第303話:原作サブイベント その1
『朽ちた玄帝のダンジョン』を破壊し、残ったモンスターの排除の手伝いや勲章の授与も終わり。十日と少しぶりに学園という日常に返ってくることができた。もっと長い期間戦っていたような気がするが、それは気のせいだろう。
登校の準備をしたら普段通り――と個人的には言いたくない、大名行列を形成して教室に向かう。だが、これまでとの違いに気付いた俺は眉を寄せた。
「なあ、バリー。なんか人が増えている気がするんだが……」
俺はバリーに尋ねる。
モリオンやナズナは『朽ちた玄帝のダンジョン』の攻略に参加していたため、居残った者の中でも気安い部類のバリーに声をかけたのだが、バリーはどこか誇らしげに笑う。
「お喜びください。ミナト様やモリオン殿、ナズナ殿が成した偉業を聞き、東部派閥に加わりたいという者が増えたのです」
「……そうか」
喜ぶところだろうか……いや、俺達の功績が評価されたって点では喜ぶべきなんだろうけど、派閥を維持する立場の人間からすると人数が増えてもなぁ、なんて思う部分もあるわけで。
「ご安心ください、ミナト様。今回加わった者達の多くは他の派閥との伝手もなく、裏もない者達が多いです。それ以外の者もいますが……まあ、そちらは他所の派閥との窓口と思えば良いかと」
モリオンが補足するように言うが……君、俺と一緒に昨日帰ってきたよね? なんで派閥に加わったメンバーについてそんなに詳しいの? あ、前々から調べていた? そっかぁ……。
俺はモリオンの普段通りすぎる態度に毒気を抜かれ、大名行列を連れてぞろぞろと歩き出す。すると前方にいた生徒達が慌てた様子で道を開ける……と、ごめんね? こんな大勢で本当にごめんね?
なんてことを内心で思いつつも、表には出さない。こういうことをやってたら不満を抱かれそうだが、生徒の多くから向けられるのは驚きと称賛を足して割ったような、悪くない感情だ。
「六人で大規模ダンジョンに……」
「ほら、北の……」
「なんで休んでるのかと思ったらそんな……」
「国王陛下から直々に勲章が……」
こっちを見ながらヒソヒソと言葉を交わし合う生徒達。うん、微妙に聞こえてくるけど、北の大規模ダンジョンの破壊した件が広まっているらしい。勲章も授与されたし、そりゃあ噂にもなるよな。
(モリオンが率先して流した噂もありそうだけどな……)
俺は肩越しに視線を向け、どこか満足そうな顔で歩くモリオンを見る。
学園を離れている間、派閥の統制がどうなるか不安に思っていたが、縮小どころか拡大のための一手を打っていたらしい。さすがと言うしかないだろう。
(頭がそのへん、投げっぱなしだからな。任せておいて文句を言うのはお門違いか。それにしても視線がすごいわ……)
飛んでくる視線、視線、視線、あとヒソヒソ話。
北の大規模ダンジョンの攻略メンバーは俺、モリオン、ナズナが東部派閥で半数を占め、残りは透輝がアイリスを頭とする中央派閥、メリアとリリィはオレア教所属のため別枠扱いだ。
人数的に東部派閥に注目が集まるのも当然と言えるか。その影響もあり、バリー達もどこか誇らしげに胸を張っているのが見える。うちの派閥はすごいんだぞ、みたいな感じなのだろうか。
そうやって注目を浴びながら進み、教室へ到着する。大名行列も解散して一安心――と、思っていた俺だったが、何やら廊下が騒がしい。見れば廊下に人だかりができており、うちの教室を覗き込んで何やら騒いでいるのが見えた。
(滅茶苦茶注目されてるじゃないか……教室に入ってくる奴はいないけどさ……)
偉業を達成した俺達を一目見ようと思っているのか。モリオンは平然としているが、透輝やナズナは居心地が悪そうに身を縮こまらせているのが見える。
「ハァイ、人気者は辛いわねぇ」
そうやって注目を浴びていると、苦笑しながらアレクが話しかけてきた。
「やあ、アレク。今回ばかりはさすがに仕方がないと割り切るよ」
「大規模ダンジョンの破壊だものねぇ……これまでの王国の歴史の中でも成し得なかったことだもの。しかもそれが学生を含む六人の手で行われたとなると、さすがに注目も浴びるってものよね」
アレクの苦笑に対し、俺も苦笑を返す。というか、他に反応のしようがない。
「予想以上に上手くいったよ。運に恵まれた部分もあるがね」
「あら、運も実力の内と言うでしょう?」
ボスモンスターである玄武があれほどまでにスムーズに見つかるとは思わなかった。そう思いながら言うと、アレクは表情を引き締め、真剣な顔つきになる。
「あなたも、モリオン君も、ナズナちゃんも、透輝君も……みんなが無事に帰ってきてくれて嬉しいわ。もちろん、あなたに同行した残り二人もね」
そう言いつつ、アレクは声色に心配の色を浮かべる。どうやら俺が思った以上に心配し、そして無事に帰ってきたことを喜んでくれているらしい。
「ま、だからってわけじゃないけど、この騒ぎは仕方がないわ。甘んじて受け入れることね」
「ははは、君がそう言うのならそうするしかないんだろうな。それなら仕方ない、か」
アレクの言葉に苦笑を深め、頷きを返す。
こうして俺は、放課後になるまで動物園の動物にでもなったような気分を味わったのだった。
「あっ! おーい、ミナトくーん!」
そして放課後。ずっと見せ物のような気分を味わっていた俺だったが、廊下の方から何やら俺の名前を呼ぶ声があった。
なんぞや、と思って視線を向けると、そこには小さな体でぴょんぴょんと跳ね、存在をアピールするエリカの姿が見える。
