[第16話]土魔法術師、カレーライスを作る。[後編]
パーティーの料理人の代わりを買って出た俺は貯蔵室で米を見つけ、米料理を作ることにした。
米を調理する前にしなければならないこと、それは米を研ぐことである。
研ぐことで米の表面のぬかを取り除き、独特の臭みを抑えられる。
だが、パーティーの規模的に1俵は必要だ。
さすがに俺ひとりでこの量をさばくには無理がある。
と言うことでターリスに手伝ってもらうことにした。
「土魔法《生成:泥人形》!」
呪文を唱えると土くれからメイド服を着た巨乳の美少女が生まれた。
「はうぅ〜、ご主人さまぁ〜。もう二度と呼んでもらえないのかと思いましたぁ〜」
ゴーレムのターリスは生成されるなり、その豊かな胸を押しつけるように抱きついてきた。
--ふにっ。
「やれやれ。いつものことながら大げさだな、お前は」
「そんなことないですよぉ〜。ほんとに寂しかったんですからね。私だってできることならずぅ〜っとご主人さまのおそばに居て--」
「はあ、分かった分かった。それで、さっそくだが手伝ってもらうぞ」
「あっ、待ってくださいぃ〜。その前に、その、『代償』を……」
「そうだったな」
俺は彼女のあごをくいっとあげて、召喚の代償を与える。
--チュッ。
「はぅわぁ〜、ありがとうございますぅ〜」
とろんとした目で名残惜しそうに唇をなぞるターリス。
「あんっ、もうっ。ふたりとも見せつけないでくださいましっ」
王女エレノアは真っ赤になった頬を冷まそうと両手を当てる。
やれやれ、これはただの儀式みたいなもので見せつけたわけではないんだがな。
「さあ、それじゃあ手伝ってもらうぞ。今すぐ料理を作らないといけないんだ。ざっと100人前ほどな」
「ひゃ、100人!? な、なんでそんなことになったのか分かりませんが、了解しましたぁ〜。何から始めましょう?」
「まずはそこにある米を洗ってくれ。水が少しにごる程度にな」
「おまかせくださいぃ〜」
俺が命令するとターリスはすぐ作業に取りかかった。
人間では到底再現できない凄まじい速度と正確さで米を研ぎあげていく。
やはりこういった単純作業はターリスに任せて正解だな。
「エアルトさま、こめは小麦のように挽いたりしませんの?」
「ああ。食べるのに手間が掛からないのも米のメリットだな」
少しエレノアと話をしているうちに、ターリスは米を研ぎ終えたようだ。
俺は米と大量の水を大鍋に入れて火にかけた。
そして次が最も重要な工程。
「土魔法《圧力鍋》!」
ほとんどの料理に使える便利魔法を唱えた。
「このまま茹でるだけでよろしいんですの?」
「いや、茹でているんじゃない。……炊いているんだ」
「たく……ですの? そんな調理法聞いたことがありませんわ」
「ああ、これは東の国から来た商人に聞いた調理法だ。茹で汁を食材に吸わせることでうまみが閉じ込められて、ふんわりとした食感になるんだ」
「まあっ、そうでしたの。エアルトさまは本当に物知りですのねっ」
「えへへ〜、私のご主人さまに知らないことなんてありませんからぁ〜」
なぜかターリスが得意げに胸を張る。
そんな彼女を傍目に俺は貯蔵室からじゃがいも、にんじん、たまねぎ、牛肉を取り出した。
これらも洗って一口大に切るように指示する。
ターリスの包丁さばきなら100人前の食材も一瞬だ。
切った食材は鍋に投入し、たまねぎがしんなりするまで炒める。
十分に炒まったら水を張って煮込む。
通常なら数時間、土魔法《圧力鍋》なら1分。
「あ、あの……エアルトさま? パーティーに野菜スープというのはさすがに質素すぎるのではありませんか?」
「別にこれで完成というわけじゃない。仕上げにこいつを入れるんだ」
俺はおもむろにローブの内から小瓶を取り出した。
「ご主人さまぁ〜、それはなんですか?」
「これはスパイスをいい感じに調合したものだ。昼間、市場で西の国から来たって言う商人から購入していたんだ」
「スパイス? 胡椒のことですかぁ〜?」
「胡椒だけじゃないさ。ナツメグやコリアンダー、シナモンとか西の国でしか手に入らないスパイスをいい感じに調合してある。これととろみ付けの小麦粉を入れてっと……」
ただの野菜スープだったものが茶色くとろみがつき、西の国特有の風味を放つ。
「わぁ、いい匂いがしてきましたぁ〜」
「まあ、ほんと。ツンとした香りが唾液腺を刺激しますわ」
「これが西の国の伝統料理『カレー』だ。ちなみにスパイスには殺菌作用があるから食中毒対策にもなるんだ」
そして俺は器に炊いた米を盛り、その上にカレーをかけた。
東の国と西の国の食文化が融合した瞬間だった。
「俺はこの料理を『カレーライス』。そう名付けたよ」
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