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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第10章

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第253話:モモカインパクト その2

 モモカが繰り出した人形ぬいぐるみ達は全部で四体。


 それぞれがドスドスと足音を立てながら動き回り、桃色の人形以外がジェイドの元へと殺到する。


 人形は拳――いや、拳でいいのだろうか? 人形らしいデフォルメされた手を握り締め、ジェイド目掛けて殴りかかるが――。


「おせぇっ!」


 並の生徒なら人間より若干大きいぬいぐるみが襲い掛かってくる光景に尻込みしそうだが、ジェイドは『花コン』のメインヒーローの一人だ。


 襲い掛かってくる人形の拳を掻い潜り、がら空きになった腹部に拳を叩きつけて人形の体を()()()に曲げる。


 だが――。


「ぬいぐるみ相手に打撃が通じるとでも?」

「っ!?」


 折れ曲がった人形が打撃に構わず動き、ジェイドを拘束しようと腕を絡める。しかし寸でのところで反応したジェイドは人形の腕から抜け出し、冷静に距離を取って拳を構え直した。ただし、その額には一筋の冷や汗が浮かんでいる。


(ふむ……あの大きさに見合った重さ、物量があるのか……俺が相手なら斬って終わりだけど、ジェイド先輩は打撃主体だ。突破は容易じゃないな)


 俺は次から次へとジェイド目掛けて殴りかかる人形を見ながら、そんなことを思う。


 踏み込む際の音、ちょっとした動きの際に生じる音から判断する限り、密集した布地の塊みたいなものだ。自分の攻撃は打撃として作用するものの、逆に相手の打撃は通じないと見るべきか。人形だから痛覚もないだろうし、斬ってもある程度までは普通に動きそうだ。

 しかも、ぬいぐるみ同士が連携してジェイドを攻め立てている。更にぬいぐるみを見ていて気付いたのだが、それぞれのぬいぐるみは画一的な動きをしていない。個性というか、身体能力ステータスがそれぞれ異なるように見えた。


(力が強いのと、動きが速いのと、その中間……それとモモカの傍にいるぬいぐるみは防御特化か? 武器や防具を持たせると更に化けそうな『召喚器』だな)


 手の周りや肘、膝の付近を補強されている理由がよくわかった。こうして戦いに使用するための補強なのだろう。お兄ちゃん、普通に飾るか人形遊びでもしてほしかったよ……ある意味人形遊びか、コレ。


「力のウーちゃん! 速さのイーちゃん! 盾のテンちゃん! それにバランスタイプのペンくん! この四人を突破できるものなら突破してみなさい! ですわっ!」


 ジェイドを攻め立てながらモモカが高らかに叫ぶ。どうやら俺の見立て通りの能力で間違いないようだ。


(物理特化の『召喚器』……いや、操る対象次第では変化しそうだな。そもそも操る能力かは不明だけど、見た感じだとモモカとつながっている糸が本体しょうかんきか。まさか俺の王都土産を武器にするなんてなぁ……)


 ぬいぐるみを武器にするなんて、見た目的にまだ貴族の令嬢っぽくてセーフだろうか。いや、何がセーフなのかと聞かれると困るんだけどさ。直接斬ったり殴ったりするわけじゃないし、これなら()()()かな?


 そうやって俺がモモカの将来に関して心配している間にも、決闘は続く。


 モモカが操る人形は一体一体がそれなりに強いが、ジェイドと比べれば劣る。しかしそれを三体という前衛の数で補っており、三対一ならやや有利、といった形で決闘が推移していた。


