目覚めは神様の御前
行き当たりばったり小説ですが、よろしくお願いします。
頬を突かれる不快感に眠りが解ける。
それでも無視して目を閉じていると、固い感触がどんどん強く突き刺さってきて――俺は仕方なく目を開けた。
「気がついたかの、赤石赤司よ」
知らない爺さんが、仙人が持っているような杖で俺の顔をぐりぐりとやっていた。
なんだこれ。
学校の机に突っ伏して寝てたはずなんだけどな……じゃあこれ夢か。
「夢ではないぞ。そして儂は何を隠そうこの世界の神じゃ、敬い媚びへつらい崇め奉るが良いぞ」
「知るか、俺は寝る」
「たわけがっ、起きんかいっ!」
「おごっ!?」
火花が散った。
さっきの杖で顎をかち上げやがったらしい。
「じじいっ! 俺の眠りを妨げるんじゃねえっ!」
勢い込んで立ち上がると、爺さんを見下ろす形になった。
やはり知らない顔だ。
右手には俺を殴った杖、現代には似合わない和装のような白い服。
長くたくわえられた白ひげに年季の入った蓬髪。
体は年相応にしわがれた枯れ枝のようだが、金色に光る双眸だけは異様なほどに力強い。
こんな仙人じみた爺さんは知り合いにはいない。
ああ――どう考えても夢だな、これ。
知らない爺さんの登場くらいは不思議でもない。
むしろ、他がおかしいのだ。
足下にはガラスのようなツルリとした材質の白い床がどこまでも広がっている。
そう、どこまでも――地平線すら見えるくらいに。
空の色も白いし、明るいのに太陽の存在がどこにもない。
どこかの特訓部屋のような、地球には存在しなさそうな光景なのだ。
これが現実なわけがない。
「早速で悪いんじゃが、お主には別世界に行ってもらうことに決まった」
「はあ……」
「肉体と精神を分解し、別世界にて再構築する。異世界転移というやつじゃの」
さっきから何を言ってるんだこの爺さん。
いや、言ってることは理解できる。
そういう小説を読んだこともあるし、俺の脳内にそういう記憶や妄想が転がってても不思議じゃないからして。
「事後承諾で悪いが至急ということでの。お主の肉体と精神はすでに分解済みじゃ」
「ん、んんんっ!?」
よくわからないが、とんでもないことをさらっと言わなかったかっ!?
まあ……夢だからいいけどさ。
「現在は当該世界からの連絡待ちじゃな。転移後には向こうの女神が詳しい説明をしてくれるはずじゃが、我が世界の愛し子との今生の別れでもある。儂自ら経緯を話しておこうと思っての」
「それは……どーも」
「できた神じゃと思わんか、のう?」
知らねえよ、つーか自分で言うなよっ。
「さて、この世界ではない遠くの世界で、天使と悪魔の争いが起きておるんじゃ」
「そこに行って、その争いをどうにかしろとか言わないよな?」
「正解じゃ」
「……まじか」
「さすがは日本人、話が早いの。指定して、選ばれるだけのことはあるわい」
「……それ、どういう意味?」
「無数にある宇宙と世界において、この時代の日本人ほど異世界への造詣が深く、抵抗が少ない存在はいないということじゃ」
「創作物多いからか……」
「うむ、すばらしいことじゃな。各々が考える世界を想像し、表現し、作り出す。それは神の業に他ならぬ。こう言ってもよいじゃろう。精神性においてこの時代の日本人は――神に近い、と」
大げさなやっちゃな。
「大げさではないぞ。他の世界の神からも感じ取れるほどの精神エネルギーをお主らは持っているんじゃよ」
「おだてて、乗せて、さあ異世界へレッツゴー……って?」
「おだててもおらん。天使と悪魔――当の世界で神に近い種族の争いに介入させるのじゃ、並では困るわ」
「日本人なら平均的に高いんだろ? なんで俺なんかが選ばれたんだよ……」
「お主にわかりやすく言うなら、検索をかけた、といったところじゃの。内在する精神力の大きさ、強さ賢さ、その他の要素――総合して、乱世を治める英雄の器を持つ者」
「俺が?」
「うむ」
「……疑問がひとつ。神様だったらさ、自分の世界で起きたトラブルぐらい自分で解決すればいいんじゃないか?」
「神は世界に直接の介入――武力介入とでもしておくか――は避けることになっておるんじゃよ」
ふーん、見・て・る・だ・けーって奴か。役立たずだなぁ。
「神に向かって役立たずとはなんじゃ役立たずとはッ、この罰当たりめがっ!」
「……なんか、さっきから心を読まれてる気がするんだ」
「当然じゃろ、儂は神じゃ。そのくらい造作もないわい。フォッフォッフォッ」
「どこのザリガニ星人だよ……」
まあ、考えてることを相手が知ってたりするのって、夢ではよくあるしな。
そもそも俺の脳みそが作り出してるんだから当然だ。
さて、話は終わったことだし――寝るか。
まったく、せっかくの睡眠が台無しだ。
「こりゃ、寝るなと言うておるじゃろがっ!」
「うごっ!?」
仰向けになると今度はお腹を突き刺してきた。
「いてーだろっ! ――って、痛い、だと?」
思わず頬をつねる。――痛い。
ぐいぐい動かす。やっぱり痛い。
おかしい。
睡眠厨の俺の経験上、これくらい意識的な行動を取れば、夢なら夢だと確信できるはずなのだ。
「お、連絡が来たようじゃ」
「いやいやいや、爺さんちょっと待て。これって……」
――現実?
嫌な汗が背中から染み出てきたところで――。
「な、なんじゃとぉぉぉ――!?」
悲鳴のような爺さんの声が白い世界に響くのだった。