世界会議
それから1週間ほど何もせず、師匠の家にいたり、魔王城に行ったりとゆっくりした生活を送っていた。その間も、セフィーロさんやカゲロウが必死に捜索しているが、ナザルの消息は一向につかめない。
「師匠。聞きたいことがあるんですが。」
「珍しいな。どうした?」
「この世界って大陸は一つだけなんですか?」
「どうしたいきなり。そんなこと考えたこともなかったぞ!」
「オレのいた地球は球体だったんです。海が大半だったんですけど、5つの大きな大陸があったんですよ。この世界にも海があるんですよね。だとしたら、ここが大陸だとして他にも大陸があるんじゃないですか?」
「シンは、ナザルがここでない他の大陸に逃げたと思っているのか?」
「そうとしか考えられないですよね。これだけ探して魔力を感知すらできないんですから。」
「可能性としてあるな。世界樹に行って大精霊達に聞いてみるか?」
「そうですね。」
オレと師匠は世界樹まで転移した。すると、世界樹の周りでは大小さまざまな精霊達が飛び回っている。オレに気づいた精霊達が一斉に近づいてきた。
「あ~! 精霊王様だ~!」
「精霊王様~! 遊ぼうよ~!」
どの精霊達もみんな無邪気だ。そして何よりも、空気が澄んでいる。邪気を一切感じない。そこに、大精霊達がやってきた。
「珍しいですね。精霊王様。どうかされたんですか?」
「みんなに聞きたいことがあるんだけど。」
「なんでしょう?」
「この世界の大陸ってここしかないの?」
「まさか~! 他にもいくつかありますよ。大陸とは言えないような島も含めれば、結構な数がありますよ。」
オレは師匠と顔を見合わせた。やっぱりだ。
「どうして他の大陸と交流しないの?」
「この世界は海洋術が発達していませんから。それに、他の大陸はどこも近いのですが、この大陸だけは少し離れているんです。恐らく世界樹を守るためにそうなっているんだと思いますが。」
「世界樹を守るため?」
「そうです。まず、世界樹の存在を知られないようにする。世界樹に近づかせないようにする。世界樹に悪い気を取りませないようにする。そんなところですかね。」
「なるほどね。」
「話はそれだけですか?」
「そうだよ。」
「なら、今日はここで他の精霊達と交流していってください。何よりも、精霊王様がここに来ると世界樹がより一層元気になりますから。」
オレと師匠はいろんな精霊達と話をしたり、歌ったり踊ったりした。どの精霊達もみんな陽気だ。
「シン。やっぱりお前は子どもが好きなんだな。」
「地球にいた時は友達もいなくて、部屋に引きこもっていたから、こうしてみんなと楽しい時間を過ごすことが夢のようなんです。」
「今のお前からは考えられないがな。」
「多分、オレは変わったんだと思います。この世界の人々のお陰で、そして何よりも師匠のお陰です。」
師匠はオレにべったりと体を寄せてきた。それを見て精霊達が師匠の真似をしている。みんな可愛い。
オレと師匠は世界樹を後にして、カエサルさんのところに行った。
「シン殿。世界会議の方はどうですか?」
「はい。スチュアート王国も神聖エリーヌ教国も参加することになりました。」
「では、この世界の国がすべて参加することになったんですね。」
「カエサルさん。オレも知らなかったんですが、この世界には大陸がいくつもあるそうです。オレはここだけだと思っていたんですが。」
「それは事実ですか?」
「はい。大精霊達が教えてくれたので、間違いありません。」
「では、シン殿の役割はこの会議で終了というわけではないんですね。」
「はい。」
ここで、師匠が話に加わった。
「いいではないか。私もシンも魔族だ。寿命は長いんだ。全ての大陸を冒険しようではないか。」
「はい。師匠と一緒ならできそうな気がします。」
その後、世界会議の日程を1週間後とした。会場は持ち回り制として、第1回目はリリシア帝国で開かれることとなった。オレと師匠は、すべての参加国に行って転移装置を設置することにした。
それぞれの国に思い出があり、懐かしく感じた。会議のメンバーだが、以下のようになった。
