表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第10章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

267/345

第266話:『契約』 その4

「拳に魔法を乗せて使うとは……いやはや、俺には到底できない戦い方ですよ」


 剣を構え直し、苦笑しながら言う。決闘染みた戦いだが、本当の決闘ではない。そのため賞賛するように言葉を投げかけると、オリヴィアは薄く笑う。


「あなたも、わたしが予想したより数段強いわ。その年齢でその強さ……あなたが言う通り、才能はそこまで感じない。それでもその強さに至ったということは、それだけの修練を重ねてきたということ。大したものだわ」

「ははっ、オリヴィアさんにそう言われると照れますよ。あなたが積んできた修練には到底及びませんからね」


 なにせ年数が違うのだ。女性相手に言うのは戸惑われるし、下手したら殺されるかもしれないが、伊達に三百年以上生きていないと言えるだけの研鑽が見て取れる。


(そういう意味でいえば、オリヴィアさんも才能自体はそこまで高くない……か? 才能を努力で補うタイプだ。ただ、その努力が三百年を超えているってだけで……)


 今のところスギイシ流の技は使っていないが、仮に使ったとしてもオリヴィアの防御を抜けないだろう。全力で『閃刃』を叩き込んだら僅かに可能性があるかどうか、といったところか。


(地力で劣るとどうしようもないのが俺の弱点だ……一発逆転の手段がないからな。だが、今は違う……)


 俺は審判をしているメリアをチラリと見る。


「メリア」

「……?」


 俺が名前を呼ぶと不思議そうな顔をされた。いや、そこは俺の意図を汲んでくれると嬉しいなって。ほら、オリヴィアも俺の意図を察して動きを止めているし。


「『契約』を通して力を貸してくれ。なんかこう、そういうのがあるんだろ?」


 微妙な物言いになったのは、俺も詳しくはわかっていないからだ。それでも『契約』によって何かしらの力が得られている……と、思うからこその問いかけである。


「……使って、いいの?」


 そう言いつつ、オリヴィアへ視線を向けるメリア。そこに込められた疑問の感情に、俺とオリヴィアは僅かに沈黙して思考を巡らせる。


(わざわざ聞くってことは、今この場で使うとまずい? いや待て、『花コン』だとメリアと『契約』した主人公が使うのは……)


 そこまで考えた俺は、まさか、と思いながら尋ねる。


「それってまさか、溜め込んだ正の感情を消費するのか?」

「……ん」


 返ってきたのは肯定だった。そのため俺は躊躇してしまう。


(図書館に収蔵された『想書』が溜め込んでいる正の感情……それをメリア経由でこっちに流す、か? ぶっつけ本番は怖いから一度ぐらいは使っておきたいけど、回数制限があったら……)


 当然の話ではあるが、溜めたものは使えばなくなってしまう。これまでにオレア教が集めた『想書』の数から考えれば誤差程度かもしれないが、その誤差で『魔王』が『消滅』できなくなるかも、と考えると気軽に使うことはできない。

 かといって試しなし、ぶっつけ本番で『魔王』や『魔王の影』相手に使うのも怖い。初めて『閃刃』を使った時のように、長年研鑽してきたことの集大成として使うわけではないからだ。


「そう、ね……そうなると、数冊だけ『想書』を持った状態で、図書館から距離を取って使ってみるのが無難かしら?」


 オリヴィアは折衷案というか、大量にある『想書』からごく一部だけ持ち出して試してみることを提案してくる。だが、それはそれで試すには図書館から離れる必要があるわけで。


「やっぱり図書館から距離を取る必要があるんですね?」

「都合よく正の感情を適量だけ取り出す、というのが難しくてね……今は距離を隔てていても正の感情を送り込めるよう、色々と調整しているところなんだけど……」


 そうじゃないと『魔王』が発生した時に困るから、とオリヴィアは言う。たしかに、王都の近くまで攻め込まれないとメリアが全力で戦えないというのは厳しいだろう。


 それは王都に至るまでの領地が滅ぼされているということだし、可能ならどこだろうと全力で戦える方が良い。


「あれ? そうなると現状、『契約』した意味って……」

「……有事の際に、『契約』できるかどうかで揉めなくて済むわね」


 俺の疑問に対し、オリヴィアはそっと目を逸らしながら答える。つまり、意味がないってことでは?


「んーん。力、貸せる」


 普段と比べて流暢に喋るメリアだが、それを聞いた俺は首を傾げる。


「メリアの力? 『召喚器』を通して正の感情を使うのとは別にか?」

「……んっ」


 俺の言葉に応えるよう、ファイティングポーズを取るメリア。どうやら『契約』を通し、何かしらのことができるようだが――。


「……わたしの力、受け取って」

「っ!?」


 メリアが言うなり、俺は魔力に似た何かが流れ込んでくるのを感じ取った。そのため慌てて流れ込んできた力に意識を向け、制御を試みる。


(魔法? 魔力? これは……っと……じ、自分の力じゃないからか、扱いにくいっ!)


 捕まえようとすれば指と指の間からスルリと逃げ出すような、掴みにくさ。


 メリアの力と聞けば魔法を連想するが、俺は魔法の扱いが苦手だ。そのためか、精神的につながった『契約』を通して流れ込んでくる何かを上手く掌握することができない。


「こ、のっ……ええい! じゃじゃ馬めっ! というか制御できてもどうすりゃいいんだ!?」

「気合い」

「なるほど、気合いか!」


 メリアが真顔で断言したため、そんなもんかと納得する。


 たしかに魔法の扱いに関しては駄目駄目で、才能の欠片もない俺だが、魔力の扱い自体はそれなりに上手いと自負しているんだぞ。


(つまり、コイツを魔法じゃなくて魔力として扱えば……)


 スギイシ流の技は魔力を使う技もある。そのため体の中に流れ込んでくる力を誘導し、右手に握った剣へと集中させていく。


「っと……これは……」


 かなり漏出させてしまったが、それでも多少なり力を集中させることができた。


 その結果――剣がほのかな光を帯びている。


(この光は……メリアと『契約』した時の光?)


