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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第10章

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第248話:新入生 その1

 冬の寒さも和らぎ、新しい年度と共に本格的な春がやってきた。


 キッカの国ならば桜の花が咲いてより春らしくなるのだろうけど、こちらの大陸では珍しい部類に入るため王立ペオノール学園では見ることができず、その代わりにというべきか、入学式が行われるということで新入生が学園へとやってくる。


 俺が入学する際は遠方から来たため知らなかったが、入学式よりも前に到着して寮で生活を始めている生徒も多少なりいるらしい。


 もちろん俺みたいに遠方の出身者は王都で宿泊して入学式に学園に来たり、王都在住で入学式ギリギリまで実家にいる、という者も多い。一日でも早く寮で生活したいと思う者は王都に泊まる金がないか、純粋に学園での生活に体を慣らしておこうと考える者ぐらいか。


 つまり、今年入学するコハクやモモカもギリギリでの到着になるため、会うのは入学式が終わってから――なんて考えていたのだが。


「お兄様っ! お久しぶりですわっ!」


 入学式よりも先にコハクやモモカに会えないかな、なんて思いながら学園の中央に敷かれた煉瓦造りの道を進む新入生を眺めていたら、モモカが新入生の波を掻き分け、飛びつくようにして抱き着いてきた。そのため俺はモモカを受け止めると、その衝撃を逃がすようにその場でクルリとターンする。


「おっとっと……久しぶりだな、モモカ。会えて嬉しいが、淑女としては赤点だぞ?」

「お兄様に会えた嬉しさで加点があるからセーフ! ですわ!」

「セーフかなぁ……」


 謎の理論で淑女失格を回避するモモカに俺は苦笑を浮かべてしまう。


 相変わらず明るく元気で大型犬みたいなモモカだが、最後に会ったのは俺が学園に向かう一年と少し前。その時と比べると身長が伸び、外見だけを見ればだいぶ女性らしく成長したように思える。うん、外見だけ、としか言えないのは良いのか悪いのか。


 色々な髪色の人間がいるこの世界でも珍しい、ピンク色の髪を背中辺りまで伸ばし、意思の強さが垣間見えるくりくりとした瞳で俺をじっと見つめてくるが、非常に嬉しそうだ。


 以前と比べて伸びた身長は百六十センチに若干届かない程度。顔立ちは美人系なのに元気溌剌すぎて無邪気な美人に見えるという、何とも言い難い育ち方をしている。

 幼少の頃と違ってだいぶ女性らしい体付きに成長しているものの、行動が昔のままでお兄ちゃん、すごく心配……い、いや、俺の前だからであって、普段は大丈夫……のはず……。


「モモカ、いきなり走り出して何を……っと、兄上?」


 そんなモモカを追いかけてきたのか、コハクも姿を見せた。そして俺の顔を見て目を見開き、続いて嬉しそうに破顔する。


「やあ、コハク。久しぶり。大きくなったなぁ」

「お久しぶりです、兄上。お会いしたかったです」


 そう言って心底嬉しそうな顔を見せてくれるコハクに、俺も同じような笑顔を返す。


 モモカよりも身長が伸びたのか、コハクは百七十センチに僅かに届かない程度の身長で俺を見上げてくる。


 俺と違って整える形で伸ばしてあるサラサラとした琥珀色の髪が揺れ、優しげな面貌はこれまた俺とは違う印象を周囲に与えるだろう。俺が強面の騎士か兵士だとすれば、コハクは優しげな王子様だ。その辺の生徒を捕まえて、この国の王子です、なんて名乗っても通じそうである。やったら犯罪になるけどさ。


 モモカも嬉しそうだが、コハクも嬉しそうに、慕うようにして話しかけてくれるためお兄ちゃん冥利に尽きるってもんである。赤ちゃんの頃からずっと面倒を見ていたから余計に可愛い。目に入れても痛くないってやつだ。


