【独りきりの放課後】039【葉矛】
【個体ノ武器】
【雅木葉矛】-0-39----独りきりの放課後
今日も授業が終わった。
周囲の生徒達は思い思いの場所に散る。
我先にと自宅へ帰る者、部活動に勤しむ為に活動場へ向かう者。
また、特に予定も無く友達とグループを作り会話を楽しむ者もいる。
僕はといえば、いつも通りの行動が出来ず呆けていた。
凪は学校が終わった瞬間”用事がある”と教室を出て行ってしまった。
聖樹も同様に”少しやりたい事が出来た”と教室を出た。
やる事も無いこんな時、いつもだったら稀鷺の元へ行き暫く会話を楽しむのだが、彼は学校にいないのだ。
元気で病気とは無縁の稀鷺が風休みだなんて、僕には信じられない。
……僕にもする事、あったな。
僕は席から立上がった。
ツバサさんなら何か知っているかもしれない。
話しを聞いてみなくちゃ。
------、さて。
翼さんは案外簡単に見つかった。
部活動を行っているのは知ってたから行く場所は絞れた。
僕はテニスコートに先回りして彼女を待った。
「ん、雅木君……?」
翼さんの方から僕を見つけ、話しかけて来た。
僕は周囲を見渡す。
幸いな事に翼さんは他の部員達よりも早くここに訪れた様だ。
今なら人はいない。稀鷺の事を聞いても問題無いはずだ。
「稀鷺の事なんですが。」
ストレートに切り出した。
「今日、学校来てなかったんです。」
「知ってるわ。」
彼女は手早く切り返した。
そして言葉を続ける。
「彼は今ちょっと外出中。家に行ってもいないと思う。」
「外出?どこへ?」
翼さんは首を振った。
「それは、言えない。でも無事だから。」
彼女は僕から目を逸らした。
稀鷺、何があったってんだ?
「あの……。」
更に追求すべく僕は口を開いた。
彼に何があったにしろ、出来る事が無いにしろ、友達として心配だから知っておきたかった。
稀鷺は学校を休んでまで何処に行ったのか。
「先輩ー!ラケットありましたー!」
唐突に外野から声が聞こえた。
女子生徒の者だ。
振り向くと、声の主と思われる少女がテニスラケットを2つ手に持ちこちらに走って来た。
「ら、らけっと……。」
女子生徒は息を切らし手に持ったそれを差し出した。
ここまで文字通り全力で走ったのだろう。
肩で息をし体を折り曲げ呼吸を落ち着けようとするその動作を見る限り、まるで体育の授業で走り回った様な疲れ方である。
「ありがとう。」
翼さんは笑顔で応じる。
ラケットを受け取り、それをしげしげと眺める。
「……うん。使えそうね。」
その様子を眺めていると、翼さんがこちらを向いた。
怪訝そうな表情を浮かべ、小さく首を振った。
「違うよ。」
「え?」
「後輩に使いっ走りなんてさせてない。」
いや、そんなこと思っていないのだけれど。
彼女の言葉には僕ではなく、ラケットを持って来た少女が反応した。
「い、いえ!いいんです!急に新しい部員さんなんて珍しいですし、ラケット足りなくなっちゃうのも仕方ないです!」
「……もしかして、貴方が”使いっ走りさせられた”って思ってる?」
少女は急に顔を赤らめた。
精一杯腕を振り首を振りして否定するが、それじゃ肯定してるのと同じだ……。
「あれ?ミヤビギじゃないか?」
ふと自分の名前が呼ばれた。
反射的に振り向き、それが最近良く聞く声である事に気がつく。
何故ここにいるんだろうか。ふとそんな疑問が浮かび、振り向き様に尋ねた。
「ミサキ?なんでここに?」
彼女は微笑を浮かべた。
質問に答えるだけで大したしたり顔をしてきた。
「部活、初めて見ようと思ってな。」
そういうと、彼女はささっと僕の脇をすり抜け翼さんと向き合う。
「改めて思うが、今日からアンタがあたしの先輩って訳か。」
「元々先輩よ。貴女に限っては口の聞き方を強く指導する必要を感じるわ。」
翼さんは先程後輩と思わしき人物から受け取ったラケットを翳す。
聖樹はといえば、それを手早く受け取り先程翼さんがした様にしげしげと眺めた。
聖樹が始める部活ってテニス部か!
やるとしたら剣道部とかに入ると思ったのだが。
いや、でも案外似合いそうだ。
ラケットを確認した聖樹は納得した様に頷き、翼さんを見遣った。
「ま、あまり差別とかはヤメテ頂きたいトコロだな、先輩?」
「それは貴女次第ね。」
口調は穏やかではないが、案外嫌悪している様子は無い。
実はこの2人は相性がいいのかもしれない。
見ていてどことなく意気投合している様にも見える。
「さて、私たちはそろそろ部活。悪いんだけど雅木君、また今度ね。」
彼女の発言に答える間もなく、三人はテニスコートに入ってしまった。
ふと顔を周囲を見遣れば、その他の女子生徒もコートに入っていく。
あまり長くこの場にいては、周囲にまた妙な事を言われそうだ。
僕は早々に立ち去った。
------、同日。
テニスコートから退散した僕は校門の前で立ち止まった。
このまま帰ってもやる事が無い。
そして気がついたのだが、今日は凪も聖樹も護衛してくれていない。
今の僕なら誰かに襲われても、あのチカラがあるから……。
「いやいやいやいや……。」
独りで否定を口ずさむ。
だからあのチカラは安定しないんだって。
頼り切るのは駄目だ。危ない。
だとすれば、聖樹が部活を終えるのを待つか?
