91 幼帝は誰の御子か
謎解きが続々と進んでいます
「幼帝は、先帝陛下の御子ではない」
紫蓮が息をのむ。
「紫の眼だけが根拠というわけじゃないだろうね?」
だとすれば、浅慮にもほどがある。
「無論です」
「でも、珀 如珂は先帝の寵愛を享けていたはずだよ」
声の端が、強張る。紫蓮はすでにそれを疑っている。紫蓮が想っていたとおり、絳は首を横に振った。
「いいえ、先帝陛下は珀 如珂を眼にかけたことなど、ありませんでしたよ。先帝陛下はたったひとりの妃妾だけを愛しておられた」
紫蓮は唇をかみ締め、またほどいて、震える声を落とす。
「先帝が、母様を愛していたというのは」
「事実ですよ。先帝陛下はずっと、あなたのお母様だけを愛しておいででした」
胸を掻きみだされる。紫蓮は幼い頃から、先帝は紫蓮の母親を疎んでいるものと思い続けてきた。なのに、なんで、いまさら――愛していただなんて。
「陛下は最期まで、皇后を迎えなかった。なぜか、わかりますか」
紫蓮は酷く視線を彷徨わせ、咄嗟に顔をふせる。
「いつか、身分による格差や職にたいする差別を取り払い、死化粧妃を皇后に迎えたいと考えておられたからです。宦官を昇進させ、私のようなものにも官職を与え、改革を進めようとしていたのはそのためでもあった。もちろん、公正なる制度を造るというのが彼の理想でもありましたが、秘めた愛がその果てなき夢を支えていた」
頭のなかで嵐が吹きすさぶ。怒りか、嘆きか。悔しさか。いずれともつかないやるせなさが、紫蓮を責めたてる。
「は、逢いにもこなかったくせに」
紫蓮は瞳をゆがめ、つぶやいた。
母親は知っていたのだろうか。皇后に、という約束があったかどうかではなく、愛されていたことを。だから、あんなに弾んだ眼をして先帝を想い続けることができたのか。
「そう、だからこそ、解せない」
紫蓮の思考を破り、絳は声を落とす。
「彼は妃妾の宮に渡り、政の交渉などをすることはあっても、枕をかわすことは一度たりともなかった」
「それこそ、嘘だよ。皇帝の御渡りもなく、珀 如珂が懐妊するはずがない。とざされた後宮はそのためにあるんだから」
いまでこそ後宮はひらかれているが、先帝の頃は後宮には男の物を排した宦官を除いて男はいっさい踏みこめなかった。
「事実がなければ、不貞があったとすぐにわかるはずだ。嫡子として認知されるはずがないよ」
「憶測ですが、御自身の御子ではないとわかっていながら、認知せざるを得ない理由があったのでは」
絳はここであらためて、柴 蘇朴の話をだした。
「柴 蘇朴は都の端に居を移したあとも、九年前までは武官として宮廷につかえていたとか。特例なので、実弟にたいする先帝陛下の厚意だったのだとおもいますが――ただ、この男、女遊びが酷かったとか」
紫蓮は眉根を寄せる。
「柴 蘇朴があろうことか、後宮に侵入し、珀 如珂を孕ませたとでも? そんなことは無理だよ」
お読みいただき、ありがとうございます。
如珂の陰謀があばかれていっています。お楽しみいただけているでしょうか?
日頃からご感想をくださる読者さまに心から御礼申しあげます。なかなか御返事ができていませんが、後日締切を越えたらかならず、おかえしさせていただきますので、今しばらくお待ちください。今後とも「後宮の死化粧妃」をよろしくお願いいたします。