「こっちに来るまでの旅はどうだった? 何も問題は起きなかったか?」


 入学式が始まるまでもう少し時間があるため、離れていた間の時間を埋めるように話を振る。するとコハクは苦笑を浮かべ、肩を竦めた。


「平和な旅路でしたよ。去年の兄上の時は大変だったようですが……」

「あー、あれなぁ。襲われまくってビックリしたよ」


 そのせいで『野盗百人斬り』なんてあだ名がついたぐらいだしな。合計すれば百人以上の野盗と遭遇したものの、さすがに百人も斬ってないんだけど。


 護衛の騎士や兵士が同行していたけど、あの時が初陣っていう派閥の生徒もいたし、俺がナズナや少数の兵士と共に斬り込んで相手の陣形や思惑を乱し、混乱している間に近い場所にいる敵を片っ端から斬っていく、なんてことを四回繰り返す羽目になった。


 どうやらコハクとモモカは平穏無事な旅路だったらしく、兄としては喜ばしい限りだ。まあ、俺の時はリリィが『召喚器』を使って誘導していたっぽいから、それがなければ野盗と複数回遭遇するっていうのは滅多にないんだが。


 そうやって話をしていると、不意にモモカが頬を膨らませて俺との距離を詰め始める。何か不満なことを思い出した時のモモカの癖だ。


「そういえばお兄様っ! なんでわたし達の部屋は別々なのっ? 久しぶりにお兄様と一緒に過ごせると思ったのに!」

「あー、うん、それなぁ。モモカも良い歳だからなぁ」


 俺は誤魔化すように言って苦笑を浮かべる。どうやら寮の部屋割りに関して文句があるらしい。

 見ればコハクも少しばかり不満そうな様子。たしかに複数人一緒に生活できるぐらい広いし、俺と一緒の部屋が良かったのかな?


 お兄ちゃんとしては慕われていて滅茶苦茶嬉しいけど、さすがにそろそろそういうのは卒業する歳だろう。実家だと俺が風呂に入っているとモモカが突撃してくることがあったし……コハクは同性だから普通に一緒に風呂に入っていたけどさ。


 まあ、兄弟ということで一緒の部屋で生活するという選択肢もないではなかったのだが、俺の方が生活が不規則だし、場合によってはオリヴィアからの呼び出しで深夜に抜け出すし、自主訓練で時間問わず出入りするしで断っている。

 さすがに迷惑すぎるだろう。あと、コハクやモモカにもプライベートな空間と時間は必要だ。二人は良いとしても、情操教育上よろしくないだろうし。


 そんなわけで別々の部屋で生活することにした。あと、上級貴族寮は利用者がそこまで多くないため空き部屋が多く、入寮できるなら入寮してくれと学園側からも言われている。建物って人間が使わないと傷みやすくなるっていうし、不思議だわ。


「っと、いつまでも話していたいがそろそろ入学式が始まるな。二人とも、大ホールに行きなさい」


 不満そうなポーズを見せているモモカをあやしていたが、入学式が迫っていたため二人を送り出す。するとモモカは一転して笑顔になって俺に手を振り、コハクは一礼してから学術棟へと向かい始めた。


 それを見送った俺も後を追うようにして学術棟目指して歩き出す。二人と別れた理由は単純だ。二人と同学年と思しき東部派閥の生徒達が待っていたからである。一年生の中ではあの二人が派閥の頭になるだろうし、俺は近付きすぎない方が良いタイミングだった。