3時間程時間を潰さねばならないじゃないか……。
それはとっても効率悪くて嫌だ。
一か八か帰ってみようか。
決めかねて、僕はひとまず校門付近に腰を下ろした。
縁石があってそれを椅子代わりにした。
初夏の日差しは傾いても尚、僕を困惑させる程に強く照りつけている。
これじゃ参っちゃうな。とにかく暑い……。
項垂れて暑さを忘れようと努力してみる。
無駄ではあるが、やはり帰ろうかどうか決めかねている。
「そんなところで時間を無駄にしてていいんですか、先輩?」
そんなとき、声が聞こえた。
女子生徒の声だ。
やれやれ、状況はお察しだぞ。
声の調子からして手慣れた部活の先輩に言っている訳ではなさそうだ。
何で判るのかって?
日頃から周囲のリア充を恨めしく注意深く見ている僕は、大体彼等の様子や仕草の特徴を見極めれるのさ。
今顔を上げたら下級生とお付き合いなさっているリア充様がいるのだろう。
顔を下げてて正解。さぁ、さっさとどっか別次元に行って下さいな。
「先輩?聞こえてるんですか?」
どうやら相手方は聞こえないフリかなにかをしている様だ。
クソ、いちゃいちゃしてないで行っちゃえよ!
「……無視って酷く無いですか!雅木先輩!?」
「……ッ!?」
跳ね上がる様に顔を上げた。
なんだって?なんで僕が呼ばれたんだ!?
「あ、あぁ!?」
何を言って良いものか、考えるより先に出た言葉がそれだ。
前を見るとリア充の姿は無く、代わりに見覚えのない女子生徒の姿があったのだった。
いや、本当に見覚えが無い?
依然どこかで見た様な気がする。でもどこでだったかな……?
誰だ、この子は?
「えっと……?」
「あ、あれ?先輩もしかして私の事、知らない?」
知るわけがないだろう!
見覚えがある気はする。
だけど間違いなく初めて喋ったぞ!
下級生に知り合いはいないし、ましてや女子なんて……。
「えっと、私日野 菜嬉って言います!弓道部やってて、えっと……。」
「あ、あの時……!」
確か美和って子が来た時に居た、”失踪”した弓道部の人の妹さんだ!
ちらりとしか見てなかったから印象も薄かったわけだ!
「やっぱりナギ先輩から聞いてたんじゃ無いですか!」
「いや、そうじゃない……。というか、キミは何で僕を知ってるんだ?」
僕は彼女を目撃したが、姿の印象を微かに覚えていただけだった。
彼女は僕を見る機会も無かったわけで、僕を性格に把握しているのはおかしいのだ。
「ナギ先輩から良く聞くので!」
凪から?
首を傾げて考える。
まぁ、女子同士の話しなんて理解出来ないし、ウワサのタネくらいにされるのは当然なのかな。
「カレシさんなんでしょ?先輩のところにも行かず、独りでボケっとしてていいんです?」
「なッ……!!」
……予想以上にオーバー、且つ有りがちなリアクションをしてしまった。
まず”なにを!”とかって言おうとして舌をかんだ。
続いてバランスを崩し座っている体勢を維持出来なくなり転んだ。
最後に一瞬呼吸がおぼつかなくなり大げさに咳き込んでしまった。
なにをやってんだ、僕は!
なんとか立ち上がり、俯いて頭を抱えた。
過剰過ぎる反応だ!
今のは酷い。やってしまった感が半端ではない。
予想通り、菜嬉と名乗る後輩は僕をじとりとした眼差しで見遣って来た。
「……なにやってるんです?全く、ナギ先輩のカレシとは思えませんね!」
「か、彼氏じゃない……!」
精一杯のチカラを込めて反論した。
まだそのネタ引きずられてたのか!
そろそろ沈下して来たと思ったのに!
「……ともかく。帰らないんだったら、ナギさんのところに行ってあげたらどうなんです?あの人、今ちょっとカッコいいですよ?」
後輩は意味ありげに語る。
「カッコイイ?ていうか、ナギまだ学校にいるんだ?なんで?」
帰ったと思ったのだが。
僕の質問に、彼女は快く答えた。
「部活動です!先輩、弓道部に来てくれてて!」
「弓道部?」
「そうです!なんか深刻な顔して『思うところ会ってうんちゃらかんちゃら』って行って来て。皆は部員以外が弓道するの反対したけど、私は大歓迎でしたから!道具貸してるんです!」
成る程ね。
凪は依然仮部員として大会に出た事もある。
しかも優勝してるわけで、部員に混ざって弓道してても違和感は無さそうだ。
……ふと、なにやら菜嬉の視線を感じた。
何故か期待する様な眼差しを向けられている。
無言で向かい合っているとしびれを切らした様に彼女は僕を揺さぶった。
「何で行動しないんですか!今ならいつもとちょーっと違う属性ベクトルの先輩が見れるんですよ!?行かないんですか?」
菜嬉は、先程から何故か僕をどやすかの如く喋り方をしてくる。
威圧感に気圧された僕はただ頷いた。
菜嬉の言葉が気になったのもある。放課後暇だってのもある。
ちょっとだけ、会いに行ってみようか。邪魔にならない程度に。




