【僕の友達は空気が読めない】011【葉矛】
【個体の武器】
【雅木葉矛】-0-11----僕の友達は空気が読めない
このままずっとエレベーターの中で休んでいたい気分だ。
足は震えるし口の中は乾いている。
モチロンそんな事をしたら当然捕まる。
足を止めている暇は無い。
僕は靴を履きながら状況を考えた。
この後、何をするべきか。
あの人が何者なのかは分からない。
だけど僕に危害を加えようとしているのは絶対だ。間違いない。
少し考えて、結局凪か翼さんに守ってもらうしか無いという結論に至った。
丸腰で日本刀相手に渡り合えるものか!
まぁ、仮にあの黒髪の少女が丸腰だったとしても正面から立ち向かって勝てる自信など無い。
僕は普段から喧嘩なんてしないし、あの娘迫力凄かったからな。
圧倒されて全く動けず一方的に嬲られる自分の姿は結構簡単に連想出来た。
靴を履き終えポケットをあさる。
するとそこにはちゃんと携帯電話があった。
ホッと安堵のため息が出た。
よかった。コレが無かったら本格的に詰んでいたところだ。
僕は休日だろうが、出かける用事も無いのにポケットに携帯を入れてる。
少し変わっていると自分でも思う。
でも、家にいる時トイレに入った後に急にネットが見たくなる時って無いかい?
無い?僕にはあるんだ。
だから常に携帯をポケットに入れ持ち歩くようにしている。
今回はそれが役立った様だ。
エレベーターの階数を示すランプが2階に着いた事を知らせた。
ほっと肩をなで下ろす。
途中階にボタンを押した人はいなかった様だ。
道中の中途半端なところで扉が開いたら……。
そしてあの刀を持った訪問者が追いついて来たら、今度こそ逃げ場が無い。
ところで、このエレベーターは上り下りがなかなか早いと思う。
あの時のエレベーターと彼女のいた距離を考慮して思う。
彼女が階段で走ったとしても、多分このエレベーターは追いつかれない。
最悪でも同時に1階に辿り着くだろう。
待ち伏せは無い。
ところで人の思考する時間は短い。
今まで考えていた事は全て、エレベーターが4階から2階に辿り着くまでの間に考えていた事だ。
1階に着くまでにほんの少しだけ猶予がある。
僕は携帯を取り出した。
簡潔に凪当てに助けを求めるメールを書く為だ。
指が震えてちょっと書くのに手間取ったが、なんとか文面を書き上げる。
変換ミスがあっても知った事ではない。伝わればそれでオーケー。
そして送信。
ニュアンス的にこれで通用するはずだ。
送信した瞬間、エレベーターの扉が開く。
例の少女はまだ付いていない。
予想した通りだ。
『扉を開けた瞬間待ち伏せ』というアクション映画などでおなじみの展開は無かった。
仮にそれが起きたとしたら、僕は映画の主役でもなんでも無いので逃げ切れずそこで終幕だ。
ほっと胸を撫で下ろし、僕は急ぎ足でマンションを後にした。
------、さて、上手く撒けただろうか。
大体10分後。
僕は近所にある川の堤防を歩いていた。
堤防の道路の上をとぼとぼと歩く。
そこは細い道路で車の通りは少ない。
ランニングやサイクリングに最適であろう道だ。
今置かれている状況を考えて、またため息が出る。
この10分に何度ため息をついただろうか。
暑いのと緊張感でガチガチなのとが合わさって非常に疲れる。
とにかく今すぐ家に帰るのは危険だ。
待ち伏せされているかもしれない。
家に帰って日記の続きを書きたい。
家に帰って涼しい部屋でお茶を飲みたい。
気晴らしを兼ねて時折周りを見渡す。
土曜日の夕方。
休日にしては人通りがやけに少ない気がする。
今日に限って特に意識して見ているからそう思うのか。
普段こんなところ来ないからここの”いつも”を僕は知らない訳なのだが。
”いつも”と比較のしようは無い。
ここは、もともとこういう場所なのかもしれない。
今は人目の多い方が良い。
その方が安心出来る。……気がする。
人目が多ければ、いくらなんでもその場で僕を殺そうとすることは出来ないはずだ。
