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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【自らの意思は…?:雅木葉矛】
42/82

《今はそれでいい》024-#《翼》

【個体の武器】

【恋葉 翼】-0-24#----本格的に”非-日常   《今はそれでいい》




「翼さん?ここ6階ッスよ?」

 隣で蒼希少年が指摘する。

分かっている。

私は微かに頷き、それでのみ返事をした。

目当ての階はここで間違いない。


「いや、でも俺達4階に行くんじゃ?」

 ため息が出る。

理由を説明しなければ納得してくれそうにない。

面倒ではあったが、彼に向き直る。


「それは変更する。下の子達には言って無いけれど、こっちの階で情報収集する。」

 私は目の前の扉に歩み寄った。

銀色に輝くその扉は、装飾などカケラも見られない無骨なデザインをしている。

ひたすらに強固であるという雰囲気を放っている。

恐らく見た目通り硬いのだろう。

壊して通るのは諦めた方が良い。



 ------、先程凪からの合図を確認した私達2人は早速建物内部に足を踏み入れた。

凪が手をあげたのなら問題ないという事。

以上は無く、とりあえず入っても大丈夫だという事。

それを確認した上で後に続く。

何故妹を囮にする様な真似をしたか、それは飽くまで戦力を均等にしようとした結果である。

決して、凪をコマにしたりなどするものか。

私に取って凪は大切な妹なのだ。



 私は周囲に目を配りながら先行者達と同じエレベーターに乗り込んだ。

本来ならここで4階に向かう予定だ。

しかし、とある理由によりそれは変更することになった。

私は早速、躊躇い無く6階のボタンを押した。




 ------、エレベーターから降りた時点でまず目に入るのはこの扉だ。

目の前の扉以外に先に進める道はない。

取っ手の部分にカードの差し込み口は無い。

代わりに、暗証番号を入力するパネルがついている。

6桁の暗証番号を入力しなければこの扉は開かない。


 私は迷い無く数字を入力する。

番号は予め知っていた。

入力が終わり機械音が響いて、程なくしてロックが外れた。


どうやら情報は正しかった様だ。


「なんでそんなの分かるんだ?」

 蒼希君はフシギそうな顔を浮かべている。

ため息が出る。

また説明しないと納得しないのだろうか。


「……後で説明はするから。今は来て。誰かに見られたら終わりだから気をつけて。」

それだけ言うと、私はゆっくりと扉を開いた。




 私が暗証番号を知っていた理由は極めて単純だ。

先日、菊地から渡された無線機を聞いていたのだ。

そこの無線のやり取りでここの番号を知った。それだけだ。

そのやり取りが本物だったことは今ここで証明された。

それは同時に、菊地は完全に正しいことを言っていたということの証明でもある。

やはり、菊地は完全にこっちの味方として動いてくれるだろう。


 彼女は雅木君が居る限りはこちらの味方になってくれる。

私は見抜いていた。

『異性として』かどうかは不明だが、彼女は雅木君に対して何らかの興味がある。


 彼女は私たち全体に好意を持っている訳では無い。それは間違いない。

その証拠に彼女は雅木君の家を住まいとすることを何も嫌がらなかった。

