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個体ノ武器  作者: 雅木レキ
【巻き込まれた者:雅木葉矛】
37/82

【巻き込まれたのは友人で】020【葉矛】

この話しでとりあえず第1章終了デス。

ここまで見てくれた方、ありがとうです。

まだ続きますので良ければ引き続きお楽しみ下さい。

【個体の武器】

【雅木葉矛】-0-20----巻き込まれたのは友人で



「よ!葉矛!」


 ……僕は翼さんに連れられ自分の家に向かった。

そして家に着いた僕を出迎えたのは、この友人。稀鷺だった。


 この男、鍵も無しにどうやって部屋に入ったのだろうか。

とても気になる。

ただ、稀鷺がここに居る理由は翼さんから聞いている。

先程の『人を巻き込んだ』と言うのは、まさに稀鷺のことだったのだ。


 稀鷺のヤツ、ちゃっかり日常の中で凪のメールアドレスを聞き出していたみたいだ。

翼さんは凪の携帯を使って今日この場所に来る様に事前に伝えた。

『よりに寄って(葉矛)の友人を巻き込むことになって、気まずくて話せなかった。』

そう翼さんは言っていた。


 実際は襲撃にあった時”僕の逃げた先に稀鷺が居た”。

それが原因な訳で、正直なところ『稀鷺は運がなかった』としか良い様が無い。

悪いのは僕だ。

だけど、悪気があった訳じゃないんだ。

だってあんなところに稀鷺があのタイミングにいるなんて誰にも予想がつかないだろう。

だったら何が悪いって、稀鷺本人の運が無いとしか良い様が無い。



「ま、とりあえず入れよ。なぁんにも無い部屋だけどな!」

 稀鷺が急かす。

何故、家主でもないのにこの友人は我が物顔で家主を”招いて”いるのだろうか。

何も無くて悪かったな。

僕は小さく悪態をついた。


 翼さんはささっと部屋の中に入って行った。

何故か家主である僕が一番最後に続く。



「随分、丁寧に掃除してるのね。」

 翼さんは意外そうな顔で周囲を見渡しながらリビングに入って行った。

僕は彼女の後ろを歩きながら、小さく肩をなで下ろした。


 以前凪が初めて来た日、僕は部屋を綺麗にする事の意義を学んだ。

あの日の教訓を忘れず、僕は今日という日まで毎日掃除を欠かしていなかった。

部屋は全て完璧なまでにピカピカに掃除されていたし、この家を隅々まで探したところで”如何わしい”モノは一切無い。


 ……完璧。


 つまり”事故”はあり得ない。

フッフッフ。稀鷺が何を引っ張りだしたって僕の威厳を損ねる様なモノは出てこない。

僕は心の中でほくそ笑んだ。


 1人で満足しながら、勝手に入って行った2人を追う。

……ちなみに掃除の時間がそんなに沢山あるのも”彼等”の存在があるからだ。

外に出れば僕自身も狙われかねない。

それはもう嫌というほど思い知っている。

例えば聖樹の件とかで。

以前は学校帰り、本屋に寄ったりゲーム屋を廻ったりして時間を過ごしたモノだが……。


 最近は最速で家に帰る生活が続いている。

家に着いてもやることが無いので掃除に時間を充てることが出来たのだ。



「------、さて葉矛。どーいうコトか、説明してもらおうか?」

 僕がリビングに着くなり、稀鷺が問いかけて来た。

既に彼は勝手に椅子に座り勝手に冷蔵庫の中のアイスと飲み物とケーキを出して勝手に食していた。


「どういうことか聞きたいのはこっちだよ。なんで。」

「ん?鍵がかけてあるはずの家の中に居る訳か?そりゃぁ……。」

「僕が聞きたいのは、なんで人の家の冷蔵庫の中を漁って、その中身を我が物顔で食べてるかだ!そのケーキ、高いんだぞ!!」

 稀鷺は苦笑いを浮かべ、食べてる最中のケーキを見遣った。

彼の食べているケーキは決してコンビニで購入したものじゃない。

とある、有名なケーキ屋で販売している人気商品なのだ。

僕はそれが大好きだったし、彼もそれを知っている。

僕がじっと睨んでいると、不意に稀鷺はフォークを置き皿をこちらに差し出す。


「……えっと、食べるか?」

「食べるかよ!」

 『食べるかよ!』、は否定文だ。

欠けたケーキを差し出されて気分が言い訳が無い。

ケーキは自分で形を崩してこそだ!

謝罪するなら今度新しい物を買って欲しいものだ!



「雅木君。申し訳ないんだけど話したいこともあるから、2人で話しをするのは今度にしてもらえる?」

「……まぁ、それは構いませ、ん……が……。」

 返事をしつつ翼さんの方を振り返り、絶句した。

彼女もまた、稀鷺同様に飲み物食べ物を勝手に取り出して食していたのだ。


 ……僕はこの2日間で、買いだめしておいた2リットルペットボトル3本とケーキ、スナック菓子3袋、アイス5個(棒アイス3個カップアイス2個)を失った。

小遣いをはたいて引きこもる為に買っておいたのに……!