向こうも人目は避けようとしている。……ハズなのだから。
ただ、自分から人の多いところに行くつもりは無かった。
人が多いというコトは、それだけ僕も黒髪の彼女に気がつき難いってことだ。
向こうが僕を一方的に見つけたなら、僕に気がつかれずいつの間にやら接近して来てもおかしくはない。
それに向こうも人の多い場所が僕にとって有利なのは知っている。
僕がそこに向かおうとすることを読んで、予め一般人に紛れこんで待ち構えているかもしれないじゃないか。
つまり、人の多い場所に行けばそれだけ敵との遭遇率も高くなるだろう。
根本的問題だが、そもそも敵は何人いるか分からない。
もしかしたら襲撃係と待ち伏せ係と分けて行動しているかも。
僕が注意しなくてはならない相手は1人では無いのだ。
結論。
もうしばらくの間、冷房の効いた部屋には行けないだろう。
駅前に行けばコンビニとかあるのだけれど。
そこは人の多い場所だ。
また、ため息が出る。
「お、葉矛!よぉ!!」
「……、!!」
声すら出ない程に身体が強張った。
警戒していた割にはいつの間にか人がすぐ近くにいた。
仮にこれが例の少女だったら僕は終わっていただろう。
我ながら不用心にも程がある。
後ずさる、というより飛び退く様に距離を取って、僕はその訪問者と向かい合った。
「……あー、どうした?葉矛?」
「キサギ!!」
声をかけて来たのは稀鷺だった。
思わず素早く駆け寄り手を握りしめる。
「こ、こんなところであえるなんて……!」
「こんなところも何も、俺は部活してんだから帰りにここ通ってたって別にいいだろ?つか、気持悪いな。手を離してくれ。男に握られても需要は……。」
稀鷺に、知っている人間と会えて僕は心の底から安心した。
僕を知っている人が側にいる。1人じゃない。
そのことが単純に心強かったんだ。
しかし、その安心はほんの一瞬で掻き消える事になる。
ゾクりとした。
背筋の辺りがちりちりとして、空気が張りつめた。
殺気を感じる。
目の前の稀鷺ではなく、その後方の方に僕は目をやった。
稀鷺の背後、結構遠くではあったが”彼女”がいた。
刀を肩に乗せる様にして、正面からこちらを見据えていた。
「逃げるな。ミヤビギ。」
刀を強く握り直したのが見えた。
言葉を発する余裕も無い。
逃げるなって言って逃げないヤツがいるものか!
彼女から目を離し、素早く回れ右して逃げ出した。
稀鷺の腕を握ったまま、全力で。
見合っていても戦える訳じゃない。
だったら背中を見せてでも走って逃げろ!
「お、おい?葉矛?なんだなんだ?」
友人は困惑している。
それに構っている暇などあるハズが無い。
そしてこの友人を置いて行くつもりも無かった。
当然だが彼女が狙っているのは僕だろう。
しかし、だからと言ってこの場に置いて行って稀鷺が安全だとは限らない。
一緒に逃げるのは咄嗟の判断からだった。
「い、今は来てって!後でいろいろ言うから!逃げるんだ!」
逃げるなって言われて逃げない訳にはいかないんだよ……!
後ろを振り返らず、堤防を走る。
稀鷺が話しかけて来る。
「あの娘、お前の知り合いか?まさか、お前二股かけて……!?」
「違うよ!きょ、今日初めてあったよ!!そもそも二股ってなんだよ!ナギとはそんなんじゃない!!」
当然、断固否定した。
この友人ときたら!
こんな時までなんてのんきなのだろうか。
「そ、そうだよな。お前が何人も女の子と通じてるわけないよな!」
何故嬉しそうに言うのだろうか。
問いつめたくなったが、今はそんな場合じゃ無い。
逃げるのが第一だ……。
「んじゃ、ちょっと俺あの娘と話してみるな。」
不意をつく様な発現だった。
「え?」
一瞬、友人が何を言ったか理解出来なかった。
この友人は発言をそのままの通りに実行した。
”話してみる”という言葉の通り、喋る事を試みたのだ。
追いかけて来ている当人は日本刀なんて物騒なモノを持っているのに!
恐ろしいことに稀鷺は、僕の手を振りほどいて彼女の目の前に立ちはだかったのだ。
何をやっているのだろうか稀鷺は!