 もしかすると、光属性の魔力だろうか。メリアは光属性の魔法を扱うことができるが、そんなメリアから受け取った魔力もまた、光属性の性質を帯びているのかもしれない。


「ふむ……中々に興味深いわね……」


 一時的に構えを解いたオリヴィアが言葉通り興味深そうに呟く。力を集中させた『瞬伐悠剣』は蛍の光のように輝きを放っているが、力のロスが大きいからか、どこか弱々しい印象を覚えた。


「光属性の魔法……ではなく、あくまで魔力を集中させているだけ、か。メリアの力を使えるというのなら、光属性の魔法も使えると思うのだけど……できそう?」

「無理です……自分で言うのもなんだけど、そんな魔法の才能はないです……というか、これだけ集中させるだけでもかなりしんどい……」


 俺が慣れていないだけなのか、あるいはメリアの魔力がそれだけパワフルなのか。剣に集中させた光の魔力は少し気を抜くだけでも霧散しそうで、維持するだけでもかなりの集中力を要した。


(このまま『一の払い』を……あっ、無理、霧散するわコレ……)


 物は試しにと、普段通り『一の払い』で斬撃を飛ばそうとするがすぐに諦める。光の魔力を使った『一の払い』ができれば光属性の下級魔法、『光弾』の代わりになると思ったんだが。


(訓練して慣れればどうにかなる……か? メリアの魔力と自分の魔力が混在しているから、切り替えも難しいぞ……)


 普通に『一の払い』を使おうとしたが、今度はメリアの魔力が邪魔をして普段通りに魔力が操れない。


 『二の太刀』や『三の突き』は技術がベースにあるから普段通り使えそうだが、魔力の運用が必要となる『一の払い』、そんな『一の払い』の動きが組み込まれた『閃刃』は今のままでは使えそうになかった。


 つまり――。


(これ、慣れるまでは弱体化しないか? いや、慣れたから強くなるかっていうと、微妙なところなんだけど……)


 剣に光の魔力を乗せて戦うことができるとして、だ。それで身体能力が強化されるわけではないし、魔力の操作に普段以上の集中力を消耗してしまう。その消耗に見合った効果があるかというと、()()()ではないだろうか。


「光属性の魔力が使えるのなら、死霊系モンスターには効果が高そうね」

「俺もそう思います。でも、俺って元々死霊系モンスターが相手でも剣で斬れるんですよね……」


 死霊系モンスターは光属性が弱点のため、今の状態で斬ればかなりの効果を見込めるだろう。だが、元々『一の払い』で斬れた相手を斬れたとして、何の意味があるというのか。


 『一の払い』で使っていた魔力をメリアが肩代わりするかわりに、集中力と体力を大きく消耗するのなら意味がない気がする。


「光属性、か……バリスシアと戦った時、攻撃がほとんど通らなかったと言っていたわよね? おそらくだけど、()()なら『魔王』や『魔王の影』が相手でも通じるんじゃないかしら?」

「……なるほど、それがありましたか」


 俺は納得と共に頷く。たしかに死霊系モンスターだけでなく、『魔王』や『魔王の影』にとっても光属性は弱点になり得る。つまり、この光の魔力の扱いが上手くなれば、『魔王』や『魔王の影』が相手だろうと()()()()()ってわけだ。


(でも、それなら俺じゃなくて透輝と『契約』させた方が効果的なような……)


 光属性同士で力を合わせた方が強いんじゃないだろうか。そこに『契約』での強化バフを上乗せしたら、更に強いんじゃないだろうか。


(いや、『魔王』や『魔王の影』への対抗手段を持つ人間が増えるのは悪いことじゃない。でも、『魔王』や『魔王の影』が相手でも通じる()()()()()()力が手に入るのは喜ばしいけど、訓練しないと意味が薄い、か……)


 たとえば、今しがた戦っていたオリヴィアが相手なら何の意味もない力だ。俺の地力が強化されるわけでもないし、たとえ光属性の力を振るったとしても人間であるオリヴィアに効果はないだろう。精々、他の属性の魔法と同じ程度に効くぐらいか。


(……また『魔王の影』と遭遇した際、メリアが近くにいれば切り札になるかもしれない手札が増えた……そう思って良しとするか)


 そして一度切れば情報を持ち帰らせないためにも確実に仕留める必要がある切り札だ。『魔王の影』だけでなく『魔王』にも通じる力だとすれば、敵は全力で潰しにかかるはずである。


「ありがとうメリア。今は切ってくれていい……これからの練習次第ってわけだ」


 そう言ってメリアから送られる光の魔力を打ち切らせる。この場で、この状況で使っていても意味がないとわかっただけ収穫だと思えたからだ。


 そして、光の魔力の扱いに関してはこれから訓練していくとして、今はオリヴィアとの模擬戦を優先する。こんな機会、滅多にないからだ。


「メリアとの『契約』についての検証はこれから行っていくとして、今は……」

「時間さえあればいつでも相手をしてあげるわよ。でも、せっかくだし満足するまで相手をしてあげるわ」


 そんな言葉をオリヴィアと交わし合い、俺は再びオリヴィアとの戦いに没頭するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