90 奇人官吏、後宮の闇を推理する
紫蓮視点です。
本題の推理に入ります。
離宮の庭には庭師がいない。
植木はあるが、枝振りは酷い有様で、敷石が埋もれるほどに草が繁っていた。だが風が吹くたびに夜来香が揺れる様は、物憂いながら風情がある。
あれだけ舞っていた蛍も減った。まもなく晩夏だ。
「柴 綜芳の暗殺を命じたのは皇太妃だったよ」
廊子に腰かけて名残りの蛍を眺めていた紫蓮が、背後の壁にもたれている絳に語りかけた。
「どうやって調べたのですか?」
「茶に誘われてね、直接会って、喋ったんだ。警告をされたよ。死よりも惨いことがあるってね」
「それは」
絳が視線を彷徨わせた。
「いまさら、なにを臆することがあるのかな。毒を喰らわばなんとやらだよ。つつがなく天命を全うするには僕は語りすぎ、きみは聴きすぎた。違うかな」
「ふ、違いないですね」
絳は微苦笑して、紫蓮の側に腰をおろす。
「私のほうですが、皇族の連続暗殺の発端がわかりました。柴 綜芳の父親である柴 蘇朴です。八年前の真冬に事故で薨去しています」
「皇帝陛下が産まれた年だね」
「さすが、あなたは勘がいい。仰るとおりです。柴 蘇朴は皇帝陛下が産まれた翌日に死んでいます。暗殺されたのでしょう。あとはなぜ、暗殺されたか、ですが」
「先帝が崩御したあと、実弟である柴蘇朴が継承権を握る可能性があったから、かな」
「それもあります。ですが、それだけではなかったと――ここからは推察になります」
夜陰が張りつめる。
「前提から話しましょうか。紫蓮は知っておられるとおもいますが、紫の眼は皇族の証です。天地神明を総括する祖神が斉の始皇帝にこの紫の眼を授けたとされています」
幼い頃の寝物語でも語られる古い伝承だ。
「天意による血統だから、皇帝になれなかったものが御子を儲けても正統な紫にはならないとか、まあ、いろいろといわれているね」
「眉唾物だとおもっていましたが、先帝の甥でありながら柴 綜芳の眼は赤紫で、あなたのような純正な紫ではなかった。もっとも幼帝の眼よりは紫だそうですが」
「そうだね、幼帝の眼はほぼ、紫ではなかったよ」
角度によっては滅紫ともいえるが、かぎりなく涅色にちかい。
「拝謁されたのですね。私は皇帝陛下がおられるときは最敬礼をしていたため、眼までは確認できなかったのですが、やはりそうですか」
風が吹きつけて、あたりに漂っていた青火が散り散りになった。あるものは落ち、あるものは舞いあがり、燃えつきる。
「私が考察するに」
乱舞する火のなかで、絳が続けた。
「幼帝は、先帝陛下の御子ではない」
お読みいただき、ありがとうございます。
ついにとんでもない事実が明らかになりました。続きは明日の晩に投稿させていただきます。
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