92 亡霊がよみがえる
真相が解明されます!
大好評御礼ということで本日は2話投稿させていただきます!
18時前後に投稿いたしますので、なにとぞよろしくお願いいたします!
「柴 蘇朴があろうことか、後宮に侵入し、珀 如珂を孕ませたとでも? そんなことは無理だよ」
「可能です。後宮側からもなんらかの助けがあれば、ですが。そもそも、斉の後宮の衛が強化されたのは紫巾の乱があってからだ。九年前ならば、侵入はさほど難しくはなかったはずですよ。もっとも、いまは後宮を抜けだすものがいないよう、監視されている部分が強いですが」
ひとつひとつ、絡みあった真実が紐解かれていく。
「そうなれば、先帝陛下は弟をかばい、さらに哀れな珀 如珂のために御子を皇子として認知するはずです。陛下は公正を重んじていましたが、弱者には徹して寄りそう仁愛のある御方でしたから」
絳の言葉の端にはわずかだが、唾棄するような響きがあった。先帝の慈悲にあきれている、というべきだろうか。
「ですが、ここでひとつ、矛盾があるのですよ」
「後宮側から助けがあれば、といったね。つまり、如珂のほうから誘いかけた、もしくはふたりが組んでいた可能性があるということかな」
絳が肯定する。
「幼帝が産まれてすぐ、柴 蘇朴は暗殺されています。御子の秘密を洩らされないよう、先んじて息の根をとめたわけだ。続けて、もうひとつ。幼帝の養育係を務めていた命婦ですが、おぼえていますか」
「堀からあがった遺骨だね。確か、冉吟だったかな」
「左様です。冉命婦の死は事故だとはとても考えられない。帰る故郷がないことを嘆いての投身でないならば、殺されたと考えるのがもっとも理にかなっています。おそらく、命婦は幼帝の素姓を知ってしまったのではないでしょうか」
「酷い話だね。でも、ここまできたら、自害したというより陰謀に巻きこまれたというほうが納得できる」
宮廷とは底のない奈落だ。踏みこめば最後、落ちるだけ。
抜けだすことはできない。
「だとすれば」
怒涛のように明かされた事実をのみくだし、紫蓮はふせていた睫をあげる。
風に散らされ、落ちたはずの青火が草陰でほつほつと燃えだす。水鏡を想わせる紫の眼に映りこみ、星を鏤めたようになる。
「先帝を暗殺したのは珀 如珂――――だろうね」
青ざめた唇から洩れた声は低く、微かに震えを帯びていた。
だが、恐怖ではない。
「間違いないかと」
先帝が崩御すれば、珀 如珂の子が皇帝となり、幼い皇帝にかわって彼女が政権を掌握することができる。事実そうなった。現在、宮廷の頂に君臨しているのは珀如珂だ。さながら女帝のごとく。
紫蓮の愛する母親は先帝と同じ死にかたをした。妬ましかったとつぶやいた如珂の声がよみがえる。
「そうか、彼女が母様を」
紫の眼が、強い怨みで燃えあがる。
紫蓮はこれまで、いっさいを諦めてきた。誰を怨むべきかもわからず。諦めてしまったことを、哀しむことすらも諦めて。
紫蓮の横顔を覗きこんで、絳がふっと嗤った。
「ああ、いい眼ですね」
亡霊だ。
紫蓮のなかで死んでいた亡霊が、息を吹きかえす。
終われない、終われないのだ、と幼い声で啼きながら。
お読みいただき、ありがとうございます。
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