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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第10章

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第257話:賭け その1

 コハクやモモカと思う存分に戯れた休日が過ぎた、五月の上旬。


 例年の行事ではあるが、今年も『舞踏会』の時期がやってきた。


 だけどまあ、一年生の時は婚約者候補との関係のお披露目などもあったが、二年生になるとそれももうない。既に知れ渡っている以上、仰々しく考える必要はなかった。


 そのため『舞踏会』では普通に踊り……一年生の時みたいに最初にカリン、次にナズナ、次にエリカ、次にメリアと、『花コン』のメインキャラの多くと踊ることになったのは普通じゃないかもしれない……。


 今年はそこに勇気を出したと思しきスグリも加わり、五人と踊ることとなった。そしてその後、婚約者候補がいないクラスメートの女子生徒からも誘われ、『舞踏会』の最中は踊りっぱなしになってしまった。


 踊る際に気を遣う分、剣の訓練をするよりも疲れたが、立場上それを表には出せない。表面上は涼しい顔をして、笑顔すら浮かべて『舞踏会』を乗り切った。


 そして寮に帰ってきて、普段通りオリヴィアとの連絡用のタンスを開けたら中に手紙が入っており、思わず顔をしかめてしまう。


(なになに……こんなタイミングで呼び出しなんて、珍しいな)


 こういうイベントがある時はオリヴィアも呼び出しを控えていた節があるのに、今日はずいぶんと容赦がないことだ。あるいはそれだけ急ぎの用事があるのだろうか。ま、疲れたのは精神だけで体は元気だから行くけどね。


(さあて、上手いこと隠れていかないとな)


 俺は気配を消して移動を始めるが、今の学園にはランドウ先生がいる。いくらランドウ先生でも学園全体の気配を常に探るなんて人間離れした真似はしていないだろうが、近くを通ればさすがにバレるだろう。


 そのため気配を消しつつ、細心の注意を払って図書館へと向かう必要がある。


(これはこれで気配を消す訓練になるけどさ……下手な実戦より緊張するわ)


 俺とランドウ先生の間には大きな技量差があるが、完全に気配を消した状態なら数十メートルも離れていれば大丈夫なはずだ。


 ランドウ先生が利用している教員用の寮はそれなりに距離があるし、訓練場も遠い。だから大丈夫なはず……と自分に言い聞かせ、心臓をドクドクと鳴らしながら図書館へと向かう。


 そうして緊張しながら図書館までの道を踏破し、中へと足を踏み入れる。相変わらず暗いが、最早慣れたものとして暗闇の中を歩いていく。


「……来たわね」

「ええ」


 これまた珍しいことに、図書館の一番奥にある休憩スペースには既にオリヴィアがいた。もしも俺が呼び出しの手紙を確認し損ねたらどうするつもりだったんだろう……って、そんな真似をしたら俺の信用が落ちるだけか。


 オリヴィアはランプの明かりを頼りに、書類を読み進めているようだった。今日はメリアも近くにいないようで、久しぶりにオリヴィアと一対一での顔合わせとなる。


「忙しそうですね……御用件は?」


 とりあえず単刀直入に尋ねると、オリヴィアが一枚の紙を差し出してきた。そのため受け取って目を通すが――。


「最近、人目に付きにくい場所に発生したダンジョンが次々に破壊されているわ。ここ三ヶ月ほどのことよ。あなたの()()()()で何かわからないかしら?」

「…………」


 書類を読むフリをして思わず沈黙してしまったが、これは明らかにリリィのことだろう。


(どうする? リリィのことを話しても大丈夫か? リリィがいるからこそ二、三十年しか『魔王』を『封印』できないルートに進むんだ、なんて言われないか? それでリリィを排除する、なんて話になったら俺は……)


 リリィなら『召喚器』を使えば逃げ切れるとは思うが、これまでのような行動は取りにくくなるだろう。


「……いえ、私も知らない動きですね。しかしダンジョンを破壊して回っているということは味方なのでは?」


 少なくとも『魔王の影』の策略とは考えにくいでしょう、なんてとぼける。


 『花コン』ではあり得ない、ミナトとメリアの娘。本来の俺なら知らない動きというのは間違いないし、リリィが味方というのも本当だ。そのため嘘はついていないから誤魔化しやすいだろう。