リリシア帝国・・・・・カエサル皇帝
アルベルト王国・・・・リチャード国王
エレメント連邦国・・・ビャッコ議長
シナトヨ王国・・・・・ケント国王及び後見人バット
シナアカ王国・・・・・シュナイダー国王
エルフ国・・・・・・・ゲーテ国王
スチュアート王国・・・セザール国王
神聖エリーヌ教国・・・ミカエル教皇
因みに、エルフ国については事前に全員に国として認めるという確約をもらっていた。族長のゲーテさんも娘のキャサリンさんも喜んで賛同してくれた。
そして会議がいよいよ始まり、自己紹介が行われた。次に様々な議題に移る段階でカエサルさんから意見が出た。
「シン殿。お伺いしたいんですが。」
「なんでしょうか?」
「シン殿はこの会議に参加されないんですか? この会議の設立者のシン殿とナツ殿にはぜひ参加していただきたいのですが。議長などはいかがですか?」
「実はここで皆さんに大事な話があるんだけど。」
「なんでしょうか?」
全員が真剣な顔をしてこちらを見ている。
「実はこの大陸以外にも、この世界には複数の大陸があるんだ。どうやら、オレと師匠の使命は、すべての大陸を平和にすることのようなんだ。だから、この大陸にだけいるわけにはいかないんだよね。議長はカエサルさんから順番に、持ち回りにして、議長の国で会議を行うことにしたらいいと思うよ。」
ここで、シュナイダー国王が聞いてきた。
「大陸が他にもあるというのは本当ですか?」
「はい。大精霊達に聞きましたので間違いないでしょう。」
「だとすると、いつかこの大陸に戦争を仕掛けてくる国があるかもしれませんな。」
「だから、オレと師匠は他の大陸にも行かないといけないんだ。」
ここで、ビャッコ議長が言ってきた。
「わかりました。では、シン様はこの世界会議の特別顧問としたらどうですか?」
みんながビャッコの意見に同調している。
「わかりました。その特別顧問を引き受けましょう。この大陸に何かあればすぐに帰ってこられるように、手配をしておきます。」
リチャード国王が発言した。
「シン様がいなくなることに不安はありますが、我ら全員が一致団結して平和的に問題の解決に臨みます。安心して旅に出てください。」
「ありがとう。リチャードさん。」
ここでカエサルさんが提案してきた。
「では、我々の国の集まりを『ワールドピースネイションズ』としてはいかがでしょうか。」
「それはいいですね。」
「そうしましょう。」
その後会議は順調に進んだ。今回は初めての会議ということもあり、会議は2日間行うことになった。
全ての会議が終了した後、オレと師匠は魔王城に戻った。いつもの通り、謁見の間の玉座のところにはセフィーロさんがいた。
「魔王様。お帰りなさいませ。」
「セフィーロさん。今日は大事な話があるんだ。ミアとハヤトさんも応接室に呼んでくれるかな。」
「畏まりました。」
オレと師匠が応接室で待っていると3人がやってきた。
「魔王様。大事な話とは何でしょうか?」
ハヤトさんが聞いてきた。
「実は、この世界にはこの大陸以外にも複数の大陸があるようなんだ。」
ここでミアが反応する。
「そうなの? 私、他の大陸に行ってみたいです。魔王様。」
「その件なんだけど、オレと師匠が最初に別の大陸に行って、転移して戻ってくるから、みんなもいつでも大陸に移動できるようにしてもらいたいんだよ。」
「そうですね。いつでも駆け付けられる体制にしておきましょう。」
「別の大陸について全く知らないから、どういう種族が住んでいるのか? どんな文明なのか? 全く未知の世界なんだよね。」
「もしかすると、別の大陸にも魔族がいるかもしれませんね。」
「そうなると、ブラゴのような暴力的な魔王がいるかもしれませんな。」
「魔王様のようないい男がいるかもしれないし、ねっ、ナツ姉様。」
「何言っているの! ミア! シンほどの男が他にいるわけがないでしょ!」
嬉しいやら恥ずかしいやら下を向いてしまった。
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