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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【”僕”は、”誰”だ?:雅木『レキ』】
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【敵も味方も無い】048【葉矛?】

【個体の武器】

【雅木葉矛?】-0-48----敵も、味方も無い。



 ……勇み叫んだのは良いが、さてどうしたものか。

まず最初に、目の前の敵が前に一度叩きのめしたことのある相手だと俺はすぐに把握した。

その時は楽勝に決着がついたことも覚えている。

……ただし、目の前のヤツは以前よりも強敵だ。

今、コイツは焦ってない。傷を負っていない。実に万全な状態だ。

やれやれ、前よりも面倒になりそうだ。


 俺は剣を構えヤツに向かった。

既に先に行った攻撃で戦いの流れは掴んでいる。

このまま押し切る。この期に一気に攻めたてる。

対して、ヤツは案外冷静だ。

ヤツは手の平を握り、握った手の平から光の筋が漏れる。

光の線は輪郭を作り出し、次の瞬間には剣が生成される。


 なるほど、武器を作る能力か……。

厄介ではあるが、結局は無意味だ。

戦闘結果は変わらない。俺が負けることはない。

その為にも、剣を作り出すんだったら、その都度何度でも……。


 ---俺は、自身の手に握られた”剣”を……。


「ッつあ!!!」


 ---振り上げて、そしてヤツの剣を砕いた。

鋼に似た銀色のそれは、見た目に反してヤケに柔らかい。

刃が砕かれ、日の光を反射しながら破片を散らす。

俺は更に剣を振り下ろして追撃をかける。


「ッんの!! 当たるかァ!!」


 ……追撃に放った二撃目は紙一重のところで避けられる。

流石に万全の状態だと、以前よりも動きは格段に早い。

ヤツは新しく斧を作り出した。


 反撃での大きな一撃を狙って来るつもりか。

確かに狙い所は良い。

攻撃を外した瞬間というのは、普段身構えている時よりも格段に無防備なのが常識だ。

だがな、それは所謂”一般常識”に過ぎない。

攻撃後に隙を作るのは一手先を考えられないヤツだけだ。

一撃の威力に感け、取り回しの悪い武器である斧を選ぶ。

お前のその武器選択は大きな間違いだ。


 俺は攻撃の際に重心を崩してはいない。

鋭い斬撃を放ったこの刃だが、実体がおぼろであるが故か。重さが無いのだ。

……だから反撃にもすぐに対応出来る。

俺は宙に刃を走らせ、次の瞬間には斧の刃と柄は離れていた。


 これは絶好の機会だった。

急に武器の重量が変わって、ヤツはバランスを崩す。

敵の呆然とした間抜け顔を見て、俺は勝利を確信した。

そのまま剣を突き立てて追撃を試みようとした……。


「ッ!?」

 ……どうした!?

体が反応しない!

ビンと腕の筋が張りつめて”突く”ところまで剣を持って行けない。

足がビタンと固まって咄嗟に動けない。


 頭では分かっている。今ならヤツにとどめをさせる。

身体に指示を伝えるが動けない。

俺は悟る。物理的に無理なんだ。

俺は、この身体にはそもそも出来ない行動を指示している。

……身体の限界を弁えなかった俺には、体勢を立て直すヤツの姿を見ることしか出来なかった。


「っつ!あっぶねぇ!」

 黒服の敵対者は冷や汗を拭った。

俺は思わず唇を噛んだ。


 ……これはどうにもならん。

いくら”俺”に戦闘技能や瞬発力があったとしても、体がついて来なきゃ話しにならない。

こちらの体のコンディションはいい様だが、それでも万全に動くには全然足りない。

技量は俺が勝っているが、向こうの方が”肉体”が強い。それも圧倒的に差が出る程に。

……さて、どうしたものか。


「城ヶ崎?何故……?何が……!?」

 背後から女の声が聞こえた。

見遣ると、赤髪の女が緑髪長髪の女の首を絞めているところだった。

それがどういう状況かまでは知らんが、俺は冷静にそれを見つめることが出来た。

声を発したのは赤髪の方だ。



 ”凪を、聖樹を助けなきゃ”


 俺は行動を起こした。

”敵意を持つモノがいるなら潰す”。

コレは俺の使命だ。自分の感情云々は全てこの命令から生まれる副産物に過ぎない。


 ”---守るんだ”


 ……俺はまず、少年の方に走った。

最初にコイツをなんとかする。

城ヶ崎とか呼ばれてたか。コイツを中途半端に放置するのは危険だ。

ヤツの手には既に短剣が二振り握られていた。

俺の見ぬ隙に素早く新しい武器を作り出したのだ。


 実のところ、俺はヤツに対して奇策を思いついていた。

それが一番良い策かどうかは分からないが、とにかく今は実行するしか無い。

俺は走り出した。


 ……思いついた案だが、それは直前まで走って”何もしない”ことだ。

俺は『先に』コイツに攻撃するつもりは無かった。

間違いなく競り負ける。


 今の俺の身体の持久力を考えれば、致命打を与えれる勢いで剣を振れるのはせいぜい『3回』が限界だ。

3連撃以上の攻撃は身体の方がついて来れなくなる。

攻撃するには後手に回った方が都合が良かった。

……相手に一手先に攻撃を吐かせて、隙を突いて有利を取り、そして確実に仕留める。


 案の定、無防備を晒して目の前まで接近された時、たまらずヤツは先に剣を振った。

小振りな剣は取り回しにすぐれ攻撃も素早いが、俺には見える。

最善の防御ルートは頭の中で組み立てた。

まず、この攻撃を避ける!


