《『退屈だ』》025-#《城ヶ崎》
【個体の武器】
【城ヶ崎】-0-25-#----不気味な程順調で--《『退屈だ』》
オレはとある田舎町のビル、そこの4階部分に来ていた。
仕事とは言え、ヤル気がしない。
このビルにはオレの専用オフィスはないのだ。
故に好き勝手が効き辛い。
エアコンの設定温度は28度に保たれているし、何より自由に使える冷蔵庫も無い。
クソ、オレがどうしてこんな田舎町に……。
先程からいくら辺りを見渡しても冴えないヤツ等しか目に入らない。
この階にいるのはごくごく普通のサラリーマン達だ。
中にすんごく強く凶悪なウェザードが混じっていないか、という可能性を考えたが、それも無さそうだ。
彼等は普通過ぎてつまらない。
声をかければ普通に返して来るが、ただ普通に返事を返されるだけだ。
それではオレは満たされないのだ!
普通の反応を嫌っている訳じゃない。
もう少し気を効かせた返事の仕方とかは無いのか!
具体案は無いが!
最初ここに入って来た時、『キミ、どこから入って来たの?ここは関係者以外立ち入り禁止だよ?』と子供に言う様に諭された時は本気で帰ろうかと思った程だ。
オレは子供かもしれないが、立場上はお前達の上司だ。
”普通”はありえないことかもしれないが、現にあることなのだ。
普通じゃない相手に普通の反応を返して誰も得をするものか。
ここに立ち入ってまだ3時間程になるが、既に憤りを覚え初めて来た。
妙に理子の毒舌が懐かしく感じる。
今ならいくら罵られても良い。
全て嫌みで返してやるつもりだが。
アイツもこのビルについただろうか。
仮についても、ヤツはこの2つ上の階の担当だ。
会うことはあるまい。
------、ここは、オレの勤める会社が所有するビルの1つだ。
厳密にはオレが所属するのは会社ではないのだが……。
まぁ、味方の施設に違いは無い。
そこの第2の拠点ビルの様なところだ。
こんな田舎にそんなビルが建ったのには訳があるが、まぁ今回は話さないでおこう。
そんな気分じゃない。
目の前でOLが何も無いところで盛大に転び、持っていた書類をまき散らした。
オレはそれを見なかったことにし、椅子に深く腰掛けると本を開いた。
ライトノベルなどの娯楽本ではない。
開いたのは”心理学”の本だ。
無表情の相手を起こらせる方法について学んでいるのだ。
書いてあることは見事会得して部下の黒服(平井など)や理子に試す予定だ。
今はその時の状況を思い浮かべることくらいしかすることが無い。
今回オレがこんなつまらない場所に来ることになったのは、ある兵器の実験の為だ。
何故こんな辺境の地でやることになったのか。
それを上のヤツ等はオレに教えてくれないが、それについてつべこべ言える立場でもない。
オレは黙って従うだけだ。それだけでいい立場だ。
「城ヶ崎さん。」
「ん。」
聞き覚えのある声がして、オレは本から目を上げた。
見ると、美紀子がいた。
と個人名を言ってもキミたちは初めてだったな。
少し解説を入れようか。
彼女は理子の部下だ。
非常に切れ者(理子と比較出来ない程)であり、戦力として優秀。更に態度が良い。美人。
部下としては最高の人材だな。
理子の部下には勿体無い。
何度かオレの部下に勧誘してみたが、本人曰く『戦うのは嫌』だそうで加わってはくれなかった。
相手の年齢に関わらず謙虚であり、部下の鏡とオレは思っている。
だが、彼女は理子の部下だ。
オレに何の様だ?
首を傾げていたら、彼女の方から用件を伝えてきた。
「先程、聖樹を見ました。」
一言そう発すると、彼女はこちらの出方を窺った。
だが、オレはどう反応したものだろうか。
それがどうしたというのだろう。
先日、聖樹は会社に報告書を提出した後『やることが出来た』と言って行方知らずだ。
管理体制が整っていないのはオレのせいじゃない。
仮に裏切ったとしてもオレのせいではないはずだ。
まぁ、裏切ることはしないだろうと踏んでいるが。
動機が無いからな。
聖樹にはこの場所のことを教えてある。
一応言うなら、それはオレではなく理子が教えた。
『コトが済んだらこちらに来ればいい』と言ってな。
オレも理子も、戦闘能力の優秀なアイツは何かと重宝して使用している。
アイツは頭は悪いが力があるんだな。
「……それで?」
会話に先が無い。
理子が場所を教えてあるのだから、アイツがここに居てもおかしくは無い。
「いえ、上の階で迷っているようだったので、報告に来ました。」
迷っている、か。
それをオレに報告して来るということは、つまるところこういいたい訳か。
「助けに行けと?」
「強制はしませんが、カワイソウです。」
彼女は小さく首を振るが、その割には肯定的だった。
……美紀子は菊地に甘い。
そんな人間、オレは彼女しか見たことがないが。
優しい性格であるのは良いことだと思う。
ますます理子の部下には勿体無い。
彼女の優しさも考慮して、オレは決断した。
「……んじゃ、放っておこう。」
優しいのは良いことだと言ったばかりだが、別にオレ自体は優しく無い。
菊地にはいろいろと(小さいが)恨みがある。
ここで放置しておいてもバチは当たるまい。
「クックック。藻掻け苦しめ!オレに偉そーな態度をとった菊地など、対して広くもないビルの廊下をうろうろと彷徨っていればいいのだ!」
気がついたら独り言をぼやいていた。
いままでの復習も兼ねて、ヤツは放っておこう。
ふはは!涙目になってその辺を徘徊するヤツの姿が浮かぶ!