刀を持っている相手から逃げる事もせず、彼はただ無防備を晒していた。
そのまま走り去る訳にもいかず、僕は足を止めて稀鷺を急かす。
「な、なにやってるんだよ!逃げなきゃ……!」
「いやいや落ち着けって。お前、追いかけて来る女の子相手に逃げてるとかどこまでヘタレなんだ?フラグがあって余裕ぶっこいてるのは良いが、そんなことでは確実にチャンスを逃してしまうぞ?」
どう考えたってそういう状況じゃないだろうに……!
イラつくことすら出来なかった。
それだけ焦っていたのだ。
重ねて思うが、凪とはフラグとかじゃないとかそんな関係じゃ……。
「……巫山戯た会話はそこまでだ。頭の悪い会話は、聞いていて腹が立つ。」
稀鷺に構っていたら追いつかれてしまった。
刀の切っ先を僕に向けてくる。
刃は夕日の赤い光を浴びて尚、黒光りする程に冷たい銀色をしている。
背筋が冷えた。
実際に刀を見るのは初めてだったし、突きつけられたのも初めてだった。
僕は刃物恐怖症なのかもしれないな。
刀身を見ているだけで身体が痛くなって来る。
背筋の辺りがちくちくと痒くなる。
「抵抗なら精一杯してくれて構わない。だが、どの道私の手に架かってもらう。」
少女は相変わらず酷く冷たい目で僕を見て来る。
僕が君に何をしたって言うんだ!?
僕に刀を向ける事について特に何かを考えている様子は無さそうだった。
動機など無い。だったら、どうやったら彼女を止められる?
……なんとか時間を稼がなくては。
凪からメールは返って来ていないが、僕を探してくれている最中なんだと信じて。
彼女がこの場に来れば、とりあえず逃げ切れる。
……絶対とは言わないが、僕は彼女を信じている!
「と、とりあえずいいかな?僕に発言権をくれると嬉し……。」
交渉のためにはまず会話……。
そう思ったので、話しかけたのだが。
その瞬間、彼女は手に持った刀を大きく振り抜いた。
刃が夕日の光を反射しながら空を切って、風を裂く。
空を切る際に音が聞こえた。
すくみ上がって僕は黙った。
やっぱり話しの通用する相手じゃない。
逃げるコトは出来ない。
どう考えても目の前の少女の方が足が速いのだ。
今背中を向けて全力疾走したところで追いつかれて後ろからバッサリ斬られる。
逃げるのが無理で、喋って時間を稼げないなら……。
……意を決した。
ここで戦うしか無い。
殆ど自棄糞に近い覚悟を決め、僕は身構えようとした。
------、瞬間に彼女が口を開いた。
「いいだろう。話せ。」
黒髪の少女は一言、いや二言か。
それだけ言葉を発して、刀の切っ先を僕から外した。
……い、いいんだ?
刀を振るその仕草はてっきりダメって否定するものかと……。
行動と言葉のチグハグさに面食らったが、一呼吸息を整えてとりあえず会話することにした。
……落ち着け。
相手は日本人だ。
言葉は通用するはず……。
そしてせっかく訪れた機会だ。
目前の”敵”に気になる事を聞け。
「じ、じゃあ。まず1つ、質問だけど。何で僕を狙うのさ……?」
根本的に気になることだ。
おかしいと感じる。
今日初めて会った女の子が刀を持って僕を殺しにかかるなんて”普通”じゃない。
仮に動機など無く、単なる殺人衝動での行動だったなら僕以外を狙ってもらいたい。
……モチロン”僕以外の~”は言葉のあやだ。
誰も狙われないのが一番。
でもなんで僕でないとダメなんだ?
疑問というより、自分の不運さに納得いかないだけだ。
「言われたからな。あたしはただそれに従っているだけだ。お前に恨みは無い。しかし、お前を追いつめるのがあたしの目的だ。」
「だ、誰に言われたのさ……?」
彼女は首を振った。
「言っても良いと言われたのはここまでだ。悪いが、私には私なりの価値観と目的があるんだ。弱いものイジメは好きじゃないが、お前には潰れてもらう。」
言葉が続かない。
それで全てなのだ。
これ以上質問しようにも、咄嗟に思いつくことなんて無い。
目的があったならそれについて更に追求も出来た。
だが、彼女はただ命令されてそれに従っているだけだと言った。
追求は出来ない。
彼女自身が何か目的を持っている訳では無いのだ。
場が沈黙する。
なにか言葉を続けないと時間が稼げない……!
