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包囲網を張る


グァグァグァ…



アヒルらしからぬ激しい水音を立てながらソレが進む。


「確かに速度は早いですが、どうしても目立ちますね…」


「本来はあの公園に置くような、水遊び用のボートらしいですからこんなものでしょう」


青年の指差す先、離れた場所に公園があり、中年男が水鳥に餌を与えているのが見えた。


「…確かにそうではあるが、その外観が起用されてしまっているから、今こうして問題点を上げているのだと忘れてはいませんか」


「失礼しました」


それが当然であると言い放った文官の青年に注意を促した。

また、文官同様それが当たり前と認識かけていた己自身に活をいれると、宰相は再び視線を作り物のアヒルに戻す。

180以上の長身で、碧眼に金の長髪を後ろで纏めた彼は、大公国の若き宰相である。

彼らは再編された軍の訓練を、重要な役職者を伴い数十人規模で視察に訪れていた。


そして、アヒル船単体ならたいした事はないが、十に及ぶカルガモのような隊列に誰も彼も“遊びか”と突っ込みをいれていた。


先頭の旗艦は、海のガレー船程度大きくはないが、対岸まで三キロ程度の湖ではかなり大型で15メーター(大型トレーラーサイズ)もある。


船上部は、貨物室で喫水線の裏側の動力室には、タテに三列に動力の水車が左右に六輪。水車に繋がるペダルを二人一組計12人で漕ぐ仕様である。

そして何故か、アヒルに追従する子ガモが9隻


一人こぎの高速艇だが、横波に弱いらしく先ほど一隻沈没、現在は腹を見せたまま波にさらされている。


採用した軍もアレだが、本来の開発者のアティア嬢は、一体何を考えて設計しようとしたのだろうと視察中の宰相は頭を悩ませるばかりである。


「安全性も低そうだが遅いな。しかも音がウルサい。」


「確か試作段階では、小柄で痩せた中年男性をスカウトし操縦をさせましたら、一般人でも手漕ぎボートより遥かに早く移動できると実証されたとの話だったのですが、実際には見ての通りです。テストデータの改竄(かいざん)の後は見られませんが、最初から虚偽の報告をしていたのでないかと思われます」


青年から渡された資料に目を通していた宰相は、試作品の協力者の名前を見て青年に問いかける。


「このラズオウと言うのはどこの者だ?」


「実在するかは怪しいですが、学園のある都市付近に在住しているらしいです。氏族名も明記されていませんし、事件後に当時の状況を聴取しようとしましたが、我々の捜査網に一切かからないので捜査対象からはずされたようです。もし、実在してたとしも、利用されただけの一般人ではないでしょうか」


前任の軍務大臣が失脚する足掛かりに、開発部の内部調査に数人送り込んでいたのだが、当時の当人達も資料も全くアテにならない状況だった。


試作品一号は、金属疲労により足まわりから分解してしまったとゆう意味のわからない理由で廃棄されている。


―曰わく、過去類をみない速さでアヒルは水上“を”駆け抜けた。


あれ?船の話してたんだよな。と誰もが耳を疑ったが、試作品の水上運用試験に立ちあった者は自分の頭を疑ったなどと話していたと言う。



「ふむ、このラズオウと言う人物だが、開発者のアティア嬢の養父殿と名前が同じなので気になったのですよ」


「確か隣国の元将軍でしたか」

「あの方も軍人としてはかなり小柄だと聞いた事がありましたから、彼みたいな武術に秀でた者が身体強化したら有り得ない話ではないのですか?」


「各国の英雄だったら、可能かもしれませんが、今操縦している彼らも身体強化は国内屈指の精鋭です。たまたまスカウトした中年男がそんな人だったと課程した場合。

酒場の笑い話どころか、もはや開発部には不幸過ぎる事故に合ったと思ってもらうしかありません」


「それもそうか…」



「ラズオウ将軍は、現場指揮以外では絶対に姿を見せなかったらしいですからね。」


「私が宰相になる前に引退していたからな。軍部ですらラズオウ将軍の顔を知る者がいないと聞いた事があるな」


「養女の退学を耳にし学園に、元配下の騎士団が丸ごと警護役として連れて来られたらしいですね。

かなり難しい気性の御仁らしいですから、流石にそれはないかとおもいますが…」


実際、騎士団はラズオウの護衛ではなく、ラズオウが暴走した際にラズオウから周りを守るよう上から指示されていた。元々気休め程度でしかないと解っていたからラズオウの指示に逆らわず素直に帰還したのである。


因みに、ラズオウは対魔物の戦場に赴いたりしていたので、外交パーティーなどは積極的に参加していた。


では。

なぜ、国内はともかくとして、国外に置いてラズオウの顔を知らない者が多いのかと思われるだろう。


それは、軍服が立派過ぎる事に一因がある。


ラズオウが将軍らしく見えるように仕立てた立派な軍服に着られて(←注目よ?)しまうと、タラコ唇の小柄なオッサンが、ドラゴンを単騎で討伐出来るだろうと確信でき、目も合わせていられないほど威圧感ある強面の恐ろしい将軍に見えるらしい。


が、本人はあくまで“くたびれたサラリーマン”でしかない。

すれ違い様に気にならない。めしくは見てすぐ忘れてしまうほど印象が薄いのだ。


が、軍服がないと事務員にしか見えないので苦肉の策を講じた結果そうした摩訶不思議なラズオウ将軍像が出来上がってしまったらしい。


そして、そんな男ラズオウは宰相達の視界の中に収まっていたりする。


公園のベンチから湖にいる本物のアヒルや鳩達に餌を与えていたのだった。


襲われているとも言う。


視察を終えた彼らは数回の議論の後、飾りの頭部を首ごと切り落とし、色を変える指示を出す事で意見が一致した。


が、どうやら市民には情報が歪曲し伝わったらしく、公園のアヒル達の保護を目的としたデモが起こり数日の間に“湖のアヒルの首を落とす行為を我々は認めない”という、ある意味正しくもある署名、国内外合わせて一万人分が、他国の騎士にしか見えない謎のボランティア団体から届けられた。


そして、噂を聞きつけた正義感溢れる(いわゆる自己中勇者)冒険者が自発的に湖の見張りを買ってでたりするなど、意見の食い違いが正されぬまま、この騒動は混迷を究めていく。


―ちゃんちゃん。


▼


余談ではあるがこの騒動による過激なボランティアたちによるテロが懸念され、大貴族主催の夜会やなどが一部自粛される事となった。


そう。さながらそれは、デウス・エクス・マキナがいるかのように話は廻る。


そんな機械仕掛けの神は“いない”断ずるアティアだが、堂々と自粛するために養父に頼まれた署名集めに奔走し、養父に更なるアドバイスをしながら本人も知り合いを手当たり次第にまわり、あるいは路地裏に連れ込み魔力で威圧し署名の数を爆発的に増やしたのだった。

なぜか、周辺諸国に飛び火し丸焼き姿焼きなど大衆料理のあり方が見直される事となった。



―らしい。

アティアが包囲すると言うオチ

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