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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【自らの意思は…?:雅木葉矛】
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【本格的に”非-日常】024【葉矛】

【個体の武器】

【雅木葉矛】-0-24----本格的に”非・日常”




「ここだ。」

 先頭を進んでいた聖樹が歩みを止め、ある建物を指差した。

こんな辺境に地には不釣り合いな背の高いビルだ。

ビルは6階建て。

お世辞にも『ものすごく高いビル』とは言え無いが、周りの風景がアレなだけに凄く都会っぽく見える。

故に周りの風景に馴染めず浮いている。


 僕が今いるのは、田舎町”紅葉市”の中でも更にハズレ。

ここには殆ど店と呼べるものが無い。

田舎電車の駅の周辺にアイス屋があったのを見かけたほか、チラホラとコンビニを見つけたくらい。

それ以上に建物を探すとなると、古い瓦屋根が特徴的な年代物の民家があるくらいだ。



道中で安物のアイスと麦茶を購入した。

アイスは既に食べきったし、麦茶はこの夏の強過ぎる日差しのせいで既に冷たさは失われていた。

既に喉が渇いて来ている。

けれど、今から新しく飲み物を購入しに戻る事は出来ない。

みんなそれぞれに緊張感を持っているのだ。

それを乱す様な真似は出来ない。




「それじゃ、手筈は良い?もう引き返せないから、覚悟を決めることね。」

 仕切っているのは翼さんだ。

彼女が今日の計画の立案者であり、


 僕は頷く。

この”計画”は過程に日数も踏まず、また時間も掛けず作られた言わば”手抜き”作戦だ。

しかし、僕は翼さんを信頼した。

同時に翼さんの立てたこの計画も。

彼女は『特別難しい事ではないし失敗する方が難しいだろう』と言っていた。

だったら、きっとそうなのだろう。


「ま、いつでもいけますゼ!俺は!」

 稀鷺は拳を平に打ち付け、気合いを入れる。

帽子を被り、いかにも野球少年って感じの雰囲気を醸し出している。

この田舎的風景の中にすっかりとけ込んでいる感じだ。

背中には少し大きめのバックパックを背負っている。

……田舎町の風景には馴染んでいるが、これから現代的建築物に入って行く人物にしたら見るからに怪しい。


「あんまり暑くならないでよね。ただでさえ暑苦しいのに……。」

 そう言ったのは凪だ。

青いリボン状の髪留めを縛り直しているところだ。

彼女はいつも学校に持って行く手提げ鞄を持っている。

うん、別に怪しくない。

自然だ。

髪留めも似合っている。



「文句を言うなら帰れ。お前がいなくともあたしがいれば計画は無事に終わるのだからな。大した力も無いお前は、あたしに任せて黙っていればいい。」

 この場に、凪に文句を言う様な人は1人しかいない。

見ると、菊地はいつもと違い私服だ。

ワイシャツに黒いスカートという非常に簡素な服装。

服の構成的に制服と大差ないが、制服のものとは別の、もっと生地が薄く風通しの良さそうなものだ。

故に涼しげでもある。


 外見に関して、いつもと同じところをあげるとすれば長モノを持ち歩いていることだ。

……新聞紙に包んでもビルの中ではそれを持って行くのは目立つと思うんだ。


「ハイハイそーですか凄い戦力なんですねー。ボクはどうせ戦力外だけど、一応見張り役ってことで何もしないけどついて行きますかね。第一、何もせずに帰ったんじゃここまで来た労力が無駄になる。」