「あ、ハイ! ハ~イ! 俺からも質問!」
突然能、場の空気とは不釣り合いな能天気な声が上げられた。
声の主は稀鷺だ。
右手の平を掲げ、さながら小学生が質問するときの様な無邪気な笑顔を浮かべている。
空気を読めないのか?
それとも読まないのか?
どちらにしろこの場の雰囲気からしたら不釣り合いな態度だ。
「……お前はダメだ。」
あしらう様に言葉を流した。
「じゃあ質問言うぞ! 『名前と学年とスリーサイズと好みのタイプを教えてください』御願いします! あ、学校は制服で分かったから言わなくてオーケーだ。」
彼女は発言をする事自体を否定した。
だが、稀鷺からしたらそれは大した問題では無いらしい。
僕と離している時もそう。
相手に『喋って良いか?』と聞くのは一種の”儀式”なのだ。
その答えがYesだろうがNOだろうが、彼は聞きたいことを聞く。
今回もそうだった。
「……死ねば良い。」
凄い……。
一言で彼女は一瞬にして”不機嫌”になった。
彼女は刀の柄を握り直した。
「き、キサギ……怒らせたらダメだって!」
「まぁ、そう言うなって!それがダメなら他の質問で……。」
今度は何を言うつもりだろうか。
時間を稼いでくれるのは有り難いが、怒らせるのは宜しく無い。
「質問その2。アンタ、ウェザードだろ?」
唐突なその質問に僕は首を傾げた。
ウェザード?
ちょっと待て? いくらなんでも突拍子も無いぞ?
「……何故、そう思う?」
不機嫌そうな顔のまま、彼女は逆に稀鷺に問いかけた。
稀鷺はと言えば得意げな顔をしていた。
当たっていたのだろうか?
何処で見抜いた?
「まあ、なんとなァく……。って言ったら納得してくれるのかな?」
なんとなく?
そういう割に稀鷺は自身ありげな態度で迫っていた。
本当になんとなく?
僕は納得出来なかった。
彼女も同じな様だ。
「『いいえ』だ。納得出来ない。まあ、どの道消えてもらうさ。もう答えは待たない。」
最後まで言い終わらないうちに、彼女は素早く刀を構えてまっすぐに突っ込んで来た。
いきなりの行動、完全に不意をつかれた!
「お前達が消えれば、何も気にしなくて済むからな……!」
彼女の動きには剣道で使われる様な構えや動作はない。
ただ走って近づいて来て、刀を振りおろす。
それだけの動作。
それだけでも実際にやられてみると非情に恐ろしいのだ。
刀には擦っても切り傷が出来る。
直撃すれば重傷。下手すれば……。
「葉矛、逃げろ!」
稀鷺が今更な事を言う。
「ぼ、僕は最初からそのつもりだったよ!!」
けれど、まわれ右するにはあまりに遅すぎた。
彼女は既に間近まで迫っていたのだ。
「はぁッ!!」
「うはぁぁ!?」
僕に向かって刀が振り下ろされる。
後ろに飛び退いてその一撃は避ける。
けど、この行動に”その後”など無かった。
次の一手を考えての行動など僕に出来るハズは無い。
全力でその一撃を避ける事に専念した。
その結果、盛大に転んでしまった。
「うあッ!」
「もう、一撃!」
刀が振り上げられる。
動けない。
完全に硬直を取られてしまった。
「秩、閃!!」
少女は、良くわからないかけ声を上げる。
そして刃は振り下ろされる。
刃が迫る。
その様子はスローモーションに見えて……。
「う、ああぁ……!」
「させるか!!」
僕と彼女の間に稀鷺が滑り込む様に割り込んで来た。
稀鷺は右手で刀を握る彼女の両手首を掴み、斬撃を止めた。
「なッ!?」
この驚きは黒髪の少女のものだ。
僕には驚いたりする余裕なんてない。
ただ地面を這ってでもその場を離れようと試みている最中だった。
稀鷺は彼女の腕を掴んだまま左手の拳で溝を殴り、弱ったところを見計らって”投げ飛ばす”。
凪や翼さんの受け流す様な投げとは違う、力に任せた背負い投げ。
相手を空中に放り出させる様な感じの投げを繰り出した。
黒髪の少女も負けていなかった。
地面に投げ出されながらも最小限に衝撃を留める様に受け身を取る。
「くッ!離せッ!」
稀鷺の手を振りほどき距離を取った。
稀鷺も素早く身を引き、互いに見合う。
一瞬の出来事だ。
近接同士の競り合いに、稀鷺は丸腰であるのにも関わらず勝った。
こんなに本格的な競り合いが目の前で繰り広げられるなんて!