金銭的な痛手も大きい。

だがそれ以上に自分の家にあるものが次から次に無くなって行く事に対して僕は恐怖した。

僕の家は安息の地からだんだんと遠のいている気がする。

現に、家に置いてあるものすらどんどんと無くなって行く事が何よりの証拠だ。


「つ、ツバサ……さん……?」

 彼女に向け、縋る様に手を伸ばす。

……実は、翼さんの飲んでいるそのペットボトルは最後の一本なのだ。

それを意識したとたん喉が乾いて来る。

……あのペットボトルの中身は既に半分を切っている。

新しく買ってこなくてはならない。

しかし、買うには最寄りのコンビニまで片道10分程の距離をこの暑い中歩いて行かねばならないのだ。

しかも帰りは荷物を持ってその距離を歩く訳で。

昼間に往復したら乾涸びてしまう。

夜まで僕は一体何によって喉を潤せば良いのだろうか。


 僕の縋る様な瞳を見て、多少の罪悪感を感じてくれたのだろうか。

翼さんは居心地が悪そうな表情を浮かべ、

「……今度、代わりのをかって来てあげるから。私は、”今”喉が乾いているの。容赦して。」

と、そういった。


 ……悪かったと思ったのは分かった。

でも言葉では僕ののどの渇きは潤わない。


================================================



「------、さて。話したいこと、それは2つある。」


 改まって翼さんが話し始める。

テーブルの向かい側に翼さんが座る。

それに真正面から向き合う様に僕が。

隣に稀鷺が座る。


 隣、及び目の前にいる客人には飲み物があるが僕には無い。

喉の乾きを潤す為に水道水をコップに注いで我慢する。

家主ながら謙虚だ。僕は。


「……稀鷺に今起こっていることを説明するんですか?」

 僕は尋ねる。

メールで会話したとはいえ、それで全部伝えたとは考え辛い。

そして、稀鷺と翼さんは学校で会う機会が無かったと思う。

稀鷺がこの件に関わることになってから毎日大体一緒に過ごしていた。

休み時間と、昼休み。


 ……放課後は稀鷺は部活がある。

その時に話したのか?

いや、考え辛い。

それは人目に着く。

テニス部で活躍しているレンヨウ ツバサを見る為に、わざわざ足を運ぶ男子生徒は少なくないと聞く。(稀鷺曰く)

部活の時間帯、翼さんは他者に目撃されていなければならない。

部活を放棄するのは彼女の”普通”でない。



「いいえ。それはもう話してある。」

 翼さんはそう述べた。

僕は首を傾げる。


 そんなタイミングがあったのか?

話せそうな場面は思い浮かべないが。

思い当たる節を探していると、それを読み取ったのだろうか。

説明してくれた。


「この子、教師に呼び出される回数が多いから。その時『私の方から注意したい』と申し出て、その時に説明した。」

「”レンヨウ ツバサ”に呼び出されたって聞いた時には正直、期待半分恐さ半分でしたよ!」

 そういいながら稀鷺は頭を掻いた。

笑おうと勤めている様だが顔が少し青い。頬も引き攣っている。

……思い出しただけで多少なりとも表情に出てしまっている。

”恐さ半分”というのは、呼び出された時本気で恐れたという事らしい。


 ……ナルホド、そういうコトか。

翼さんなりの立場を利用しての立ち回り……。


 多分、校内で稀鷺と一番長いこと接触している友人は僕だ。

その僕でさえ、翼さんとの接触に気がつけなかった。

誰にも気がつかれず、経緯の説明が終わっていたのならそれは凄い。

完璧に『いつも通り』を守って行動出来ているということだ。


 そしてこの方法は恋葉 翼だから出来た事だ。

彼女の立場であったからこそ”生徒へ直接注意したい”といってじっくり話せる時間を設けれたのだ。

他者に不信に思われない様に。


 感心している僕を他所に翼さんは話しを進める。


「だから、コレから話すのは”コレから”のコト。この先のコト。」

 翼さんは鞄からノートを取り出した。

以前見せてくれた大学ノートだ。

ぱらぱらとページを進め、あるページで指を止めた。

「……宮原 弘次(みやはら ひろつぐ)。『魔術師同盟』の創設者。彼と、話しをした。」


 魔術師同盟?

聞き覚えがある。

あれか。以前言っていた、【要注意人物】の集まり……。


 思い出して、僕はハッとした。

彼女は今重要な事を言ったぞ!

敵が要注意人物として警戒しているであろうメンバー達の”創設者”と話したって……!?

しかも話しを聞く限り直接!


