50 育ちがよくない
一話とばして投稿してしまっていました……
たいへん申し訳ございません、宜しければこちらもお読みいただければ幸いです
「できたよ、どうぞ」
「いただきます」
紫蓮は型から瓊脂をだして餡をたっぷりをかけてくれた。絳は遠慮がちに箸を取る。
瓊脂に餡がよく絡み、品のいい味わいだ。最後に豊かな胡麻の風味が残る。
「きみ、変わった箸の持ちかただね」
絳は箸を握っていた指を、咄嗟に袖で隠した。苦笑しようとして、できなかった。緊張した声が喉につかえる。
「ごまかして、いた、つもりだったのですが」
「人差し指をつかっていないよね。持ちにくくはないのかな」
「育ちが、あまりよくないもので。人と食事をするときは箸をつかうものは避けるようにしていたのですが……あなたは、綺麗に箸をつかいますね」
なんとか、いつもどおりに微笑することができた。
瓊脂冰のようにつかみにくいものを食べているときでも、紫蓮の箸づかいはみだれず、落ちついていた。ふたつの箸に指が吸いつくように寄りそい、動いている。
「このあたりは土葬だけど、火葬をする地域では箸で燃え残った骨をつまむんだよ。だから、そういうときにこまらないよう、母様から教わったのさ」
「あなたにとっては、万事が死につながっているということですか。ふふ、あなたらしいですね」
ここで、この話を終わらせることもできた。だが、絳は箸をおいて、紫蓮に尋ねる。
「みっともないでしょう? めったにばれないのですが、ときどき指摘されては親の躾がなっていなかったのだと責められました」
そして残念ながら、それは事実だ。
絳が物心ついたときから、家族が一緒にそろって食事を取るということはなかった。絳は姜家の二男として産まれ、教育は長男に、愛は産まれたばかりの三男四男にばかり与えられ、箸のつかいかたも敬語のつかいかたも親からは教えてもらえなかった。
五歳の時には祖父のもとに預けられ、日がな毒茸や毒蛇ばかりを喰っている寡黙な変人とふたりで暮らしていた。
祖父から教わったことはひとつだけだ。
「なおせないのです、どうしても」
身なり、振る舞いで軽侮されることがないように努力を重ねたが、箸の扱いだけは矯正できなかった。
産まれは変えられないのだと後ろ指をさされているかのように。
「いいんじゃないかな」
紫蓮の声は絳が毒気を抜かれるほどにあっさりとしていた。
「私は……それなりになやんでいたのですが」
「重く捉えすぎだよ。たかが箸じゃないか。僕は変わっているなとおもったけれど、そう他人ではわからないような間違えかただし、食卓を散らかしたり、他人をいやなきもちにさせたりするわけでもない。こうあるべき、なんていう規則はそうではないひとを責めるためにつくられたもの、だったりするからねえ」
「たかが、箸、ですか」
紫蓮は絳の劣等感をいともたやすく振り払い、瑕疵を肯定する。軽やかだが、なおざりではない。
「は……」
肺に詰めすぎた息をはきだすように絳は嗤った。
「ほんとうにあなたという姑娘は」
絳が彼女の言葉をかみ締めているうちに紫蓮は瓊脂冰を頬張って、嬉しそうにしている。気ままというか。そんなところも可愛らしかった。