「あれがミナト様のご兄弟ですか」


 そうして二人が立ち去ると、様子を見ていたのかモリオンが近付いてくる。その隣にはナズナの姿もあったが、俺と二人の再会を邪魔すると思って控えていたのだろう。


「自慢の弟、妹さ。モリオンとも接する機会があるだろうし、その時はよろしく頼むな?」

「もちろんです。ただ……」

「ただ?」


 何かを言おうとして、コハクやモモカが立ち去った方向へ視線を向けるモリオン。そこに含むものを感じた俺が首を傾げると、モリオンは頭を振る。


「……いえ、なんでもありません」


 そう言って薄く微笑むモリオンに疑問を覚えたものの、モリオンが言わないということは大したことではないと判断し、学術棟へと足を向けるのだった。






 入学式は去年同様、国王陛下の挨拶だったり、コーラル学園長の挨拶だったり、生徒会長アイリスからの挨拶だったり、新入生代表の挨拶だったりと、定番とも言えるやり取りをしながら進んでいった。


 そしてなんと、新入生代表はコハクである。少しばかり緊張した様子で壇上に立ち、立派に挨拶するその姿は誇らしく、この世界にカメラがないことを心底悔やんだほどだ。スグリに頼んで錬金術で作ってもらえないだろうか? さすがに無理か。


 そのためコハクの雄姿を目に焼き付けるべくじっと見つめていた――のだが。


(……ん?)


 今年も司会進行を行っていた生徒会の副会長、カトレアを見たコハクが僅かに驚いたような顔をした。カトレアの方はそんなコハクの視線に気付いたのか、不思議そうな顔をしていたが……女性でカトレアぐらいの剣の使い手、手練れは珍しいし、それに気付いたんだろうか?


(コハクも()()()()()強くなっているみたいだしな……)


 俺と違ってランドウ先生に師事したわけではなく、辺境伯家の次男として教育、訓練を受けてきたコハクは正統派の剣を使う。


 サンデューク辺境伯家に仕える騎士や兵士が面倒を見て鍛え、俺と違って魔法の才能もあることから魔法剣士みたいな感じで鍛えてきた。俺も暇があれば面倒を見て剣の手解きをしてきたし、同年代では上位の実力があるだろう。

 だからこそ、カトレアの強さに気付いたのかもしれない。学園の生徒に限定すればカトレアより強い女性はほぼいない。防戦に徹したナズナが相手だと勝負がつかないし、さすがにメリアが相手では勝てないだろうが、それ以外の生徒なら勝てると断言できるだけの実力がある。


 コハクもそんなカトレアの強さに気付ける実力があって、なおかつ学業面でも優秀なのだろう。嫡男として教育を受けている生徒もいるはずだが、それを抑えて新入生の代表に選ばれたらしい。


(まあ、今の学園内での派閥のパワーバランスを考慮した部分もあるんだろうけどさ)


 去年は王家の姫君であるアイリスがいたが、今年はそういった()()()()()()()がいない。


 そのため派閥の力関係でトップの東部派閥から代表が選ばれた可能性もあった。もちろん、コハクの優秀さが前提にあっての話ではあるが。


(今年の新入生だと上級貴族の嫡男はほんの少ししかいないし、そっちを抑えるぐらいコハクも優秀だしな。いやぁ、さすがは我が弟)


 お兄ちゃん、誇らしいよ。そう思って俺がうんうん、と頷いていると、周囲から怪訝そうな視線が飛んでくる。ただの兄馬鹿だ、気にしないでくれ。


(しかし、ランドウ先生も職員の列に並んでいるし、これで『花コン』のメインキャラが全員揃ったことになる、か……)


 俺は今年入学したコハクとモモカ、そして新たに赴任したランドウ先生の顔を思い浮かべ、小さく拳を握り締める。


(不安はある……が、なんとかなる、()()()()()()さ)


 これから先の未来を想像した俺は、新入生達を眺めながら苦笑を零す。


 ――こうして、学園での二年目の生活が始まった。






 そしてその日の夜。


 寝る前に日課として『召喚器』を発現して確認すると、クラスメートと思しき生徒達に囲まれて話しかけられるコハクやモモカの姿がそれぞれ描かれ、七十八ページ目、七十九ページ目を埋めているのを確認し。


(……え? クラスメートっぽい子達に話しかけられただけで?)


 一体どんな会話が繰り広げられたのかと、疑問に思う俺だった。

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