「ハハッ、舐めてたぜ! こいつぁ驚きだ! さすがはサンデュークの妹だって褒めてやるよ! 強いじゃねえか!」

「ふふん、当然よ! あ……ですわっ!」


 糸を操っているのか、人形自体を操っているのか、両手を動かしながらモモカが胸を張る。しかし決闘でテンションが上がっているからか、時折言葉遣いが危ないな。


 あのですわ口調、モモカが小さい時に俺が教えちゃったんだけど、ギリギリ御嬢様言葉っぽい感じでカモフラージュしてくれている……本当にギリギリだけど。


 赤い人形が豪腕を振るい、黄色い人形がその隙を埋めるように速度を活かして駆け回り、黒色の人形は他の人形をサポートしつつ己も拳を振るう。


 それに対するジェイドはボクシングのように拳を構え、それでいて軽くステップを踏んで人形が繰り出す拳を次から次へと回避し、隙を見ては拳を叩き込んでいく。


 モモカとジェイド、両者の近接戦闘における技量差が反映されているのか、あるいは人形を操っている分、モモカの反応が遅いのか。最初は数の優位を保っていた人形達が被弾する回数が増えていく。


 逆にジェイドは人形達の攻撃がほぼ当たらず、当たる時も手甲の『召喚器』でしっかりと防御し、痛手にはなっていない。


 打撃が通じないという点では相性が悪いが、攻撃が当たらないのでは相性の悪さも関係ない。いくら痛みを感じないといっても、殴り続ければ人形の耐久力を超えて破壊することもできるだろう。


(……ジェイド先輩の腕が今、磨かれていっているな)


 拳闘のように拳だけで戦うジェイドだが、我流の動きから少しずつ無駄が削られていくのが目に見える。


 元々俺と決闘をしたように、相手が武器を持っていようと手甲と拳だけで戦ってきたのがジェイドだ。モモカが操る三体の人形達との攻防はジェイドにとって腕を磨くのに丁度良いのだろう。傍目から見ていて、動きが良くなっていくのが明確に感じ取れる。


「ハハハッ! 良い調子だぜっと!」


 ジェイドが大きく踏み込み、勢いが乗った拳を赤い人形へと叩き込む。それによって再びくの字に人形の体が折れ曲がったが、先ほどと違って今度は人形の両足が地面から浮き上がるほどの威力だった。

 そのためジェイドを拘束することができず、殴り飛ばされた人形は大きく弧を描いて宙を飛ぶ。


 それによって一時的に二対一になったジェイドは数秒とかけず、黄色い人形を捉えて殴り倒した。


 残りが一体になると、他の二体が立ち上がってくる前にと言わんばかりに猛攻を仕掛け、人形を叩き伏せる。


「こいつで終わりだぁっ!」


 三体の人形を倒したジェイドは、そのままモモカへと向かって駆け出した。ジェイドとモモカの間を()()()()()()()()()――それに気付いた俺は、ジェイドの勝利で締めようかと思っていた決闘をそのまま継続させる。


 ジェイドが大きく踏み込みつつ、握っていた拳を緩めるのが見えた。おそらくは寸止めして決着という形に持ち込むつもりなのだろう。審判としてもわかりやすい決着の仕方だと思う。


「――――」


 だが、モモカもまた、前へと踏み込んでいた。それに気付いたジェイドが目を見開いたが、大きく踏み込んでしまったことから制動が利かない。モモカを殴らないよう注意しつつ、中途半端に拳を繰り出す形になった――が。


「甘いですわっ!」


 繰り出された拳を、モモカが的確にさばく。手甲という頑丈な『召喚器』で保護された拳に対して突き出した左手を添え、ジェイドが繰り出す拳の勢いを受け流すように()()()誘導。そうすることで胴体をがら空きにしたかと思うと、ズドン、と地面が凹む勢いで踏み込む。


「どっせええええええいっ!」


 ――そして、盛大な掛け声と共にジェイドを殴った。


 それは、実に気合が入った声だった。


 それは、実に腰が入った拳だった。


 強く踏み込み、体重を移動しつつ腰から上を回転させて勢いを加速させ、杭でも撃ち出すように轟音を立ててジェイドの腹部へ拳を叩きつけた。


「……ですわっ!」


 ジェイドの体が浮き上がり、後方へ吹き飛ぶ。それを見たモモカは追撃するよりも先に慌てた様子で言葉を付け足した。そして怒られることを怖がる子どものように、チラッ、と俺を見てくる。