そこで試しに”蒼希君の家に済むのはどうか”と提案したら『性欲のカタマリと同じ部屋に入れるつもりか』と嫌悪感を示した。

凪の部屋を住まいに提案したときは『絶対に嫌だ。お前の妹とあたしは相性が悪い』と頑に拒否して来た。

彼女の好意対象は雅木君なのだ。



 彼女が居ればこそこの作戦は成り立っている。

”向こうの組”の潜入方法も、ここを知っている彼女が彼女ならではの効率的な方法を考え、それを実行すると言っていた。

私はそれを提案して来た時に彼女が言った『任せてくれ』という言葉を信じ、潜入の手段は彼女の自由にさせた。


 ただでさえ戦闘の時の彼女は戦力として心強い。

オマケに彼女はここの地形を知っている。

極めて重要な存在なのだ。

貴重な戦力だ。

利用する様で悪いが、彼女も使えるならば使い込んでやろう。

使える戦力(モノ)はなんでも使ってやる。



 ある一カ所を目指して廊下を進む。

蒼希君は私にしっかりついて来てくれている。 

通路は入り組んでいたが、目当てにしている場所の大体の位置は把握出来ていた。

それも無線機から得た情報だ。

朝方に『窓から太陽が差し込んでいる』という趣旨の会話があったのだ。

つまり部屋は東側にあるハズだ。

なるべく東沿いに進む様に通路を進んで行く。



 だが、部屋を見つける前にやらねばならないことが1つある。

目的の部屋に入るにはパスワードの他にIDカードが必要だ。

私はそれを持っていない。


 ならばこの場にいる人間から奪い取れば良い。

その辺を歩いていたら、そいつから奪い取ってしまえば良い。

しかしその際、他の者に気がつかれてはならない。

この階で見つかってしまえば間違いなく警報を鳴らされる。

ここには非常に重要な何かがあるらしい。

相手もそれを盗られない様に必至なのだ。



 その証拠にこの階は人が多い。

しかも、みんな揃ってやけに物騒だ。


 銃を腰に差しているガードマンがそこら中に配置されている。

そう言う連中は大抵2人で動いている。

相手にすると厄介だ。

同時にアイツ等を無力化出来る自身は無い。

私はひたすらそいつ等をかわしながら進んだ。


 そして何より驚くべきことに、私と同じ程の年代に見える少年少女も複数見かけた。

それぞれ何らかの武装をしている。

例えば今私の足下で気絶しているこの少女はふくらはぎに取り付けるタイプのナイフを隠し持っていた。


 ……これではダメだな。

隠し所としては良い場所だ。

女子である以上、ふくらはぎに隠せば大抵の人間はそれを持っていることを把握出来ないし、調べることも出来ない。

それをしたら、相手を犯罪者呼ばわり出来るし。

しかし、ふくらはぎなどにしまっておくからいざという時反応出来ないのだ。

私と対峙した時、この少女はナイフを取り出すのに手間取って何も出来なかった。


 彼女には悪かったが、どうしても進行しなければならない為に正面から突破させて頂いた。

といっても難しいことは何もしていない。

何かされる前に溝に肘を入れ黙らせただけだ。

その寸前、彼女の瞳が黄色く輝いたのが見えた。

力を使おうとしたに違いない。


 考慮するに多分時折見かける少年少女等はみんな揃ってウェザードなのだろう。

恐らく菊地と同じ部類の人間達だ。

戦い慣れては居ないが、戦える力を持っている。

この年代のウェザードだけを集めていることに意味はあるのか……?