 やれやれと凪は肩竦める。


「それじゃ、行きますか。」

 全員の様子を確認した翼さんは、満足げに頷いた。

ついにコトは動き出す。

今日、ここで。

緊張して来た。

それに、ある種の高揚感もある。

心を落ち着ける為に麦茶を飲み干した。

生温いが、とりあえず喉は潤う。




「さて、行こうか。」

 歩き出す切っ掛けが無いので、思い切って僕が仕切ってみた。

誰もそのことに文句は言わない。

互いに頷き合って、意思を疎通する。

『じゃぁ、行こうか。』、と。

 僕たち5人は、ビルに向かって歩みだした。





 ------、コトの始まりは一週間前。

あの病室での会話だった。

翼さんがじっくりと聖樹の話しを聞いている間、僕と凪は暇だった。

その為、翼さんの持って来たリンゴを食べて過ごしていたんだ。

果物ナイフは看護師さんに言えば貸して貰えたんだ。





「……これがIDカード?」

 翼さんの手に握られているのはプラスチック製の何かの証明書の様なものだった。

顔写真のところに聖樹の写真が貼ってある。


「そうだ。」

 ベッドから身体を起こし、聖樹はカードを指差した。


「城ヶ崎にところに行きたいなら、ソイツがあれば事足りる。」


 聖樹から聞いた情報通りなら。

”ヤツ等”の本拠地は町外れの田舎にある高層ビルだとか。

このカードはそのビルの特定の扉を開けられるものらしい。

扉のロックにカードを差し込むだけで一時的に鍵が開く仕組みだと言う。


「貴方は”雇われ”なんでしょ?なんでこんな重要そうなモノを持たせて貰ってるわけ?」

 翼さんは慎重だ。

有益な情報、つまり敵の本拠地の位置とそこの鍵を手に入れたのにも関わらず彼女は顔色1つ変えない。

まずは安全性を確かめようとしている。


「提示報告をする為には城ヶ崎本人に会いに行くしかないからな。アイツは『電話は盗聴される』とか言って嫌う。被害妄想にも程があるな。……仮にあたしが嘘をついていると思うなら。」

 聖樹は鞄をあさりだす。

目当てのものを探し当て、それを翼さんに放る。


「……ソイツもそのカードが無いと使えないものだ。ヤツ等の行動をソイツで聞ける。特殊な無線機らしくてな、それ以外では聞けないと城ヶ崎は言っていた。」

 それは無線機と言っても凄く小さい。

形もスマートフォンの様なフォルムだ。

スマフォとの違いは、カードの差し込み口があることとタッチパネルの他に幾つもボタンがついていて、それとヒネリ(・・・)が付いていることだ。


 カードが無いと使えない。

あのカードが何の意味も持たない偽物なら、その機械も使えないってことか。

しかし、機械が使えてもカードが本当に”意味のある”ものだという確証になるのだろうか。

それも含めて罠だって考える事も出来るのでは……。

僕の疑問と同じ事を思ったらしい。

翼さんは聖樹に問いかけた。


「コレで本物かどうか証明出来る?」

「ああ、いつでも良い。ソイツを使ってヤツ等の情報を探ってみろ。納得いくまでな。それで得られた情報が正しければ、お前も納得するだろう?」


 翼さんは手に持った無線機を眺め、頻りに頷いている。

暫くそうした後、無線機とカードを鞄にしまい込んだ。


 ナルホド。

仮に罠なら、あの機械で痛手(・・)になり得る決定的に重要な情報は得られないだろう。

そういった確実性のある情報が得られたら、少し信憑性も上がるだろう。


「コトを起こすなら早くした方が良い。7月中旬にはそのカードの期限は切れる。そうでなくともあたしが裏切ったことを知られたらその瞬間にカードを無効にされてしまう。」

 聖樹は翼さんの行動を見て納得した様に頷く。

表情も上機嫌だ。


「ちょ、ちょっと姉さん?本気でコイツの言うこと信用するの?」

 凪は口を尖らせた。

聖樹に対して、彼女は実に不満げだ。

2人の仲の悪さを考えれば無理も無いか。


「もちろん信用する。彼女は裏切らない。私にはそう言える根拠が見えている。」

 何故か翼さんはこちらを見遣る。

どういうことだ?

なんでこの場面で僕を見る?


