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沈黙の侯爵

ワシ、マジック・サンデックは、世間から“語らずのマジック”やら“沈黙のサンデック侯爵”など呼ばれちょるようじゃが、領地持ちのほとんどの貴族が似たようなもんじゃ。

議会で口を挟むのほとんどの者が領地を持たぬ法衣貴族じゃな。

法律は昔決まってから変えられたら事もないし、議会の題材なんぞ大概が王都にある老朽化した橋の補修工事やらをどこが主導で行うかを決める程度じゃ。

領地持ちは自分らでなんとかせにゃならん些細な事でも、法衣貴族には自分らの名前の入った記念碑やら橋に刻む唯一の機会じゃから景気よく金をバラまいて後々食うにも困る者もたまにおる。


まぁ、そんなもんおくびにも出さず自慢して歩くから、言葉に吊られた馬鹿が見栄を張って苦労するのじゃが…。


よほどの好き者でもない限り、地方貴族が国政に口を挟む事はないわ。


そんなもんさっさとと点検だけしてダメな所だけ工事やって終わらせろとおもうんじゃが、地元から離れた王都の工事にわざわざ名前だけ参加したいとは思わんわ。


それはともかく、あの娘何考えとるんじゃろ?


可愛らしい顔して、色恋沙汰を嫌煙するのも珍しいが、普通は玉の輿くらい夢見たりせんもんじゃろか。


ウチのエリックは、聡明とは呼べんが馬鹿ではないしなかなかに優秀じゃと思う。


顔も悪くないらしく、夜会に参加すればおなごに囲まれるくらいじゃ。


勿論、外面か玉の輿狙いの強かな娘ばかりではあるがそうした娘達は愚かではないからの、エリックと個人的に良い関係を築こうとするの事に口を挟む必要はないわな。


エリックが大公国に留学してからはなくなったが、以前はお見合いを兼ねた茶会やパーティーなんか毎日のように送られてきてどこを断るかに頭を悩ませる事もあったくらいじゃと言うのに、“エリックが可愛そう”とは如何な物じゃ?


アティア嬢としては、教養もない年上だからみたいな言い訳しておったが、お主人間関係築くのめんどくさいとしか考えとらんじゃろ。


―ワシだってめんどくさいわ。


「ワシだって…むう、いかん寝ておったか」


深夜を過ぎても変わらず互いを罵り会う若い法衣貴族の声に起こされたようじゃ。


眠気冷ましに、ポケットから飴玉を取り出し見つからぬように口に入れた。


口をモゴモゴしながらぼけっと言い争う姿を眺めていたのじゃが、ワシに気付いた言い争っていた二人の貴族がなんでか恐ろしい物でも見てみてしまったように黙ってしもうた。


「さ…サンデック侯爵、何かご意見など御座いましたら…」



二人の周囲で騒がしくしておった連中まで釣られてコッチを見ておるが、ワシなんも言うとらんし飴玉のせいで口も開けん有り様なんじゃがの?


仕方なくゆっくり手を振って“問題なし”の意志を示す。


昔から、積極的に参加してない者はこうして言葉を出さないしきたりじゃからの“知らんから勝手にやれ”と沈黙を態度で表して毎回議会の終わりを待つだけじゃ。


全員参加が基本じゃから会議場は常に満席状態じゃわ。


しかも、会議場での飲食禁止の休憩もないのにトイレ退出不可。


それも会議が決がとれない限り会議は終わらぬ。


昔の王がムチャな法案を通すために決めたんじゃが、三日間ぶっ通しで会議をすれば誰も彼も限界になり賛成で終わるからだなんて茶苦茶だの。


法衣貴族はいいがワシら地方貴族まで巻き込むなとは誰もが言っておるの。


「…サンデック侯爵、飴玉まだありますか?」


隣にいた若い貴族が、机の下をゴソゴソしながら話しかけてきた。


「まだあるが、お主なんか持ってきたのか?」


「私は特産品の切り干し芋くらいですけど交換してもらえませんか?」

「腹減るからの、幾つかこうかんじゃ」


「ありがとう御座います」


飴玉を机の下から取り出してきた新しいスミツボを渡された。


「隠しやすいように細かく刻んであります」


「なるほど、便利じゃの…」


若者の、反対側にいた者も互いに何かを交換しておるようだ。

若い貴族の上段にいた貴族が話しかけてきた。

この辺りは近隣じゃし知らない中ではないからの。


「サンデック侯爵、目がお疲れでしたら目薬なんか如何ですか?」


琥珀色の液体が入った目薬を“これはこうして使います”と、高い位置から垂らし目ではなく口で受け止めてみせた。


「くぅ~、…おっと“目薬”が間違えて口に入ってしまったみたいですが、我が領地の特産品にしようと開発したブランデーは数滴でも大変効き目が高いとの噂です」


「よし、目薬の代わりに飴ちゃんやろう」


「では、せっかくですから向こうでも使えるように幾つかお持ち帰りください」


まぁ目薬とは言ったが、中身はまんまブランデーじゃ、隠れてじゃと水分もとれぬから助かったわ。


地方貴族どうしはこうして特産品を売り込む場になっとるのだが、サンデックからは布地じゃから飴玉を包んだ刺繍入りのハンカチじゃ。


特産品が食い物の所が羨ましく思う事もしばしばじゃな。


「ちょ、空気悪くって風魔法使える人コッチにお願い出来ませんか?」


海の絵画が飾られた壁近くの貴族が窓に向かってスルメを焼く支度を始めていた。


議会の柱に遮られる場所とは言え、敢えて匂いの強いスルメを選んだその度胸には恐れ入った。


誰とも言わずに使える全員が風魔法でカバーし始めていた。

“風の壁”と結界まで張る徹底振りだ。


「侯爵様、幻覚魔法も用意してきましたからしばらくは大丈夫ですので我々も行きましょう…」


「…男爵殿はついに幻覚魔法まで使えるようになったか」


「若い時には、覚えた暁には女湯を覗いてやろうと考えたたものですが、いつ役に立つかわかりませんな…」


前の席にいた老男爵が、爽やかに言い訳をしているが同機が不純じゃの。


とにかく男爵のお陰で、ワシら地方貴族の一団は足を延ばして慎ましくスルメをかじっていたのだが、その日の侯爵は常より厳しい目で会議を眺めていたと後の噂が流れた。


―会議早く終わらんかの…。



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