周囲の生徒達はそんなエリカの行動にギョッとした視線を向けるが、当のエリカは気付いた様子もなく、俺が視線を向けたのを見てから教室に入ってきた。
「えっへへ……急にごめんね? ちょっといいかな?」
「ああ、別に構わないが……何か用かい?」
エリカがわざわざ貴族科に顔を出す理由が思いつかず、不思議に思いながら尋ねる。するとエリカは笑顔で大きく頷いた。
「うんっ! ちょっとね、付き合ってほしい場所があるの! ついてきてくれる?」
そう尋ねてくるエリカに邪気はない。不良漫画みたいに『ちょっとツラ貸せや』って校舎裏に連れて行かれるわけじゃないだろう。そう判断した俺は椅子から立ち上がり、エリカの先導に従って歩き出す。
ちなみにモリオン達が止める様子はなかった。他の相手ならともかく、相手が俺の友人のエリカだからだろう。気兼ねなく接することができて気が楽だって知ってるからだ。
あとは反応が気になる相手としてはカリンぐらいだが……なんか、『まあ、何かしら?』ぐらいの軽い反応だった。
そうやって教室から出るまでに各人の反応を見ていた俺だったが、先を歩くエリカが肩越しに振り返ってくる。
「みんな噂してるよ? 北のだいきぼダンジョン? っていうところ、壊してきたんだってね?」
「ああ、そのおかげで朝からご覧の有様だよ」
きっと、前世の動物園にいたパンダなんかも似たような気分だったんじゃないだろうか。今も周りから視線が飛んでくるぐらいだ。
「はえー……なんか、すごいこと……なんだよね? おうさまからひょーしょーを受けたって聞いたし」
廊下をズンズンと歩きつつ、俺に尋ねてくるエリカ。その口ぶりから判断する限り、きちんと理解していない気がする。
(まあ、これがエリカの良いところでもあるからな……)
権威をないがしろにしているわけではなく、単純に無知なだけだ。王都の生まれとはいえ平民で、興味がないことにはとことん反応が鈍い性格でもある。無知だから反応のしようがないというか……すごいと思ったらすごいと反応する子ではあるんだが。
「自分で言うのもなんだけど、それなりにすごいこと……かな? だからこそ勲章を授与されたんだし」
「あ、そっかぁ。そうだよねー」
裏がない、下手するとからかっているのかと怒られそうなエリカの反応。俺は性格を理解しているからこそ笑って流せるが、性格によっては怒りそうな反応だ。ただ、エリカは無意識の内にその辺りを判別している、なんて描写が『花コン』であったんだが。
「それで? 俺をどこに連れて行くんだ?」
「んー……もうちょっとだよ。あたしじゃなくてね、クラスの子がミナトくんに用があるんだって! あたしがミナトくんと本当にお友達なら呼んできてほしいって頼まれたの」
「……ふうん?」
僅かに違和感というか、きな臭いものを感じ取る。ただまあ、エリカの様子を見る限りだと気のせいかもしれないが。
そうやってエリカが案内したのは、人通りが少ない貴族科の校舎裏だった。エリカのクラスメートということは技術科の生徒だろうが、わざわざ貴族科の校舎裏まで来たのか。まあ、呼び出す相手を技術科まで来させるわけにはいかないか。
(校舎裏……決闘を申し込まれてもおかしくないシチュエーションだな)
前世だと校舎裏に連れて行かれるとか、バイオレンスな香りしかしない。今世でも似たような感じだろうが、俺をわざわざ校舎裏に呼び出して決闘を挑むかと言われると微妙なところだ。
(決闘じゃなくて囲んで不意打ち……なんて馬鹿な真似はしないか)
それをやったらこっちも本気で応戦する。決闘なら寸止めで済ませるところだが、囲んで襲ってくるなら斬って捨てるだけだ。もちろん斬らずに済ませる技量はあるつもりだが、舐められたら殺すを地でいくのが貴族という生き物である。
いくら技術科の生徒がほとんど平民だといっても、その辺りは知っているだろう。というか知らないと貴族の不興を買う可能性があるから、常識に近いか。
(……ん?)
そんなことを考えながら校舎裏に行くと、そこには見知らぬ女子生徒が一人いた。これまで見た覚えがない、茶色のセミロングの髪をした女子生徒である。いや、本当に誰だ?
(えぇ……学園ですれ違ったことぐらいはあるかもしれないけど……どちらさん? え? 俺が忘れてるだけじゃないよな? って……んん?)
女子生徒が誰かは本当にわからないが、記憶を刺激するものがあった。それは女子生徒に関連するものではなく、関連する何かが刺激される感覚である。
「ミナトくんを連れてきたよー!」
「ほ、本当にミナト様を……エリカちゃん、お友達って言ってたの嘘じゃなかったんだね……」
エリカを使って俺を呼び出したのはこの女子生徒らしい。もっとも、エリカが本当に俺を呼び出せるかは半信半疑だったようだが。
そうやって俺が観察していると、女子生徒が俺へと向き直る。そしてひどく緊張した様子で制服のポケットに手を突っ込んだかと思うと、何かを差し出しながら声を上げた。
「み、ミナト様! 好きですっ! こ、これ、読んでください!」
そう言って勢い良く頭を下げ、なにやら封筒を差し出してくる。白い便箋にハートマークのシールという、パッと見でどんな内容かわかる代物だ。
冗談の類ではないようで、女子生徒は顔を真っ赤にしている。
そんな女子生徒の様子を見て、俺は思い出した。
――あ、これ『花コン』だと主人公が起こすイベントだ。