「な、何か言っていたんですか!?」

 思わず大きい声を出してしまう。



 以前彼女はこの組織に接触出来れば状況は動くと言っていた。

結果が気になる。

いい結果であってもらわねば困るのだ。


……しかし、期待する僕の目を見た上で彼女は肩をすくめた。

やれやれ、とため息まじりに首を振ってみせた。


「……何も。今の私たちと話す理由も言葉も持たないそうよ。”今の”、ね。」

 ……思わせぶりな言い方をする翼さん。

彼女の発現内容は明らかに絶望的な無いようだった。

しかし、言い回しを聞く限り彼女自身はそれほど気に留めている様子は無かった。

打開策はあるのだろうか?

とりあえず落ち着け、僕。



 注いだ水を一気に飲み干す。

……けど水って味がしないから喉を潤すだけに飲んだとしても物足りない感じがする。


それでも少しはマシになる。

喉を潤し、少しでも話しに集中しようと勤める。


 改めて集中して彼女の話しに耳を傾けた。


「……だからこっちを無視出来ない様に、ちょっと工夫をしてやることにした。それで稀鷺君。君を呼んだのは、これを聞くためなんだけど。」

 ……やっぱり、何らかの策はあるのだ。

”無視出来ない工夫”について、これから話すのだろう。


 だがその前に、稀鷺と翼さんが向き合う。

流石の稀鷺もいつものへらへらとした態度ではなく、真面目そうだ。

ここまで真面目な稀鷺を見たのは、クラスの女子生徒に”チカン”呼ばわりされて社会的に死にかけた時以来だ。

ちなみにその件は結局”女子生徒の勘違いだった”という結末を迎えた。



「君は、まだ狙われてない。コレからどうなるか分からないけど、今はまだ普通に過ごせる。だから、聞く。」

 僕はハッとする。

考えてみれば、確かに稀鷺は狙われてなど居ない。


 ……確かに稀鷺は僕の逃げているところを見た。

だけど、まだ”稀鷺自身を狙った”攻撃は無いのだ。

もしかしたら”彼等”は稀鷺の存在など目にも掛けていないかもしれない。

なにも気がつかなかったフリをしたなら、稀鷺は元通りの生活を送れるかもしれないんだ。


「だけど、これからする話しを聞いたらもう元には戻れなくなる。否が応でも参加して貰う。私の指示を聞いてもらう。戻るなら、今が最後。」

 翼さんの言いたいことは分かる。

これからする話しは僕、いや僕と恋葉姉妹にとっては凄く重要でデリケートな話題だ。

まだ稀鷺は狙われてない。

不意に狙われるかもしれないけど、まだ。




 この話しを聞いたら稀鷺も僕と同様の立場だ。

翼さんの考えに付き合うコトになる。

それは多分『彼等』に喧嘩を吹っ掛けるようなコトだ。

手伝ったら、今までがどうであれ稀鷺も完全に僕みたいな立場になる。


 ……今が、稀鷺にとって最大の分岐点だ。

僕と違って稀鷺は選べるんだ。

『関わる』か『関わらない』かを。


 稀鷺は小さく笑みを浮かべた。

いつものとは違う、もっとしゃきっとしたものだ。


「帰れって、冗談っしょ!今更帰れますか!このクソ暑い中、態々ここまで来たんっすよ?」

 呆れた様な口調。それに声の調子。

だが、彼は巫山戯ている訳じゃない。

僕には分かる。

彼は真面目だ。


「お巫山戯で言っているんじゃない。ここは、貴方にとっての分岐点。」

 稀鷺の最大の選択。

重要な選択を彼は結論を付けなければならない。

それもこの場で。今すぐに。

そうでなければ話しが進まないのだ。


 ある意味究極の選択だ。


『相手が襲って来るかもしれない。だから先に仕掛ける。』

『襲ってこない方に賭けて何もせず無防備に過ごす。』


 この二択なのだ。

どちらにしろ、安心出来る生活は望めない気がする。

前者は前者で間違いなく『普通の生活』が終わる。

後者は、『もしかしたら……。』という考えを常に持って生活しなければならない。


 しかし、稀鷺は躊躇わなかった。

彼は最初から結論を持っていた。

先程言った結論を、彼は曲げない。


「巫山戯てなんて無いッスよ!俺は俺の意思があって参加するって決めた。悩む時間なら、今日聞いてくれるまでの間たっぷり用意されてましたから!結論は、ついていた。」

 稀鷺は、あっさりとそう言ってのけた。


 ちょっと凄い。

巻き込まれてずっと過ごし方を考えて毎日を送って、僕はまだ『自分が戦っている』実感も『自分が戦う』覚悟も出来ていない。

ただ敵が恐くて逃げてるだけだ。

友人は僕よりも圧倒的に早く決意を固めた。



 この差はなんだろう。

それは僕が弱いから?

彼が強いから……?

それとも……。



「宜しい。だったら稀鷺君にもこの先の話しを聞いてもらう。そして、もう引き返せない。この話しは他言無用。良い?」


 僕は頷く。

隣で稀鷺も手をあげ、肯定を示す。



 ------それを確認して、翼さんは静かに語り始めた。

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