「そう……まあいいわ。それで? あなたの要望通り学園に呼び寄せたけれど、ランドウ=スギイシなら『魔王』に勝てる可能性が本当にあるの?」


 そこまで重要ではなかったのか、話題が変わる。どちらかというとこちらの方が本命の話題だろうか。


「勝てる可能性がある、数少ない人間……とだけ。今のままでは条件が揃っていません。ですが、今の時点でも『魔王の影』単体には勝てますし、『魔王』が発生しても相当な戦力になると思っています」


 リリィにも確認したが、ランドウ先生関連のイベントが起こり得ないのは痛手だ。オウカ姫の『召喚器』を入手し、なおかつ()()()()と言葉を交わす必要があるのだが、それが叶えば今以上に化け物染みた強さになるんだが。


(ランドウ先生に対して失礼な物言いだけど、本当に化け物染みた強さとしか言えないんだよな……『花コン』ならともかく、現実だとどんな感じになるか……通常攻撃が全部『閃刃』みたいな?)


 なにせ複数回周回した『花コン』の主人公よりも強いのだ。さすがに何十周もすれば主人公の方が強くなるが、一周目の主人公と比べれば確実に強い。というか、ランドウ先生は強化されなくても一周目の主人公よりも遥かに強い。


「ふうん……それは以前、あなたがオレア教で管理している『召喚器』を確認していたことと関係あるのよね?」

「はい。あの時は私が使える『召喚器』を探していたのもありますが、ランドウ先生に必要となる短刀型……あー、キッカの国に刀って武器があるんですが、それの刃渡りが短いものを短刀と呼びまして。その短刀型の『召喚器』を探していました」


 これに関しては別に隠すことでもない、とオリヴィアに伝える。するとオリヴィアは顎に手を当てて目を細めた。


「短刀……大体想像がついたけど、そういう形状の『召喚器』は見たことがないわね。過去にオレア教で収集した『召喚器』の中でもなかったはずよ」

「そうですか……」


 やっぱり女性主人公でオウカ姫関連のイベントが起きないと出現しないのだろうか。その辺まで『花コン』に準拠しなくてもいいんだが。


「遠目に確認したけれど、たしかに彼は強者だわ。それなりに長生きしてきたわたしがほとんど見たことがないほどにね。真っ向から戦えばメリアでも勝てないと思うぐらい強いと思うわ」


 さすが、というべきか。直接戦ったところを見たわけではないのだろうが、ランドウ先生の強さを正確に理解しているらしい。


(『花コン』でも近接戦闘ならランドウ先生、遠距離からの魔法戦ならメリアに軍配が上がるって言われていたしな。現実のこの世界でも、その見立てで間違っていないだろうし)


 ランドウ先生は魔法を斬ることができるが、メリアは魔法で物量戦を仕掛けることが可能になる。さすがのランドウ先生も最上級魔法を連射されたら手が回らなくなるため、距離が空いた状態で戦うとメリアの方が有利になるのだ。


「そうでしょう? ランドウ先生やメリアといった強者をひとまとめにして、他の戦力で敵陣を突破。送り届けた強者で『魔王』という首を取る……それぐらいしか勝ち目がないと思い、呼んでもらいました」


 一応、ランドウ先生を呼び寄せた理由を説明しておく。何も考えずに呼んだわけじゃないんだよ、というアピールだ。


 ただ、戦力で劣る人類側が『魔王』に勝つにはそういった()()()()しかない、というのも事実なわけで。


 オリヴィアは納得したように、あるいは感心したように頷いている。


「そうね……わたしも同意見だわ。実際、初めて『魔王』が発生した時に『封印』の決定打になったのは少数の強者だった。もちろん、それを周りが支えたからこその戦果だったのだけど」


 そう言って、オリヴィアはごく自然な動作で椅子から立ち上がった。そして懐に手を入れたかと思うと、これまた自然な、滑らかな動作で何かを取り出す。


「ところで、コレを見てもらえるかしら?」

「なんですか……って……え?」


 そう言ってオリヴィアが向けてきたのは、()()()()()()初めて見る代物――黒光りする回転式拳銃リボルバーだった。


 この世界では火縄銃ぐらいなら作れる技術力があるし、珍しい部類だが銃の『召喚器』も存在する。そのためリボルバーが出てきたことに驚きこそあれど、叫んだりはしない。銃口を向けられていることに対し、疑問もあるが。