「ぐっ!?」


 しかし避けきれない。刃は俺の顔を僅かにそれ、真っ直ぐに伸びる。

短剣の刃が俺の肩に小さな切り傷を付けた。

身体の反応が予想以上に追いつかない。

その上、向こうの斬撃は以前よりも鋭い。

ナルホド、コイツの技量を見くびっていた。怪我をしていなかったらこんなものか。


 ……だが、このタイミングで怯んだら終わりだ。

今更下手に身を引いたらそれこそ狩り殺される。

今は強引にでも攻める時だ。


「ッぁア!!」


 素早く剣を振り上げる。

それは左手の短剣で防がれた。

相手の短剣は砕け散るが、軌道が変わってこの剣撃はあたらない。

次だ。


 剣を振り下ろす。

ヤツはもう一方の短剣で防いだ。

勢いの殺し方、軌道の逸らし方。

敵ながら非情に効率的だ。

最善と言える一手で攻撃は防ぎ切られた。


 小さく舌打ちをする。

俺が次の斬撃を繰り出すまでには猶予がある。

ヤツの体勢は崩れ切っていない。次に行う攻撃の一手は確実に反応され、対処される。

駄目だ、これじゃ詰めれない。



 ……俺は瞬間的に敵から視線を逸らした。

向こうで組み合っている少女2人を見遣った。

赤髪の少女は既に自身の相手を見てない。

こちらを観察している様だ。……じっとり見られてるのは気分良い物じゃない。

組み伏せられている少女はかなり消耗している様だ。

ぐったりとして、抵抗の為に差し出されたその手には既に活力が無かった。


 形成を逆転するには潔さも必要だな。

今のまま正面から向かって言っても、コイツには勝てない。

このまま続ければ間違いなくジリ貧負けする。向こうの方が体力もあるのだから。

俺は三撃目に備えて身構えた少年に対し、背を向けた。


 身構え、しかも武器を失った少年は一瞬なりとも咄嗟に判断出来ない。

頭の中の整理がついてから行動するとして、少なくとも”数秒”は稼いだ。

1秒2秒の有利は大きい。

これだけの”有利”があればあの2人に”影響”を与えられる。

攻めきれない、この状況を打破出来るかもしれない。


 俺が標的を変えたことを察知してか。

赤髪の少女は空いている手に短剣を握り直した。

しかし無駄だ。

自衛を行った瞬間にあの状況は崩れる。

俺の狙いは逸れず、そして防げない。


 ……っと、俺は立ち止まって振り向き、流れで剣を振るう。

背後に迫っていた城ヶ崎って奴に斬撃を浴びせた。


「うぉぉ!?」

 拍子抜けする様な声を出したが、奴はなんとか斬撃を避けた。

持っていた槍を犠牲に俺の斬撃を逸らしたのだ。ヤツの持つ槍は砕け、破裂音に似た音が響く。

不意打ちでもダメージは与えられなかった。

……だが、それでいい。

既に状況は動いた。


 俺に注意を払ったが為に、赤髪の少女はナギ(・・)の反撃を受けた。

膝蹴りから始まったそれは頭突き、平手打ち、蹴り上げに続き状況をひっくり返した。

咳き込みながら立上がったナギは咳き込みながら立上がろうとする。

対して赤髪の理子は思いがけない反撃に悶絶しつつも、冷静に立て直そうと試みた。


「あ、ありがと、葉矛。」

 体勢を直した少女(・・)は、呼吸を整えながら躊躇いがちに言った。



「……、来るな。」

 俺は剣を傍らに居る少女に向け、彼女から距離を取った。


 ……俺は、3人(・・)に包囲されている。

身を守るだけなら簡単だが、状況の打開は困難だ。

既に状況は動いた。不確定要素を取り入れた時点で、新たな局面を迎えるはずだ。

……状況の打開を考えろ。守るべきものは”自分”だけで十分だ。どうやったら逃げ延びれる?


 ”違う”


「……よう、む?」

「寄るな。」

 周囲を見れば、皆敵だ。

目の前の少年少女達は全員俺を傷つけるチカラを持っている。

それだけで警戒するのに十分な理由になる。


「……どう、しちゃったのさ?」


 目の前のこの少女は”第3勢力”だ。

敵の敵であり、味方ではない。

俺は強く警戒しなくては……。


 ”違う……!”


 呆けた表情で少女は近づいて来る。

無防備に、なんの構えも無しに。この少女の能力は知らないが、断言出来る。


__今なら殺レル。


 ”違うッ!!!”


「寄るなッ!!」

 俺は不定形でカタチの定まらない、赤い剣を振り上げた。

”振り下ろしてやる”

そう思って。


 ……だけど、振り下ろせない。剣を振り上げ、それから身体はぴくりとも動かない。

自分の中で何かが強烈に剣を振り下ろすことを拒んでいる。

『俺の意思』を越えて身体が行動を否定する。

……なんでだ。状況の打開を要求したのはお前じゃなかったのか? 何故俺の行動を否定する? 


「ッ!!」

 しまった、後方の2人から注意を逸らし過ぎた!

少女に感け過ぎた今の俺は隙だらけだ。

黒服の少年は既に新たな武器を作り出していた。質素な剣だ。

それを振り上げ、そして……。


「止めろッ!!!」

 気がついてからの行動は早かった。

俺は目の前の少女を突き飛ばす。

俺の身体が刃の軌道上に割り込むカタチになる。

俺はなにをした?


 ……自分の行動の意味を把握するまでに時間がかかってしまった。

既に、俺が斬撃を回避する方法など存在しなかった。


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