第382話:試行錯誤 その1
カリンに色々と打ち明けて以降、俺は『魔王』の発生に向けて以前同様――いや、以前以上の熱意と決意をもって少しでも強くなれるようにと取り組んでいた。
強くなれるように、といっても俺にできることは剣術ぐらいである。だが、ここ最近になってようやく、『召喚器』との意思疎通が若干ながらできるようになった。
そのため『召喚器』を『掌握』できるよう、暇さえあれば『召喚器』を発現してコミュニケーションを取るようにしているのだが――。
「うーん……駄目だ。どうにも意思の疎通が難しいな……」
授業が終わった放課後。最早恒例となった第一訓練場での自主訓練をしていた俺は、右手に発現した本の『召喚器』を見ながらぼやくように呟く。すると俺の近くで素振りをしていた透輝が不思議そうに首を傾げた。
「でもミナト、剣の『召喚器』は『掌握』までできてるじゃんか。それと同じようにすればいいんじゃないか?」
「いや、こっちの『瞬伐悠剣』はなんというか、滅茶苦茶素直なんだよ。俺のことを認めたらすぐに力を貸してくれてさ」
『瞬伐悠剣』は元々他人の『召喚器』だというのに、ランドウ先生から贈られて一年と経たない内に『掌握』まで到達することができた。
多分、『瞬伐悠剣』自体素直な性格で、剣術を磨いていた俺との相性も良かったのだろう。
『活性』をすっ飛ばして『掌握』に至り、名前を教えてくれたが、今になって思うと『魔王の影』を騙るリリィ相手にぶっつけ本番で能力を解放したのは割と賭けだったな、なんて思う。
『瞬伐悠剣』の能力が身体能力の強化というシンプルなものだったからこそ俺でも扱えたが、特殊な能力だった場合扱いきれなかった可能性が高い。
「なあ、『召喚』できるようになって十年近く経つんだし、そろそろ名前を教えてくれないか?」
俺は淡い光を放つ『召喚器』に向かってそんな言葉を投げかけるが、返答はない。ただ、相変わらず呆れたような感情を返してくるだけだ。
(うーん……何の反応もないよりマシだけど、なんでこんな、呆れたような感じがするのか……実は既に名前を明かしていて、それに気付けない俺に呆れている? いや、『掌握』に至ったみんなの話を聞く限り、名前を教えてくれる時は必ずわかるみたいだしなぁ……)
わからん、と首を傾げる俺。色々と理由を考えてみるが、いまいちピンとくるものがない。
(なんだろう? 『召喚器』の見た目や機能から名前を推測しないといけないとか? 既にヒントは出ているぞ、みたいな……いや、そんな回りくどいことするか? 『瞬伐悠剣』はすぐに教えてくれた分、こっちは難しいな……)
なんで他人の『召喚器』の方があっさりと名前がわかって、自分の『召喚器』はずっと謎なんだろうか。『召喚器』は所持者の魂の具現なんて言われるけど、俺、そんなに捻くれた性格をしてるか?
(本……絵が表示される……絵日記だと三文字だし……そもそも外見や機能と名前がつながってない可能性も……『花コン』というか、ゲームのアルバム機能みたいな感じ……でも表示されてる絵は俺が何かしらの影響を与えた結果……か? うーん?)
アレコレと考えるが、『召喚器』が答えを示すことはない。そのため俺は参考になるかわからないが、他の『召喚器』について意識を向ける。
『花コン』だと『召喚器』の名前は四字熟語が元になっているが、それはこの世界でも同様だ。今のところその法則を破った『召喚器』は見たことがない。そうであるなら、俺の『召喚器』も四字熟語を元にしているはずである。
(前世だと四字熟語っていくつあったっけな……数千個? 明らかにこの世界で生きている人間の数より少ないけど、当てずっぽうで探すには多すぎる数だ。あと、同じ読み方でも漢字が違う、みたいなパターンで水増しされてそうだし……)
そうでないと同じ名前の『召喚器』が出現することもあり得てしまうだろう。で、そうなると勘頼りの当てずっぽうで『召喚器』の名前を見付けることなどできそうにない。
(疾風迅雷とか一撃必殺とか天下無双とかみたいに少年心をくすぐる四字熟語だったり……って、『纏火武槍』はいたわ。ネフライト男爵だったわ)
パエオニア王国でも一、二を争う武人だからこそ『纏火武槍』なんて名前の『召喚器』を発現したのだろう。あるいは逆に、そういう名前に見合う実力をつけた結果最強を争う武人に育ったのか。
(ふむ……そうなると、俺の環境に合った名前が選ばれている可能性がある……か? なんだろう? 転生? 刺殺? 貴族? 嫡男? いや、なんか違うな。四字熟語になるんだから……器用貧乏? いや、器用じゃねえわ。剣術ぐらいしかまともにできねえわ)
自分のことを四字熟語で表しなさい、なんて。国語のテストか何かでありそうだ。あるいは心理テストか。
「あー……駄目だ……なあ透輝、俺を四字熟語で表したらどんな言葉になると思う?」
「え? いきなり何の話? 心理テストか何かか?」
俺、国語って苦手なんだよな、なんて言いながら透輝が腕組みをする。そして頭を悩ませるように左右に揺れたかと思うと、ポン、と手を叩いた。
「剣術馬鹿?」
「……なるほど。君が俺をどんな目で見ているか、よくわかったよ」
そんな四字熟語は存在しないぞ。それを剣に込めて叩き込まなければ、なんて思いながら剣の柄を握ると、透輝は慌てた様子で両手を振る。
「待ってくれ! 今のなし! ちょっと本音が漏れただけだって! あとはほら! えーっと……が、頑固一徹? あれ? なんか違う……」
頑固一徹って……良い意味もあれば悪い意味もある四字熟語だった気がする。俺は念のため本の『召喚器』へ窺うような視線を向けるが、どうやら外れらしく何の反応もなかった。
「俺、頑固かなぁ……」
「いや、頑固というか、色々固いというか……あれ? それを頑固っていうんだっけ?」
どうやら透輝から見ると俺は頑固なところがあるらしい。そうなのか、と興味深く思うが、本の『召喚器』はお気に召さないらしく、相変わらず呆れたような感覚を向けてくるだけだ。
俺の一方的な想像になるが、『違うわボケ』と言わんばかりの呆れ模様である。実際にそんなことを言っているわけではなく、あくまでイメージだが。
(そこまで言うなら教えてくれよ……って、これはアレか? 自分で気付かないと駄目、みたいなパターンか?)
