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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【自らの意思は…?:雅木葉矛】
43/82

【不気味な程順調で】025【葉矛】

【個体の武器】

【雅木葉矛】-0-25----不気味な程順調で



 5階についた。

最初に聖樹が外に出て、それから手招きした。


 エレベーターホールに人は居ない。

ありふれたエレベーターホールだ。

特に拘った装飾があったり、変なオブジェが置いてあったりはしない。

植木が1つ飾ってあり、2つのエレベーターの入り口があるだけだ。

この建物は社員用と客人用の両方を兼ねてエレベーターを運用している様だ。

仮に社員専用と一般者用とに使用者を区別されていたら、怪しまれずここまで来ることは困難であったろう。




 この時点で人が居たらなんとかごまかして先に進まなくてはならなかった。

運が良かったのか。

僕たちがエレベーターから降りたその時、ロビーには誰もいなかった。

ごまかす手間は省けた様だ。

安堵のため息が漏れる。


 聖樹はホール出口付近にある扉に例のカードを差し込む。

この区画はあのカードを持っている彼女がいてこそ歩いてまわれる。

……逸れたら外に出れない?


短く機械音が響き、扉のロックは外れた。

聖樹は扉に手を掛けた。




 ……いよいよだ。

思わず固唾を呑みこむ。

この先は社員以外の立ち入りは許されていない場所だ。

そこに立ち入るのは当然”法”に触れることになる。

入場する許可などとってはいないのだから。

これは不法侵入だ。


 しかし法に触れると分かっていながらも、僕は内に高揚感を抱えていた。

ただ狙われる立場である僕たちは今反撃を始めようとしている。

今からすることは小さい反撃だろうが、これは大きく意味のある一歩だ。

鳥肌が立つ。

アイツ等の本拠地、ここには一体どんなものがある?

