シナトヨ国のダンジョン(4)
ダンジョンから外に出ると昼の時間帯だった。オレ達は冒険者ギルドに向かった。相変わらずギルド内には大勢の冒険者達がいる。しばらく列に並んで待っているとやっと順番が来た。
順番が来たのでオレ達が受付に行くと、受付の女性が聞いてきた。
「ドロップ品の買い取りですか?」
「はい。」
「ではここに出してください。」
「ここでは狭くて出し切れないです。」
「そんなにあるんですか?」
「はい。」
「何階層まで行かれたんですか?」
「3人で50階層すべて踏破してきました。」
「えっ?! 今なんと?」
「50階層すべて踏破してきました。」
「ええ――――――――――!!!」
受付の女性の驚く声にギルド内が静まり返った。全員がこっちを見ている。
「どこに出しましょうか?」
「裏に来てください。直ぐにギルマスを呼んできます。」
ギルドの裏に行く途中、オレはハリソンさんにお願いした。
「オレと師匠のことは秘密でお願いします。それと、今回はハリソンさんの力で踏破したことにしてください。」
「シン様とナツ様のお役に立てるなら、喜んでその役を引き受けましょう。」
「ありがとう。ハリソンさん。」
オレ達がギルドの裏の倉庫で待っていると、超マッチョな男性と受付の女性が戻ってきた。オレ達の周りは見物人でごった返している。
「ダンジョンを踏破したというのは本当か?」
「はい。ハリソンさんのお陰でいい経験ができました。」
「なら、ドロップしたものをすべて出してくれ。」
オレは鞄の中から出すふりをして、空間収納からすべて出した。
「この大きな魔石はなんだ?」
「はい。ドラゴンです。それとこの魔剣はリッチキングですね。」
「間違いないようだ。報酬を渡すからギルマスの部屋まで来てくれるか?」
「あまり時間がないので、ここでもらえませんか?」
「大金だぞ!」
「大丈夫です。ここにハリソンさんがいますから、誰かが奪おうとしても“簡単に殺せます”から。」
「わかった。なら、待っていろ。」
師匠が言ってきた。
「さすがはシンだ。“簡単に殺せる”力があることをみんなの前で伝えたんだ。これでハリソンの報酬を狙うものもいなくなるだろうな。」
「ありがとうございます。シン様。」
しばらくしてギルマスが戻ってきた。あまり重そうにしていないので、オレは少し心配になった。
「これが報酬だ。大白金貨10枚だ。」
「オオ―――――――――――!!!」
見物人からどよめきが起こった。大白金貨10枚、日本円で10億円相当だ。みんなが驚くのもうなずける。
オレ達3人は報酬を受け取ると、ギルドを出てハリソンの行きつけの食堂に行った。
「じゃぁ、約束通りこれはハリソンさんのものね。」
オレは、空間収納の魔法が付与されている鞄から大白金貨を10枚取り出して渡した。
「これ全部俺がもらっていいんですか?」
「いいですよ。それよりハリソンさんは鞄を持っていないの?」
「ありますけど汚いですよ。」
「ちょっとそれを貸してくれる。」
師匠がオレのことを微笑みながら見ている。オレが何をしようとしているのか分かっているのだろう。
オレはハリソンから鞄を受け取ると空間魔法を付与した。ついでに壊れたり汚れたりしないように魔法を付与し、さらに使用者指定でハリソン以外には扱えないようにした。
「この鞄なら安心でしょ?」
「この鞄だけで国宝物の価値がありますよ。」
「オレと師匠からのプレゼントだよ。ねっ、師匠。」
「ああ、ハリソンにはよく働いてもらったから感謝の気持ちだ。」
「ありがとうございます。シン様、ナツ様。お二人に出会えて俺はものすごく幸運でした。これから、俺はシン様やナツ様のように人々の役に立てるように頑張ります。」
「じゃぁ、冷めないうちに揚げ鳥定食を食べようか。」
「はい。」
その頃、冒険者ギルドのギルドマスター室には2人の姿があった。一人はギルドマスターのゼットンだ。もう一人はワンと呼ばれる男だ。
「ワン殿。今日、あのダンジョンを踏破したという3人組が現れたぞ!」
「それは本当か?」
「ああ、一人はこの街の冒険者でハリソンというものだ。だが奴は常に単独でダンジョンに行っていたが、確か29階層で止まっていたはずだ。」
「ならば、残りの2人が相当な実力者ということだな。」
「そう言うことになるな。」
「その2人は何者だ?」
「一人はシンという美少年だ。もう一人はナツとかいう美女だ。“師匠”とか呼んでいたから師弟なのかもしれんな。」
「よもや、シナアカ国からの密偵ということはあるまいな?」
「その可能性も捨てきれんだろう。」
「ならばすぐに王城に戻って宰相殿に報告をしなければならん。」
「わしのこともよろしく伝えてくれよ。」
「ああ、わかっている。このダンジョンの街の冒険者ギルドを任されているんだ。宰相殿もお主をかっているのだろう。」
ワンは冒険者ギルドをでると、王都ボルンに急いで向かった。
食堂を出てハリソンさんと別れた後、オレ達は街を散策していた。
「シン。」
「わかっていますよ。師匠。」
オレ達は後を付けられていた。そこで、師匠と人のいない裏の広場までイチャイチャしながらやってきた。すると、5人組の男達が現れた。
「おい。ギルドでもらった金を出せ!」
「なんでオレ達なの?」
「残りの一人は強そうだが、お前らなら何とかなりそうだからな。」
オレは男の言葉を聞いて安心した。オレと師匠がいなくなった後、大金を手にしたハリソンが狙われることが心配だったからだ。
「そうだね。ハリソンさんは強いからね。」
「その女も置いていけ。オレ達がたっぷり可愛がってやるからよ~!」
オレは少しの金を渡して逃げようかと思っていたが、師匠のことを言われたら我慢できない。オレの身体から漆黒のオーラが溢れ出た。
「ヒィ――――――」
「お前、今なんと言った? 師匠をかわいがるんだって!」
「お許しください!」
「ダメだ! お前達に生きる資格はない!」
オレは黒い翼を出した。
「オレは魔王だ! 貴様らは許さん!」
5人とも目を白くして失神してしまった。オレは全員を裸にして、ダンジョンの49階層に置いてきた。ここからは上に行くか下に行くしかない。どちらに行っても地獄だ。
「シン。私のことで怒ってくれたのか?」
「はい。師匠のことを悪くいうやつをオレは許さないから。」
師匠が笑顔でオレの腕を組んできた。
「さて、次の街はどこにしますか?」
「とりあえず、王都に向かおうか?」
「はい。」
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