 しかしこれは決闘だ。俺が何も言わずにいると、モモカは満面の笑みを浮かべながら拳を構え直す。その拳には、いつの間にか桃色の布地が巻き付いて手甲のようになっているが――。


(ういてんぺん……『兎衣纏変』、か。なるほど、操るだけじゃなく、纏うこともできるのか。あるいはそっちが本命で、操る能力はおまけみたいなもんか?)


 三体の人形が戦ってい最中、いつの間にか桃色の人形が消えていると思ったが身に着けていたらしい。そして自らの拳でジェイドを迎撃したわけだが。


「自分が操る人形よりも弱い人形遣いがいるとお思いで? 見ただけでわかる、その曲がった根性と小さな器! 叩いて……いえ、ぶん殴って砕いて綺麗につなぎ合わせて差し上げますわっ!」


 拳を構えた状態で吠えるようにモモカが叫ぶ。ここからが本番だと言わんばかりに、盛大に声を上げる。


「…………」


 だが、ジェイドからの反応はなかった。防御する暇もなくカウンターをもらった形になるが、どうやら当たりどころが悪かった……いや、良かったらしい。


 ジェイドが立ち上がる気配がないため、俺は右手を上げてモモカが立つ方へと振り下ろす。


「そこまで! 勝者! モモカ=ラレーテ=サンデューク!」

「えっ? やったー! 勝ったー! ですわっ!」


 拳を握り締めて突き上げながら喜ぶモモカ。それはなんとも無邪気な反応だったが、俺は胃のあたりがギシリと軋む音を立てたのを感じ取る。


(決闘とはいえ、男の三年生を殴り飛ばすとは……モモカの結婚相手、見つからないかも……)


 モモカの将来を思うと胃が痛い。それでもなんとか表情を取り繕うと、俺は両手を上げて喜ぶモモカのもとへと歩み寄る。


「なあ……モモカ。なんでジェイド先輩に決闘を挑んだ? たしかに挑発といえば挑発だったけど、俺は気にしてなかったし、わざわざ決闘を挑む必要はなかっただろ?」


 決闘が終わったからこそ、尋ねることができる。疑問を込めた俺の問いかけに対し、無邪気に喜んでいたモモカは表情を真剣なものへと変えた。


()()()()()()


 そして返ってきたのは、その意図がすぐには読み取れないものである。俺が内心で首を傾げていると、モモカは言う。


「あんなに敵対的なのに、お兄様は放置していたのでしょう? それならそこには何か意味がある……そう考えた時、お兄様ではなくわたしが対処した方がいいんじゃないかって。そっちの方があの先輩にとって()()()()()()()()んじゃないかって思ったの」

「それは……」


 たしかに、ジェイドも驚いたことだろう。俺も驚いて顎が外れるかと思ったぐらいだ。『召喚器』の能力とモモカ自身の体術によってもたらされた衝撃だったが、ジェイドにとっては年下の少女に負けたということに他ならないわけで。


 俺に負けた時よりもさぞ、()()ことだろう。


(俺を思ってのこと……ではあるんだが……)


 兄として嬉しいは嬉しい。だが、もう少しやり方を考えてほしかった、なんて思うのは贅沢だろうか。


(『花コン』のメインキャラとして重要視しているのを見抜かれた? 俺と先輩のちょっとした会話だけで? いや、モモカのことだからその辺りも全部勘かもしれないが……)