『じょうがさき~!お願いだからあたしを迎えに来てよ……!ねぇ!じょうがさき!もう偉そうにしないからぁ!!』
……妄想が過ぎた。
菊地聖樹がそんなことを言っている姿を思い描いて、妄想ながら一瞬くらっと来た。
いかんいかん、止めておけ。
自重しろ、オレ。
独り言を言ったことも含めて痛々し過ぎるぞ。
「それと、彼女は例の2人をここにつれて来ていましたが。」
例の2人。
そう聞いて一瞬で頭に2人の人物が浮かぶ。
「ミヤビギとレンヨウか。」
彼女は頷いた。
……2人をここにつれて来た?
理解できん。
まさかレンヨウに打ち勝った上で身柄を確保出来た訳ではあるまい。
前回負けたのだから。
だったら、可能性を考えるなら2つに1つだ。
1つは裏切り。
だが、そんなことあり得るか?
裏切るにしてもこんな堂々と潜入などしてくるか?
むしろ少しでも遠くに逃げようとするのが普通な気がする。
もう1つは勧誘。
あの2人を勧誘して来たってコトだ。
それも考え辛いな。
……放っておこうと思ったのだが、そうも行かん様だ。
「分かった。ありがとう、後で行ってみる。」
どの道重要なのは6階だ。
確か美紀子は5階を警備しているはずだ。その彼女が見かけたってコトは、アイツ等は5階にいる。
仮に裏切りだったとして、5階をあさっても対したもんは出ない。
データをあさったらしっかり証拠が残る。そうなったらここからは出れない。出さない。
処理は後に回しても良いさ。どっちにしろ、今のアイツ等は文字通りの袋のネズミだ。
「ところで。」
ふと疑問が浮かんだ。
「なんでオレに報告を?リコじゃなく、オレに。」
「理子様からそう言われていますから。」
即答だ。
ますます分からない。
彼女はオレが困惑しているのを知ってか、言葉を加えた。
「全部貴方に”把握させて”おけば、いざという時全部責任を貴方に押し付けれると。そう言っていました。」
……把握した。
さてはアイツ、まだあの時からかったのを根に持っているな?
ネチネチしやがって!
それから美紀子は頭を下げ、行ってしまった。
さて、もう一度本に目を落とす。
どう出る?聖樹。
「あの!城ヶ崎く……、さん。」
……美紀子が出て行った直後にまた話しかけられる。
人望がありすぎるのも困りものだな。
本から目を離し、相手を見遣った。
付近の女性社員だ。
確かさっき書類をちらけているのを見た気がする。
……今、オレを『君』付けで呼びそうになったのは聞かなかったことにしてやろう。
「なんでしょう?」
紳士的な対応をする。
敬語はデフォだ。
ここは飽くまでオレの部下のいる職場じゃない。
他人の職場では謙虚に過ごすのが礼儀だろう。
「お客様が御見えになられてますが……。」
「通せば良いと思うよ。」
相づちを打って本に目を戻した。
どうせ理子だろう。
オレの様子を見て笑いに来たのだ。
早速この本の通りに接客してみるか。
「やぁ、城ヶ崎君!」
明る過ぎる第一声。
友好的な口ぶりをオレに向けて来る人物などそうはいない。
誰が来たのかはすぐに分かった。
……オレの予想は外れた。
来客は理子じゃなかったのだ。
「あれ、敏生?なんでここに?」
目の前の友人に目を向ける。
本には枝折を挟んで、デスクに置いた。
コイツは研究員だ。
実験があるのにこんなところに来ていて良いのだろうか?
「実験までは時間があるから。それまでは凄く暇なんですね。」
「暇つぶしで人の職場まで来るヤツが……。」
「ここにいますね。僕とか。」
敏生ははにかんだ。
やれやれ、サボってるのバレて怒られても知らないぞ。
……特に理子はそう言うことに五月蝿い。
人の汚点をつくことだけがアイツの生き甲斐だからな。
バレないことを祈ろう。
「なら、ちょっと話して行ってくれ。オレの暇つぶしも兼ねて。ここで一体何の……。」
オレが喋ってる最中だったが、ヤツは首を振った。
手をかざし、喋るのを止める様に諭す。
ああ、迂闊だったな。
「城ヶ崎、喋るのは良いけどここではそのことは言えないんだ。悪いね。」
オレは首を振る。
この場に居るヤツ等は”実験”のことを知らない。
故に、勝手に喋っていいことじゃない。
下手に誰かに聞かれたら大変だからな。
「んじゃ、別のことを。そうだ敏生!この本オマエにも貸してやる。理子に迫られたときのマニュアルとして……。」
のんきな話しで場を和ませようとした時だ。
警報が鳴り響いた。




