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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第12章

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第308話:二年目の武闘祭 その3

 学園における二年目の武闘祭。


 その開会式が行われ、一年生の剣術部門から本戦が開始された。


 一年目と同じく試合の順番は一年生、二年生、三年生、学年不問の流れで進められ、準決勝以降は一年生の剣術部門から始まって学年不問条件不問部門で終わる形になる。


 それぞれの学年で剣術部門、魔法部門、剣魔部門、条件不問部門の順番で進むのだ。午前中の内に二回戦まで消化し、午後から準決勝が行われる段取りとなっているが――。


(俺の出番は特別試合だし、それまでは暇なんだよな……観戦するのもそれなりに楽しいけどさ)


 そんなことを思ってしまう。一年生部門でめぼしい生徒は見当たらず、コハクやモモカは学年不問条件不問部門に出場しているため出番が後だ。

 ただし学年不問条件不問部門は第一試合がコハクのため、俺は観客席の端に座り、コハクの出番を待つ。本当はカリンと一緒に見ようと思ったのだが、コハクの試合に関しては兄として一人でじっくりと見たかったのだ。


 そうして試合を眺め続け、コハクの番が回ってくる。運良くというべきか、透輝や『花コン』のメインキャラは全員くじがバラけており、ぶつかるとしても二回戦からになっていた。


 知り合い同士で一回戦から戦うのは透輝だけで、第八試合にバリーが対戦相手になっている。


「それでは学年不問! 条件不問! 一回戦第一試合! 一年貴族科のコハク=ラレーテ=サンデューク君対――」


 審判が大きな声でそう言った瞬間、観客席がざわつくように揺れる。


「サンデューク? サンデュークってミナト先輩の弟ってこと?」

「そっか、モモカさん以外にも入学してたっけ」

「同学年ってことは双子かぁ……知らなかったな」


 そんな声があちらこちらから上がり、にわかに騒がしくなる。


 自分で言うのもなんだが、学園内でトップクラスに知名度があるであろう俺、入学早々に三年生のジェイドを決闘で破ったモモカと比べ、コハクは知名度が低い。そのためこんな反応が巻き起こるのだろう。


(コハク……)


 俺は何も言わず、ただじっとコハクを見詰める。緊張した様子で真剣を構え、対戦相手と向き合うその姿を。


「――試合開始っ!」


 審判が開始の合図を告げ、コハクは対戦相手と剣を交わし始める。スギイシ流を学んだ俺とは異なり、サンデューク辺境伯家に仕える騎士や兵士が教える()()()()()()()の剣術だ。そこに魔法を織り交ぜて戦っている。


 相手は三年生の先輩だが、こちらもコハクと似たような戦闘スタイルである。剣と魔法の両方を上手く扱い、器用に戦っている。


「あの坊主も才能自体はお前よりもあるんだがな」

「……先生」


 いつの間に近付いてきたのか、隣の席にランドウ先生が座っていた。いや、本当にいつの間に隣に座ったんだ。気配がなかったぞ。いくらコハクの試合に集中していたとはいえ、こうも簡単に隣に座られるなんて。


 ただ、俺の様子から何か思うところがあると察してくれたのだろう。ランドウ先生は俺が気付かなかったことを咎めず、コハクへと視線を向ける。


「戦い方はレオンにそっくりだ。才能も似たようなもんだろ。()()()()()()()方だな」

「先生にそう言わせるなんて、兄としては誇らしいですね」


 俺なんて凡才だと断言されたからな。ただ、コハクの場合は――。


「才能はある。だが、強くはねえ。あの坊主にはお前みたいな執念がねえ。何がなんでも強くなろうって執念がな。よくいる貴族のお坊ちゃんだ」


 ランドウ先生がつまらないものを見たように言う。ランドウ先生曰く、俺は凡才だが凡人の枠を超えて一流の域に到達したそうだが、コハクはそうじゃないってことだろう。


「その点、モモカの方は才能といい努力といい執念といい、貴族の嬢ちゃんって立場がもったいないぐらいだ。あれで剣の才能があれば弟子にするのも吝かじゃあなかったんだが」

「……そういえば、それで今更ながらに思い出しましたよ。先生、モモカに体術を仕込みましたよね?」

「仕込んだってほどのものじゃねえ。レオンの奴に会いに行ったら顔を合わせてな。少しで良いから指導してほしいって頼まれたんだよ。お前の妹として恥ずかしくない強さが欲しい、なんて言ってな」


 丁度暇だったんだ、なんてことを真顔で言い放つランドウ先生。その結果、三年生の先輩であるジェイドを殴り飛ばすパワー系御嬢様が誕生した、と。


「目標に貴賤はねえ、と言いたいところだが、()()()()の目標であれだけ腕を磨けるんだ。モモカにとってお前の妹であるっていうのは相当大事なことなんだろうな。自分の『召喚器』の適性と合わせて、強くなりやすい方向できちんと自分を鍛えて強くなった」


 短期間であの成長ぶりだ、とどこか誇らしげにランドウ先生が笑う。どうやらモモカのことはかなり気に入っているらしい。まあ、たしかにモモカならたとえ腕を折られようが歯を食いしばり、そのまま殴りかかる根性がありそうだが。


(一人の戦士としては大したもんだと笑えるけど、兄貴としては複雑すぎる……)


 嫁の貰い手がなくなったらどうしよう? いや、ジェイドをはじめとして割と人気というか、派閥の中にもモモカを嫁にしたいって生徒がいるし、他所の派閥からも探りが入っているから心配しなくても良いのかもしれないけどさ。


