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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【巻き込まれた者:雅木葉矛】
36/82

【説明責任】019【葉矛】

【個体の武器】

【雅木葉矛】-0-19----説明責任



「これからどうするんです?」


 病院を出た僕は翼さんに問いかけた。


 彼女は今朝”今日はもう1つしなきゃ鳴らないことがある”と言っていたのだ。

それが僕の手伝いを要すものなら、これからそれを行うはずだ。


「一度、君の家に向かう。」

 唐突だ。

一応聞いてみる。


「な、なんでさ……?」

 しかしそれには答えず、彼女は歩みを進める。

頬に汗の雫が溜まっているのが見て取れる。

多分、僕も同様の状態に違いない。

日差しが強い上、風も吹いていない。

暑くてたまらないんだ。


 病院の中は一応冷房もかかっていて涼しかった。

それに対し、凪の部屋は窓が開いていて冷房は付いていなかった。

しかしそれでも風が入り込んで凄く涼しかったのだが。


 どういうことだ?

なんで病室の窓から風は入っていたのに、外に出たら風が吹いていない?

こんな理不尽あっていいのか?


 時刻は昼過ぎ。

夏の日差しはここぞと言わんばかりにカンカンと照りつけている。

病院から僕の家までは歩いたら120分程。

モチロンこの酷い暑さの中を歩いて来る訳が無い。


 ここまではバスで来た。

そしてバス停は病院から5分程歩いた位置にある。

この規模の病院にバス停が無いなんて普通は考えられない。

今まで利用していなかった施設だっただけに、バス停が無いことを知った僕は”カルチャーショック”に似た何かを受けた。


 歩いて5分。

言うだけ聞くだけなら実に短い距離だ。

しかしこの距離をバス停まで歩くことすら暑くて苦行だ……。

更に、バス停に付いたらそこから数分間バスが来るのを待たねばならない。

この灼熱の気候の中でだ。

なんで夏はここまで暑くなければならないのだろうか。

もう少しちょうど良さがあってもいいハズだ。



……考えてみたら、それが春と秋か。


================================================



「雅木君。君は、不思議な存在ね。」

 暑さに耐えながら歩くこと1分程。

彼女は唐突な発言をした。


 どういう意味だろうか?

喉の乾き具合が酷くて返事をするのも躊躇われる。

僕はただ首を傾げた。

病院の中の自販機で何か買えば良かったんだ。

スポーツ飲料くらい買っておけばまだ幾分かマシだったに違いない。


「考えてみれば、君が私の戦っているところを見たあの日。あそこから反撃の糸口は見つかった。」

「……糸口、ですか?」


 発言してから後悔した。

言葉を発しただけで疲れが溜まったんだ。

口を開けたとたん口内が乾く。

唾が全然出てこなくて喉がカラカラしている。


そして暑い。故に怠い。



「この数日間、今までを考えれば変化の連続なの。キクジみたいな娘が現れることなんて今までは無かった。君と会ったあの日に私はあのメモを手に入れた。君と出会ってから間もないのに、長い間耐えるばかりだった状況から随分と変化したわ。」

 翼さんはそういうコトは無いのだろうか。

普段通りに喋っている。


 僕はちょっと考える。


 ”僕と出会ってから状況は変わった”。

彼女はそういうが、別に僕が居たから変わったことなどあるのだろうか。

”聖樹の襲撃”の件は確かに僕が居たから起きた事柄かもしれない。

ただ”彼女が攻めて来た”コトがそんなにいいことだとは思えない。

それに、メモを手に入れたことに関しては僕は全くの無関係だ。

たまたま『あの日』に翼さんが見つけたに過ぎない。


「全部偶然だと思います……。僕なんて、ナギやツバサさんに迷惑しかかけていない……。」


 僕がそう言うと、急に翼さんが立ち止まった。

なんだろうと彼女の目線を追う。

立ち止まった原因はすぐにわかった。

……道の脇に自動販売機があったのだ。

僕も彼女も考えることは同じ。

金を使ってでも『この場で』飲み物が欲しい。


 財布どこだったっけな?

ポケットを探り、財布を探し当てる。

一刻も早く飲み物を……。

そう考えて僕は必要分のお金を取り出した。


「迷惑はかかってるかもね。けど、それが必ずしも双方にとって”悪いこと”だとは限らない。」

 そういいながら彼女は素早く自販機にお金を入れた。


 ……早い。

動作が早過ぎる」

予め小銭を準備しておいたのか?