 うーん……この破天荒ぶり、一体誰に似たんだ……サンデューク辺境伯家の突然変異と言われても否定できないぞ。


「っ……俺、は……ッ!?」


 そうして俺がモモカと言葉を交わしていると、ジェイドが気絶から目覚めたのか声を上げる。


 ジェイドは地面から体を起こし、モモカが立ち、自分が倒れていたことを確認すると、呆然とした様子で目を瞬かせた。


「わたしの勝ち……ですわ」

「ああ……そう……みたい、だな」


 信じられない、と言わんばかりの様子でジェイドが呟く。実際に、終盤まで優勢だったのはジェイドの方だ。

 最後の最後で詰めを誤ったというか、モモカが予想外の手札を伏せていたのが敗因だろう。


 俺もまさか、モモカがジェイドの拳を捌けるほどに体術に長けているとは思わず……あ、いや、そういえば子どもの頃、ランドウ先生から体術の才能があるって言われたっけ。あれから腕を磨いていたんだろうか。それとも俺が学園に通っている一年間でここまで磨いた? 父さん、なんで止めなかったの?


 俺がそうやって思考していると、モモカはジェイドへと歩み寄る。そして一メートルほど離れた場所で足を止めると、胸を張るようにして腰に手を当てた。


「意識ははっきりしてらして? 痛いところはないかしら?」

「あ、ああ……殴られた……殴られた? 腹の辺りが少し痛むぐらいで、あとは平気だが……」


 カウンターをもらった時点で意識が飛んでいたのか、ジェイドは自身の腹をさすりながら言う。すると、それを聞いたモモカが真剣な表情を浮かべた。


「気絶していたのなら、もう一度言いましょう。見ただけでわかる、その曲がった根性と小さな器! ぶん殴って砕いてやりましたわ!」

「っ……」


 ジェイドが大きく目を見開く。その指摘は『花コン』でジェイドの性格や背景を知る俺ならすぐに理解できたが、ジェイドと会ったばかりのモモカが見抜けるとは……父親であるネフライト男爵への複雑な、鬱屈とした感情を指して言っているのだろう。そう確信させる口振りだった。


 ジェイドの表情が苦痛に歪む。まさか年下の、それも出会ったばかりのモモカに見抜かれるとは思わなかったのだろう。心の傷を抉られたように表情を歪めた。


「だから――」


 そんなジェイドを見ながら、モモカはもう一歩、距離を詰める。


「立ち直って、自分を見つめ直したなら……もう一度、決闘をしましょう。今度は最初から全力で、手加減抜きで」


 そう言って微笑んで、モモカが右手を差し出す。まるでジェイドが()()()()()のを助けるように。


(モモカ……)


 モモカの姿に、俺は内心で静かにその名前を呼んだ。やり方は滅茶苦茶だし、貴族の令嬢らしからぬものだったが、ジェイドのことを思っての行動だというのはたしかなようだ。


 事実、ジェイドにもその行動が()()()()のだろう。ジェイドは一瞬、大きく目を見開いたかと思うと、顔を伏せる。


 そして数十秒経って顔を上げたかと思うと、モモカの手を取り、言った。


「――惚れた」

「は?」


 思わず、俺の口から声が出た。何を言った? 聞き間違えたのか? なんて考えが脳裏を飛び交う。


「こんなに俺のことを思ってくれたのは、アンタが……いや、貴女が初めてだ。俺と結婚を前提に付き合ってもらえないだろうか?」

「いや! ですわっ!」


 告白するジェイドと、即答で断るモモカ。


 その返答を聞いたジェイドはその場で崩れ落ちたが、それを助ける気など俺には湧かない。むしろ俺から決闘を挑んでやろうかと思ってしまう。


 ――こうして、モモカは三年生の先輩を決闘で倒し、その場で受けた告白も見事に粉砕した一年生として有名になったのだった。

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― 新着の感想 ―
モモカ、もうミナトより男前だろ……() ミナトの前では甘えたがりの妹だけど、実は見えない所ではシッカリと成長しているのを感じられた回でした……。 しかしジェイド、大会でも今回でも、女性相手だと踏んだ…
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