(モモカならどんな相手でも幸せな家庭を築きそう……というか自力で相手を幸せにしそう……って、いかんいかん。思考がズレたな)


 思わずモモカの未来に関して思いを馳せてしまった。


「――そこまでっ! 勝者、コハク=ラレーテ=サンデューク君!」


 そうこうしている間に、コハクの試合が終わりを告げる。緊張こそしていたが、長年の訓練の痕が垣間見えるような剣捌きでコハクが押し切り勝利したのだ。


 コハクを見てみると、肩で息をしているが有効打を受けた形跡もなかった。一太刀も浴びず、実力通り順当に勝利したのだ。


(コハクだって『花コン』のメインキャラの一人だし、その成長力は高い。相手が先輩といってもこんなもんだろ。ただ、コハクの腕を見た感じ、一年生の剣術部門なら余裕で優勝する……と、思うんだが……)


 俺は第二試合に備えて姿を見せた人物を見て、小さく眉を寄せる。


 第二試合はカトレア先輩対三年の男子生徒だ。順当に戦えばカトレア先輩が勝ち、二回戦でコハクと戦うことになるだろう。


(剣と魔法の合わせ技……それだけだとカトレア先輩の方が上手うわてだ。しかも先輩の場合、『召喚器』も組み合わせてくる。その点、コハクは……)


 俺は『花コン』でのコハクに関する情報を思い出す。


 今しがたコハクは剣と魔法で戦ったが、『花コン』におけるコハクの戦い方は少々異なる。剣と魔法が使えるのは変わらないが、どちらかというと『召喚器』の使用に向いたキャラ性能をしていたのだ。


 コハクが使う『召喚器』は弓型で、その名も『逸射穿芯いちいせんしん』と言う。その能力は簡単に言えばホーミング機能がついた弓だ。多少矢が逸れようとも勝手に曲がり、目標に命中するという必中の弓である。


 コハクは他のキャラと違って二年目に入学してくるため、入学時点で『召喚器』の発現が可能なぐらい育った能力値になっている。そのため『花コン』を基準とするなら今の時点で『召喚器』は扱えるはずなんだが――。


(これから先の試合のために隠したのか、使えないのか、使()()()()()()のか……向いている武器があるのなら、それを使わないような教え方をした覚えはないが……)


 俺には凡才程度とはいえ剣しかなかったが、コハクはそうではない。剣に魔法に『召喚器』にと、選べる手段が多い。そのため俺が鍛える時も、その辺りは言い含めたつもりだったのだが。


(剣と魔法で戦うことにこだわりがある? いや、その二つならどちらかというと剣に比重を置いている感じがするが……)


 そんなことを考えつつ、俺は隣のランドウ先生をチラリと見る。ランドウ先生ならコハクの剣捌きを見ただけでその内心まで見抜いてそうだが、俺はそこまで人間離れしていない。かといってランドウ先生に詳細を尋ねるほど間抜けでもない。


(うーん……見た感じ、俺の影響か? 俺の真似というか、俺が剣術を磨き続けたから真似をしている感じが……)


 たしかに何度も手解きしたが、そんなところを真似なくてもいいんだが。いや、弟に真似したいって思われるのは嬉しいし光栄なんだが、そこは適性に合った戦い方をするべきだろう。


(自主訓練に顔を出した時も剣術を習いたがっていたが……思ったよりも影響が強いのかね?)


 距離を取って弓矢で射撃。それが通じなければ魔法。それでも駄目なら剣で近接戦闘。そんな感じで戦法を組み立てることができるのだから、試行錯誤して色々と試してみればいいのに。


「お前は優勝した奴と試合をするんだったな? 見ているから無様な試合はするんじゃねえぞ?」

「もちろんです、先生」


 おっと、考え事をしていたらデカい釘を刺されてしまった。考えるのは良いが、迷うなっていう助言だろう。


 俺の返事をどう思ったのか、ランドウ先生は満足そうに頷いて去っていく。まあ、ランドウ先生なら試合を見なくても結果を予想できるだろうしな。


(俺も一回戦の結果は予想できるけどさ……そこからがどうなるかねぇ)


 そんなことを考えながら、俺は目の前の試合を眺めていく。


 学年不問条件不問部門の第二試合はカトレア先輩が、第三試合はナズナが、第四試合はジェイド先輩が、第五試合はモモカが、第六試合はモリオンが、第七試合エリカが勝った。


 そして第八試合は透輝とバリーによる試合だったのだが――。


(……あれ? 透輝の奴、あんなに強かったっけ?)


 本戦に出場していることからもわかる通り、バリーも決して弱くない。弱くはないのだが、透輝の剣がこれまでにないほど研ぎ澄まされているのを感じる。明らかに昨日訓練をした時よりも強くなっているのだ。


「そこまでっ! 勝者! トウキ=テンカワ君!」


 結局そのまま、光属性の魔法を使わずに剣術だけでバリーを倒してしまった。それを見た俺は思わず唸るようにして口元に手を当てる。


(開会式の時は抜けた感じだったのに、いざ試合が始まるとアレだ……どうやら期待できそうだな)


 二回戦の相手はエリカ、三回戦の相手はモモカかモリオンのどちらかになるが、今の透輝ならあるいは、と思わせてくれるだけの鋭さがあった。


(見ているだけって、案外きついなぁ……)


 お預けでもされているような気分だ。そのため俺は、少しでも気晴らしになるようにとカリンを探すべく席から立ち上がるのだった。

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