じゃねえぜ。なんてこった、裸の女がこっちに向かって来てるぜ。ぐへへ」
ふたりは女を見ていやらしげな笑みを浮かべる。
しかしどうやら胸にしか目がいってないようで、禍々しい角と尻尾には気がついていないようだ。
女の方はそんなふたりのことなど眼中にないかのように歩を進め、跳ね橋を渡る。
そして門をくぐろうとしたその時、女の行手に門番たちが槍を立て道を塞いだ。
「待ちな、お嬢ちゃん」
女は声をかけられて初めて門番たちに気づいた様子で、彼らに視線をやる。
「なんじゃ? 妾に用かえ?」
その鋭い眼差しに門番は一瞬たじろぐ。
「こっ、ここから先は王都だぜ。この門を通りたければ、通行許可証か通行料を出すんだな」
「まあ、見たところ、どちらも持っているようには見えないがな。というか何も持っているようには見えんなあ。ぐへへ」
ふたりは改めて女の身体を舐め回すように見る。
「ふむ、金かえ……。昔は山のように持っておったんじゃが、起きたら無くなってしもうてのう」
「物取りってやつかい? それは気の毒に。服まで奪うたあ、いい仕事--ゲフンゲフン、ひでえことしやがる」
「ぐへへ、まったくだ。だがしかし、ただで通してやるわけにはいかねえ。決まりだからよお」
「もっとも、絶対に入れてやらねえこともねえ。俺たちゃ、お嬢ちゃんみたいな綺麗な娘には『もうひとつの方法を提案』してやることにしてんだ」
「もうひとつの……? 何じゃ、それは?」
首をかしげる女に、門番たちは下卑た笑みを浮かべた。
彼女を囲むように、ひとりが後ろに回り込む。
後ろに回り込んだ男は、そのまま慣れたような手つきで女の体に手を回すと、彼女のむき出しのセックスアピールを鷲掴みにする。
乱暴に揉みしだきながら彼女の耳元にささやきかける。
「その身体で俺たちを満足させりゃ通しでやらんでもねえ」
彼らが今まで娘たちを手ごめにしてきた方法だった。
金の無い通行者に無理やり肉体関係をせまる。
相手だってここを通りたいのだから大した抵抗もないだろう、それに今回は全裸で近づいてくる痴女相手なのだからなおさらだ、と門番たちは考えていた。
だがその予想は裏切られる。
女は先ほどとは比べ物にもならないような強く刺すような視線を、胸を掴んできた門番に向ける。
「貴様……。わらわに触れたな?」
「ハッ、ブヘッ--」
次の瞬間、彼はかつてない強い衝撃に襲われて吹き飛び、受け身も取れず地を転がる。
その頭では今の一瞬で何が起きたのかすぐに理解できなかった。
やっとのことで攻撃を受けたのだと理解し臨戦態勢を取ろうとするも、震える膝が立つことを拒絶する。
門番の揺れる視界が再び捉えた彼女は、どこから取り出したのか得物を携え、軽蔑の眼差しで向かってくる。
軽蔑と言っても、強姦魔に対するものではなく、まるで家屋に侵入した害虫でも見るかのようだった。
害虫を叩き殺そうとするが如く、女が得物を振り上げる。
その攻撃を防御するため左腕を上げようとしたとき、彼はついに全てを理解した。
「う、うわああああっ! お、俺の腕がああああ!」
彼の左腕は肩から先がそっくり無くなってしまっていた。
そしてその腕は目の前の女が振りかざしていたものだった。
そう、最初の攻撃の時点で腕を引きちぎられていたのだ。
「思い上がりおって、一般モータル風情が……。妾に触れてよい男はわらわを倒せる者だけ。我が夫にふさわしいとわらわが認めた者だけじゃ。薄汚い手で触れおって。その代償……貴様の命で払ってもらおうかの」
「ひっ。や、やめてくれっ! 俺が悪かった……っ! 命だけは--」
--グチャッ。
命乞いむなしく、門番の男は振り下ろされた自身の腕で絶命した。
もうひとりの兵士は恐怖で立ちすくみ、仲間が無惨に殺されるのをただ見ていることしかできなかった。
怯えて立っていることもやっとな彼に女は近づき、そして持っている『もの』を押し付けて言った。
「通行料と申しておったの。こいつで不足あるまいな?」
「……ッ」
かつて仲間の一部だったものを無理やり掴まされ、男の恐怖は絶頂に達し、静かに失禁した。
惨殺死体と正気を失った兵士。
城門に広がる地獄絵図を尻目に女は王都の中へと消えていった。
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