自分との対話というか、理解というか。そういう何かが必要なのだろうか、なんて思う。これまで幾度とあった危機的状況で『掌握』に至れなかったのは、やはり、自分で気付かないといけないことがあるということではないか。
(その点『瞬伐悠剣』はピンチ……まあリリィが『魔王の影』を騙ってたから本当はピンチじゃなかったんだけど、とにかく追い詰められた状況で『掌握』に至れた。そうなると『召喚器』によって覚醒に至る条件みたいなものがあるのかもな……)
たとえば、アレクの場合は自然と『三面碌秘』の『掌握』に至れたらしい。自然と『掌握』に至るってどういうことだよ、と思わないでもないが、相手はあのアレクだ。アレクらしいというべきだろう。
その結果得られた『三面碌秘』の能力は援護系の能力である。これはアレク本人と噛み合った能力と言えるだろう。
他にもジェイドの場合は鍛錬の末に『拳狼堅護』の『掌握』に至ったそうだ。その結果、素早さや防御力の上昇という能力を得られた。これもまた、本人の性格や能力に合っていると言えるだろう。
そして例外というか、疑問というか。本人は直接戦闘に向いていないはずのルチルが発現した『閃脚伴雷』。
『花コン』と違う能力になったのは現実だと実現できない能力だからか、あるいはルチルが惚れ込んだモモカの影響か。
(いや、ルチルの場合、『召喚器』を活かして行商人でもやれば儲かりそうだけど……)
ルチルの『閃脚伴雷』を使って移動すれば、馬よりも速く駆けることができるだろう。持久力がどの程度持つかは現状謎だが、長時間走り続けることができるなら移動手段としては中々に破格である。
(あとは……ナズナみたいに『花コン』と比べて『召喚器』自体が別物になるパターンか。ただ、『汝佐優守』は盾の『召喚器』の能力だと思えば正統派だ。パターンとしてはジェイド先輩と同じ、か)
当人の能力や性格に見合った『召喚器』と言えるだろう。ただ、ナズナの場合は俺を守るために『召喚器』を発現したため、自己鍛錬の末に『掌握』に至ったジェイドとは別だが。
(本人の性格や能力に合っているパターン、合ってないように思えるけど使い方次第ではどうとでもなりそうなパターン、そして他人のために変化したパターン……)
これらの分類わけに意味があるのかすら謎だが、何かの参考になるかもしれないと思考を巡らせる。
(俺が得意なのは剣術……それなのに『召喚器』は本……本の『召喚器』は大体魔法系か援護系……この二択なら身体能力を強化してくれているし、援護系か? ページが輝いた相手の『召喚器』に触れることができたし、他人の『召喚器』を借りる能力……いや、借りてもどうしようもないんだけどさ)
ここで躓いてしまう、と俺は頭を悩ませる。
己の『召喚器』が武器……特に剣のように俺が扱えるものならまだわかるが、本という形状なのが問題だった。
なにせ、発現して手に持つだけで片手が塞がるのである。片手でも剣を振れるよう鍛えているし、『一の払い』ぐらいなら片手でも使えるが、両手で剣を握った時と比べるとさすがに大きく劣る。
右手に剣、左手に本。そんな形で構えて見るが、何かが起こる様子もない。
「そうして見ると魔法剣士みたいだな」
そんな俺を見ていた透輝がそう言うが、普段から滅多に使わないため俺の魔法の腕は学園でも最低クラスだ。
(魔法……剣……魔法剣?)
もしかして、剣に魔法を纏わせるとか、剣から魔法を発射するとか、そういう能力だろうか。
そんなことを考えた俺は右手だけで剣を構え、魔力を乗せて振り下ろす。普段の『一の払い』と違うのは、本の『召喚器』を発現した状態だということだ。
「…………」
できたのは、魔法剣ではなく『一の払い』だった。普段通りに斬撃が飛ぶだけで、それ以外何も起こらない。
相変わらず『召喚器』からは呆れたような感情を向けられるが、俺としてはため息を吐きながら夜空を見上げることしかできなかった。