あの少女の素性も気になるが、その前に稀鷺だ。
なんで稀鷺は戦えているんだ?
「き、キサギ?今の、なに?」
なんとか這いずっている様な状態から身体を起こす。
今困惑しているのは僕だ。
友人に問いただす。
「葉矛。俺、やっちまった……。」
ふるふると身を震わせながら、顔を青くする稀鷺。
「お、女の子を……なぐっちゃった……。」
その場にへたれこみ、わなわなと身を震えさせている。
確かにそれも問題かもしれないけれどさ!
それより今、凄い事しなかった?
『受け止めて』『殴って』『投げた』。
咄嗟に出来る事じゃない。
しかもその一瞬前、稀鷺は僕を庇ったのだ。
「まぁ、今回は仕方ないよな?葉矛、さっきのと、今からの事柄に関しては見なかった事にしておいてくれ。紳士である俺が、女子に暴力を振るったなど認めなくないし、あってはならないことなんだ。察しろ。」
そう言いながら友人は立ち上がり、構えを取って少女と向かい合った。
僕が実際にツッコミを発言するタイミングは無かった。
今のはなんだったのか。
稀鷺はそれとなく話題をそらし、僕の問いに答える気は無いらしい。
「……予想外だった。ミヤビギに対する介入において、お前みたいなのが割り込んで来るなんて、な。」
少女は吐き捨てる様に言った。
……僕1人だけだったらあっさり終わっている様な言い方だ。
まぁ、間違いではないのだけれど。
「俺は常にイレギュラーだからな。予想外の存在って表現は正しい。」
稀鷺の言葉が引っかかる。
さっきの唐突な発言といい……。
なんだか少し、違和感がある。
いつも学校とかで一緒に居る時には受けない印象を稀鷺から受ける。
雰囲気?空気?気迫?
何かがいつもと違う。
「この場に限って俺は女子でも殴ることを宣言しておこう。最低だというなら言っていれば良い。ホントは俺だってそんなことをしたくはないんだけどな。お前が俺と、俺の友人を狙うなら……。」
友人にたいして、僕は仄かなしかし確かな不信感を抱き始めた。
庇ってくれているのは分かっている。
そのこと以上に僕は稀鷺の”力”が気になった。
なんで、稀鷺がこうやって戦えてるんだろう?
彼は僕と同じ一般人のハズだ。
実は特に理由などなく単純に喧嘩が強かっただけか?
そんなことを考えている僕を他所に、事態は進行してゆく。
「さて、どうする?キミの刃は俺には届かないぜ?何度でも挑んでくればいいが、その度に俺は反撃する。言っておくがこれは正当防衛だからな。ケーサツにチクるなよ?」
「……少し図に乗り過ぎだ。馬鹿が。そちらの有利な間合いに行くと思っているのか?本当に、単純で石頭なヤツだ。」
……口の悪い人だなぁ。
何故だか無意識の内に、脳内で凪の口調と彼女の口調とを比べていた。
凪は多少話し方がナチュラルでない感じがするときがあるけれど基本的に言葉遣いは良いよね。
うん。多分『女子の』言葉使いが悪い訳じゃなくてあの人の口調に問題があるんだ。
危うく錯覚するところだった。
「確かに。一般人に比べたらずっとお前は強い。しかし、一度それが通用したからと言ってそれを過信してはいけないんだ。」
彼女は、おもむろに手の平を前にかざした。
……どっかで見たことのある光景。
僕は彼女に凪の姿を重ねていた。
まずい。
何がまずいのかは具体的にわからないけど、マズい!
これは”危ない”。
「キサギ!伏せて!」
咄嗟に僕は叫んだ。
……ケド、叫んだのが少し遅かった。