 ともかく、そう言った連中達を配置していることからもここに何かあることは明らかだ。

私はそれを確かめなければならない。

そうすることで、私たちはきっと優位に立てるのだから。




 ------、程なくして目当てのものを探し当てた。

通路の曲がり角から頭を少しだけ出して様子を見る。

黒いスーツの細身な男が1人で部屋に入って行くところを見つけた。

この階に入って初めて見た『ガードマン系』でない人間だ。

彼が1人であるのは好都合だ。

私は躊躇わない。



 ------、頭の中で素早くプランを立てる。


 背後から近づくにしろ、周りに遮蔽物は無い。

確実に近づく途中で気がつかれる。

なら、相手が叫ぶ暇さえ与えず潰せばいい。


 彼は私に気がつく際、振り向くだろう。

振り向いた瞬間、膝を腹に浴びせる。

心構えも無しであるなら、思考がぐらつき視界も遮られるだろう。

あの体系からしてそこまで打たれ強いとは思えない。

目の前が見えていないうちに顎を蹴りで打ち抜いてやれば、それだけで気絶までは持って行けるだろう。



 ------、攻撃開始。

 私は通路の角から飛び出した。

全速力で、姿勢を低く保って彼に駆け寄る。

ちょうど彼はドアノブに手を掛けたところだった。


 彼が私に気がつく。彼が振り向く。彼が叫ぼうとする。

……3工程目が遅い。

叫びだす前に溝に膝を入れた。


 彼の叫び声は『ぐえっ』という小さなうめき声に変わった。

不意打ちを受けたことで肺の中に蓄えられていた空気は一気に吐き出させられる。

肺に空気が無いのでは叫べまい。


 一度離れ間合いを見計らい、全身をバネにして踵を振り上げた。

足裏が見事に顎を打ち抜く。

狙い澄ませた一撃はピンポイントにその場所に強い衝撃を与える。

無駄な衝撃を与えず、一点のみに集約することで技の威力は格段に上昇する。



 彼は開きかけたドアの内に倒れ込んだ。

幸いにも中に人は居ない。誰かの専用オフィスの様だ。恐らくは彼のものだろう。

この男はそれなりに立場が上なのか。

だとしたら持っているものにも期待が出来そうだ。


 彼が気絶していることを確認して、私は懐をあさり始める。

財布や金銭的ものに興味は無い。

そんなもの盗ったって仕方が無い。

私はIDカードが欲しいのだ。


「レンヨウさん……ちょっと。」

 深刻そうな顔で蒼希君が話しかけて来た。

どうしたというのだろう。声を出すのは好ましくないのだが。

作業を続けながら首を傾げることで答えた。


「なんかやっていることおかしくないですか?」

 私は首を傾げる。

おかしい?

何処がだ?

そんなことを言われる心当たりが無いのだ。


「なにが?」

 今度は蒼希君が首を傾げる。

またしてもとても不思議そうな表情をしている。


「いや、だってこれじゃドロボーみたいじゃないですか?なんてか、悪者は俺達って感じ?」

 ……呆れた。

彼の発言はあまりに幼稚だ。


 そんなことを気にしていたのか。

彼も律義な男だ。

彼自体は狙われていないわけだから、当然の反応と言えばそれまでか。

私は小さく首を振った。


「私たちは善意でこれをしている訳じゃない。自分の命が惜しいからこうして戦ってるの。綺麗事でコイツ等が私たちを諦めてくれるなら、それで解決なのだけれど。」

 そう、綺麗事を話していて解決する問題なら最初から苦労などないのだ。

 そう話しているうちにカードを見つける。

間違いない。この人物のカードだ。

カードに書いてある内容を見る限りでは、どうやらこの人物は機密情報を取り扱っている人物であるらしい。

このカードなら、きっと目的の部屋の扉も開くだろう。


「ナルホドねぇ。まぁ、ミンナ助かるならそれでも良いのか?」

「貴方は狙われていない人物でしょう。」

 私は振り向き、ピシャリと言い放つ。

1つだけ確認したいことがあった。


「貴方は、なにを目的にここまで来た?”自分も狙われるかも”って理由だけでここまで来る?」

 蒼希君の表情が曇る。

やはり、別の何かがある様に感じる。


 この人は一見軽いその場の乗りで行動している様に見えて、その行動動機は得体が知れない。

菊地がウェザードである事を彼は彼女が力を使う前に見破った。

そう雅木君から聞いている。

発動時の予兆無しでは私だって誰がウェザードなのかなど分からない。

ウェザードである私でもだ。

この人は、一体何者だ。


 私の表情を見て取ってか。

彼は居心地悪そうにそっぽを向いた。


「ん、そうッスね。葉矛が危ないのを黙ってみてるのは癪に障るから。……じゃあダメですかね?」

 そういった彼は笑顔を浮かべている。

目はあわせてくれないが。

彼にはもっと他に、”何か”がある様な気がする。

それは感だ。確証はない。

……故に。


「……今は、それでいい。」


 気になるが、これは後回しだ。

先を急ぐことにした。

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