「……暫く試させてもらうわ。聖樹さん?」





 ------、それとその後の稀鷺を交えての会話。

この作戦の全貌はその時に知ることになった。

無線機を試し、聖樹の所持するブツと情報が信頼に足るものであったらこの作戦を決行すると言われていた。

実際に僕がこの場にいるということは、つまり聖樹は正直者だったということになるだろう。



 ビルには正面から堂々と入って行った。

正面の自動ドアからまず僕と聖樹、それから凪が入る。


 ビルのロビーは無駄にだだっ広い。

この層では一般人もチラホラ見かける。

6階立てのこのビルは3階までは自由に誰でも行き来出来る、言わばレストラン街の様になっているのだ。

田舎にあるちょっとしたアミューズメントパークだ。

この辺で外食をするならここ以上に便利な場所はないだろうね。

食事屋の他にもいくつかお店はあるが、今の僕たちはそんなものに目をくれる程暇ではない。


「葉矛、大丈夫?」

 隣で凪が囁く。

聖樹を先頭に、僕と凪は並んでその後を追いかける様に付いて行っている。


「多分。覚悟はある。今までだって結構な事が起こってるからね。もう大抵のことじゃ驚かないよ。」

 僕は軽く笑いかけた。

この日の為に、作戦を知ったその日から日夜自分に暗示をかけ続けていたのだ。

『やれるやれるだいじょうぶだいじょうぶぼくてんさいぼくいけめんぼくしゅじんこう』

……このメンタルトレーニングを行ったらからにはちょっとやそっとのコトで驚いたりはしない。ハズだ。

自身はないけれど。




「レンヨウ、ミヤビギ。エレベーターで5階まで行く。出来るだけ慎重に行動しろよ。」

 聖樹が囁く。

敵が何処に潜んでいるか分からない。

誰にも会話は聞かれない方が良い。


「エレベーターの仲では喋るな。計画のことは特に。盗聴器がある。」

 菊地はエレベーターのボタンを押した。

乗る前の注意事項としては優しいものだ。

ただ喋らなければいいんだろ。

そして彼女は、自分たちのしている事の重大さを再確認させてくれたのだから親切でもある。


「プライバシーも何もあったもんじゃないね。」

 凪が呟く。

そして頭の上で手を組んで伸びをした。


 ……これは合図だ。

ここまで大丈夫で、これから上に行くという。

ここまでは予定通り進んでいるという知らせだ。

この段階で問題があったなら、菊地が手をあげて知らせることになっている。

そうしたら表の稀鷺と翼さんは退散。

僕たち3人は普通の客を装って適当な店を見て回り、帰ることになっていた。


 だが、そんな必要は無い。

ここまで何も起きていないのだから。

だから凪が合図を出す。

そうすることが、翼さんと稀鷺に対するゴーサインなのだ。

まだ第一関門すら見えていないが、合図は出した。

向こうは向こうでやってくれるだろう。

信じるしか無い。



 目の前の扉が開く。

誰も乗っていないエレベータに3人で乗り込む。

以外と広めで新しそうなエレベーターだ。

建物自体も新しいのだろうか。

がっしりしていて安定感がある。


 聖樹が階の指定ボタンを押す。

エレベーターは音も無く動き出した。


 5階に付くまでの間に作戦の内容を頭の中で復唱した。

大丈夫だとは思うけど、一応。忘れている部分がないか確認するのも悪く無い。




 ------、計画と言っても複雑なことはしない。

簡単な作戦だ。

まず僕達3人がビルに潜入する。

僕たちは5階に向かう。

何故なら、そこが聖樹の持つカードの通行権を発揮出来る場所だからだ。


 5階にはいろいろなデータを保管している部屋があるらしい。

そこのPCの中のデータを盗み、ヤツ等の参照している資料やファイルを盗む。


 稀鷺と翼さんは後から潜入。

4階に向かう。

そこはカード無しで自由に行き来出来るフロアらしい。

どうやら大した情報は無く、しかもそこに働く人たちも僕たちに敵対する部類の人々では無い。

なんとか大人達をごまかして少しでも情報が無いか探る。

それが向こうの2人の行うことだ。



 監視カメラに移ろうが構わない。

向こうはそれを公表して僕たちを指名手配したりは出来ないのだ。

それは即ち、自分たちの正体を世に広める切っ掛けになりうるから。

自分たちのやっていることをさらけ出すことが出来ない様な連中なのだ、相手は。


 ここで情報を集めれば敵の正体を知るコトが出来るかもしれない。 

そう、上手く立ち回れば敵が何を目的にしているかこれでわかるかもしれない。

敵の目的を把握出来れば、ある程度敵の行動に読みをかけれる。今後逃げるにしろ抵抗するにしろ役立つ。

……翼さんはそう話していた。





「葉矛?なんかボーッとしてない?」

 ------、ハッと我に帰る。

自分だけの世界に入っていた。

僕は軽く首を振り、気を引き締めた。


 この作戦は重要なのだ。

絶対成功させなくては。

戦闘で役に立てないなら、せめてここで情報を多く集めてみせる。



 そうやって決意を固めたその時。

エレベーターの扉が開かれた。

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