物語の商人
おお、千の宝石よりも気高く、誰よりも善行積まれしイスラム教徒であらせられます太守様。
難儀していたところを救っていただき、さらにはこうして拝謁の栄をたまわるとは、至高の喜びでございます。慈悲深く慈悲あまねきアッラーへの感謝を表す舌も持ちません。
私はアクドゥラ・イブン・ワザリードと申します。
砂漠を行き来する商人です。しかし、キャラバンを持っているわけではございません。
私の扱う商品は豆よりも小さく、羽毛よりも軽いため、運ぶのにラクダの背は必要ないのです。
私の商品は『物語』です。
古今東西の物語を聞いては、それを頭の中に記憶しております。商品の軽さのおかげで、私は他のどの商人よりも遠くへ商売へ行くことができます。西はフランク人の岩多き地のはるか果て、アングルの霧の王国まで。東はキナイ人の沼多き地の果て、シパングの黄金の王国まで。
数多くの異教徒、異人種との出会いの中、私は物語を集めました。そのそれぞれが叡智の源として渦巻いております。
この退屈な夜が無為に過ぎていくのも惜しくございます。
お許しいただけますならば、私の商品のうちの、取って置きのものを太守様にお話しさせていただきましょう。
物語といって、軽く考えられますな。
この世は、アッラーが開闢たもうてから、最後の審判の日まで連綿と続く物語と見ることもできましょう。
また、全ての物語同様、私の物語も教えを望むものには教えとなりましょう。
それでは、お聞きください。
まず、お話しさせていただくのは、二人の商人と砂漠に降ったものをめぐる話です。