彼女は最初から買う物が決まっていたかの様に150円ぴったりを自動販売機に入れた。

自販機の位置を記憶しておいたのだろうか。

お金を取り出す速度で”負けた”ことなんて無かった。

だが今回は明らかに僕は”負けた”んだろう。

精神的に負けた感じがする。


 ともかく、先に買う権利を得たのは翼さんだ。

自動販売機は1つしか無い。

僕はなるべく早く買ってくれることを期待しつつ彼女を見守る他ない。

喉かわいたなぁ……。


「”偶然でも、それは必然”。そんなニュアンスの言葉を聞いたことは無い?」

 こちらではなく、自販機に向き合って翼さんは言った。

しかし、それは確かに僕に発せられた言葉だろう。


 ……”偶然”は”必然”。

少し考えたが聞いたことは無い。

だが意味はなんとなく分かる、気がする。

具体的に説明しろと言われても無理だけど。


 けど、言葉の意味するところはおぼろげに分かっても彼女の発言の意図は掴めない。

”偶然”が”必然”だったら一体どんな意味がある?

必然とは”当然”だ。


 僕はレンヨウ姉妹に迷惑をかける”運命”だったってコトか?


僕の自虐に対する慰めにはならないな。

必然性があって出会ったとしても役立たずは役立たずのままなのだ。



「必然って言ったって、僕が”関与している”意味は……。」


 ちょっと離れた位置で翼さんを見ていた。

そうしたら彼女の頬から一雫、汗の球が落ちた。

反射的だ。僕はそれを目で追う。

汗の球は太陽によって熱せられたアスファルトの上に落ち、一瞬で蒸発する。


 なにげなくそれを見届け、視線を”戻そうと”した訳なんだけど……。


 その際彼女の『服』が目に入る。

前も言った通り、制服のワイシャツだ。


 夏は暑い。彼女は汗をかいている。

つまり、制服も汗ばんでいてちょっと”透けて”いる……。

薄く、うすーくではあるが、彼女の身体の”線”が浮かび上がっている。




 ……いや、違うよ?

さっきも言った通り見ようとして注目した訳じゃない。

”偶然”目に入ってしまったのだ。

さっき彼女が言った通り偶然とは必然。

必然は言い換えれば一種の”運命”な訳で、それに抗って無理に目を逸らすなんてそれは一種の逃げであると思う。

だったら目を逸らさずそのままじっと見るのが正解ッ……。


「……?雅木君。どうかした?」

「い、いや!なんでも無いですッ!!」


 大慌てで顔をそらす。

あ、危ない!

幸い翼さんは僕の所業に気づいていない様だ……。


「……。変なの。やっぱり不思議な子。」

 小さく微笑みを浮かべる翼さん。


 仮に僕が”透けてる”のを見てた、なんて知ったらどんな顔になるだろう。

バレなくて良かった。心からそう思う。


 僕はただ愛想笑いを浮かべることしか出来なかった。

辺りは暑いのに、背筋はひんやりとしている。

イヤな冷や汗をかくことになった……。



「今言った通り。”偶然は必然”。”理由”はなくとも起こった事柄に意味はある。君が私の戦うところをみて、こうやって巻き込まれたことにもきっと”意味”がある。」


 そう言いながら彼女は自販機からお茶を取り出した。

お茶とはまた無難な物だ。

熱い時喉を潤すなら、だいたい皆お茶買うよね。

炭酸飲料は喉を潤すのには向いていない。

まぁ、それは僕の主観だけど。


 ところで。

彼女の言ったコトだが。

僕と彼女の出会い、その事柄は一体どんな”意味”を持つんだろうか。

考えても想像がつかない。

……僕は彼女と出会って、こういう非日常に引き込まれ、守られる立場になった。

……彼女は僕と出会って、相変わらずの非日常に更なる重みを背負うことになった。


 ……違うな。

そういう感じじゃない。

今のは”結果”だ。

こうなったからこうなった、という結果を言ったに過ぎない。


 意味っていうのはもっと深くにある要素なのかもしれない……。

考えても分からない。


「……難しい顔しすぎ。とりあえず飲み物を買ったら?」

「うん……。」


 ”偶然”は”必然”。

それには起こった事柄には意味がある。

本当に意味があるのかはわからない。

だけど、いつかそれが見える時が来るのだろうか?


 ……随分と哲学的なことを考えながら、僕はお茶を購入した。

自動販売機のボタンがここまで重みを持っている様に感じたのは初めてだ。


「私は、君と出会ったことには意味があると思っている。意味があるから、だから『許せ』、そう言う訳じゃないけれど。」


 そういって彼女は俯いた。

表情が暗い。

さっき凪の病室に尋ねた時以上に……。

手に握ったペットボトルをじっと見つめながら、何かを考え込んでいる様だ。



「……雅木君。コレから君の家に行く。朝言ったけど、しなきゃならないことがあるの。」

「僕の家……?」

 疑問には思ったが頷く。

別に構わない。

けどなんだって僕の家?

彼女の”しなきゃならないこと”ってなんなんだろう?




「その前に、先に君に謝っておきたい。」


 急だ。

唐突だった。

翼さんは心苦しそうな表情を浮かべ、頭を擡げた。




「私は、また人を巻き込んでしまったのかもしれない……。」

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