考えを巡らせるだけでも高揚感は増す。

僕は今このあからさまな非日常的時間、空間、出来事に対して興奮している。


「行くぞ。離れるな。」

 聖樹が言い、僕と凪は頷く。

ここの構造を一番知っているのは聖樹だ。

この場は彼女を信頼して進むしか無い。


 聖樹が扉を開け、廊下に出る。

通路の床はタイルカーペットで固められている。

結構新しそう。

都合が良い事に、床が柔らかいならばそっと歩けば足音もしない。

僕たちにとって好都合だ。

『僕は』そう思った。



「こっちだ。」

 なるべく足音を意識して聖樹について行く。


 何故先程『僕は』と言うところを強調したか。

そう、忍び足をする意味は無かったのだ。


 道中何度か人とすれ違うことがあった。

しかし聖樹同様に堂々と歩いていれば全く問題はなかったのである。

聖樹によると、見ない顔の人間が出入りすることは珍しくないらしい。


 もっと早く教えてくれれば最初すれ違う人に怪しまれずにすんだのだけれど。

忍び足で歩いていたら不振な目で見られたのだ。

一応、聖樹が『変わったヤツでね』と言い訳をしたが。

通用したのだろうか。

……多分しただろう。

彼女自身も筒状の新聞紙を持って歩いているが別に気にはされていないのだから。

僕だけ怪しまれる道理は無い。



 ------、廊下を歩きながら中の様子をキョロキョロ見渡すが、なんてことは無い。

極めて普通だ。普通の会社っぽいビル。

別に特別なことは何も無い。

そこら中の壁に銃が飾られていたり、そこら中に赤外線センサーが仕込まれていたりなども無い。

また、そこに居る人たちも別段変わっている訳じゃなかった。

例の黒服の男達が異様な存在感を放っていただけだろうか。

ここに居る人たちは健全な会社員にしか見えない。

少なくとも廊下に白衣の研究員が居たり銃を持ったガードマンが居たりはしなかった。

僕が想像していた様な展開にはなってくれそうにない……。

いや、別にいいんだけどさ。順調なのは。



 迷路の様に入り組んだ廊下をただひたすら歩き続けているうちに方向感覚はおかしくなる。

どこを歩いても左右に似た様な構図の風景を目にする。

黒い扉があり、ひたすら真っ直ぐに伸びる廊下。

途中曲がり角を曲がるとまた同じ風景が広がっている。

聖樹の案内が無ければ迷っていただろう。

彼女はここの構造を完全に把握しているようだった。

素晴らしい記憶力だ。

僕だったら覚えきれる自身が無い。



 ------、コトが上手く運び過ぎて拍子抜けだ。

緊張感は持っているがこの段階で僕は、今後も何も起こらず計画したことは全て上手く行くと過信していた。

『廊下で人に見つかってはならない』とか、そんな無理ゲーする訳では無いのだから。

見つかってもバレないのなら結構簡単な作業なんじゃないか。



「ついたぞ。」

 聖樹が立ち止まる。

今まで見て来た扉と同じに見れるが、ここが目当ての場所らしい。

親切な部屋名を書いた札などはついていない。

こんなの、最初から場所が分かってなきゃ絶対辿り着けないじゃないか。

パッと見は他の部屋と見分けがつかない。

だから、聖樹が居なかったら全ての部屋を片っ端から調べるはめになったことだろう。


「キクジ。早いところ開けてくれ。」

 凪は急かした。

既に手に持った鞄からUSBメモリを取り出している。


 この部屋でやる事は情報の収集だ。

凪と聖樹は部屋のファイル(アナログ的情報)類の情報をあさる。

僕は可能な限り凪の持つメモリに、PCのデータをコピーする。


 この部屋は情報を多く取り扱っている場所なのだ。

PCと実験資料を挟んだファイルを置いてデータベースの様になされている部屋だ。

ここに入ったらさぞ沢山の情報が手に入るだろう。

纏まっておいてあるのだから。


「……焦るな、今やる。」

 ポケットから取り出したカードを扉の機械に差し込む。

音がして、ロックが外れた。




「……おかしい。」

 聖樹はそう呟きながら扉を開けた。

彼女は本当にぼそりと言ったのだが、辺りが静かすぎてその声は届いて来た。


「オカシイって、何が?」

 部屋の内部に入ってから凪が問いかけた。

凪は聖樹の発現が気になる様子だ。


 一方、僕は部屋を見渡した。

部屋の中で目を引くのは、大きなコンピューターだ。数台ある。

金属の棚がありファイルが整理されて並んでいるのが目の端に移る。

アレは凪と聖樹があさるものだ。

部屋に窓は無く、空調も整ってない。

この部屋は蒸し暑い。


「……人が少な過ぎる。」

 聖樹が凪のといに答えた。

彼女はそう言いながら棚をあさり始めた。

凪もそれに習う。


「本来なら、私の予想ではここに1人か2人居る予定だった。いつも人がいるらしいからな。だが……。」

「現に人は居ない。」


 聖樹の言葉に被せる様に凪は言う。

聖樹は頷いた。

「そうだ。廊下にいる人間も一般社員だけだ。ガードマンもウェザード能力者も居ない。この階層の警備が甘過ぎる。」

「いつもはいるの?ガードマンとか。」

 僕が問いかけた。

だとしたら、そういった類いの人たちと会わなかった事はかなり幸運だと考えていいのではないだろうか。


「そうだ。」

 棚をあさる手を止め、こちらに向き合った。


「通常なら何人か居るはずだ。あたしとは面識があるからどの道通ることは出来ただろうが……。それとミヤビギ、そこのパソコンから情報を取り出せ。あれに入っているものなら普通にコピー出来るだろう。」

 ある1つのPCを指差す。

アレを使えばいいんだな。


 僕は頷きそのPCの電源を付けた。

低い起動音がする。

ファンが廻る音がする。

それから程なくして画面がついた。


「パスワードは?」

 パスワードが無ければファイルを閲覧することが出来ない。


「”パスワード”だ。」

 聖樹は言った。

……つまり、このパスワードを入力して下さいってところに”パスワード”と打てば良いのか。

随分適当なものだ。

素早く打ち込むと、あっさりとデスクトップ画面が表示された。


「……簡単だね。」

「上手く行き過ぎて逆に恐い。」

 凪が遠慮がちに言う。


 確かに、もう少しハプニングがあったりすることを考えていた。

先程も少し思った。

何も無いにこしたことは無いが、何もなさすぎるのも不気味だ。

ある程度の障害を考えていただけに余計に気になる。


「レンヨウ、そこのファイルは全部持って行くぞ。ミヤビギ。この場で見れないファイルは後で解析すれば良い。全部コピーして消してしまえ。」

 デスクトップに”ウェザード研究”、”重要人物情報”などの文字がある。

それ等のそれっぽい名前のついたファイルを纏めて選択し、USBにコピーする。


 簡単な作業だ。

ここにあるPCも結局家庭に普及しているものとなんら変わりはない。

操作は同じ。

だけど文書ファイルのくせに容量が大きい。

保存に時間がかかりそうだ。

それにUSBの容量は気になったが、4ギガあれば多分全部収まるだろう。


 コピーの終わったファイルから片っ端に削除を行った。

バックアップはあるんだろうが、聖樹はこうしろって言ってたし。

今回、潜入の痕跡を残すことには何の問題も無い。

向こうはそれを知ってもこちらに手出しはしないのだ。


「キクジ、この辺りで良い?」

「ああ。その辺りだ。全部持って行こう。こっちは終わるが、そっちはどうだ。」

 多分僕に問いかけたのだろう。

パソコンの画面を見る。

まだコピーが完了していない。もう少し時間がかかる。


「もうちょっとかな。後少しだと思うよ。」

 コピーが終わったらUSBを抜いて、そのまま脱出すれば良い。

重ねて思うが、簡単過ぎる。

潜入とかって、ゲームや小説では随分難しく書かれていることが多いが、条件さえ整っていれば現実では簡単に行えるものなんだ。

誰も、まさか目の前にいる少年少女(僕たち)が敵であるとは心にも思っていないのだろう。

潜入されるって事自体を普段からずっと意識している人間など数少ない。



「しっかし、思っていた程難しくもなかったね。姉さん達はどうなったかな。」

 凪の一言に、ふと翼さんと稀鷺のコトを思い浮かべる。

あの2人も無事にコトを運んでいるだろうか。

翼さんがいるし、心配することでもないとは思うが。




 そんなことを考えていたときだった。

突然、警報が鳴りだしたのは。

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