「ミナト=ラレーテ=サンデューク……わたしは今から一つ、賭けをするわ」

「……賭け、ですか」


 リボルバーの撃鉄を起こさず、オリヴィアがそんなことを言う。リボルバーを使った賭けってなんだ? ロシアンルーレットでもするのか、なんて思いながらオリヴィアの言葉を待つ。


()()()()()使()()()()は?」


 なんだその質問は、と思ったが、オリヴィアの表情は真剣だった。そのため俺は疑問を後回しにして思考を回す。


(拳銃を使う職業? 軍人……いや、リボルバーなら警察官……で、いいのか?)


 前世でも銃器に関してそこまで詳しいわけではない。精々映画やアニメ、漫画で見たぐらいだ。あとは現代の日本において、本物の拳銃を持っている職業の人を見たぐらいで――。


「……警察官」


 俺としては他に答えようがなく、そう答える。するとオリヴィアは小さく、僅かにだが口元に笑みを浮かべた。


「まあ、十中八九そうだとは思っていたのだけれど……やっぱりそうなのね」

()()()()ってことは……まさか、あなたも転生したんですか?」

「テン、セイ? 以前も言ってたわね。わたしは違うけど」

「違うの!?」


 この話の流れで!? と俺は驚愕する。


 以前、オリヴィアと初めて会った時に転生という言葉を使った記憶はあるが、詳しくは説明していなかった。そのため簡単に説明すると、オリヴィアは小さく苦笑し、その視線を滑らせて近くにある三体の石像へと向けた。


「なるほど……生まれ変わることをテンセイと言うのね。わたしは正真正銘この世界の生まれよ。テンセイ……転生。同じ言葉は聞いたことがあるけど、そういう意味だったのね……他所の世界から転生したのは、そこの三人」


 発音を確かめるように繰り返してから、石像を見るオリヴィア。


「三人とも転生って言葉は使ってなかったのよね。チキュウという世界からこちらの人間に生まれ変わったとは言っていたけど……転生って一部の人だけが使う言葉なのかしら?」

「あー……一応、宗教関係の言葉ではありますね。あとはサブカルチャー……たしかに一部の人だけが使う言葉かもしれません」


 俺は曖昧に言葉を濁す。転生あるいは輪廻転生という言葉が一般的かどうか、今となっては自信を持って断言することはできなかった。


「ところで、賭けっていうのは?」


 大体の事情を察しつつも、一応は尋ねる。するとオリヴィアはリボルバーを懐に戻しつつ、薄く微笑んだ。


「九割九分大丈夫だと思ったけれど、残りの一分、あなたが『魔王の影』だと疑っていたの。『召喚器』を発現できるから大丈夫……なんて、それを()()()()()()()()こちらが確認する手段がないもの。あなたに限っては最悪を想定していたから……これで、安心できる」


 どうやら今の今まで俺が『魔王の影』だという可能性を疑っていたらしい。いや、疑い過ぎでは? なんて思ったが、オレア教の教主という立場ならこれぐらい用心深いのも当然なのかもしれない。


 なにせ、オリヴィアは()()()()()()()だ。オリヴィアが死ねば人類側の負けが決定しかねない――の、だが。


(これが最終チェックだったとして、『あなたの疑いが晴れました』なんて本人に伝える意味はなんだ? 俺が不快に思ったり、逆にオリヴィアを疑ったりすることにもつながりかねないが……)


 それらの感情を問題なく、すぐに飲み込めるという判断だろうか。それならたしかに、怒るよりも納得の方が優先されているが。


「色々と……そう、色々と話したいことがあるの。ついてきてちょうだい」


 そう言って図書館の奥、オレア教にとって機密が詰まった場所へと歩き出すオリヴィア。


(なんだ? 何か雰囲気が……ええい、ここで帰るわけにもいかないか)


 俺は一度だけため息を吐くと、オリヴィアの背中を追うのだった。

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