シナトヨ国のダンジョン(2)
そして、翌朝、待ち合わせの場所に行った。まだ、ハリソンさんは来ていなかったが、冒険者達がぞろぞろとダンジョンの方に向かっていく。しばらくして、ハリソンさんが走ってやってきた。
「悪いな。待たせたな。子ども達がなかなか離してくれなくてな。」
「いいですよ。じゃぁ、行きましょうか。」
オレ達はダンジョンに向かった。ダンジョンの前では一人ずつチェックが入る。行方不明者が出ないようにしているそうだ。
チェックも済んで、いよいよダンジョンに入った。ダンジョンの中は意外にも明るかった。それにしても人が多い。魔物よりも人の方が多く感じる。どうやら、1階層はゴブリンのようだ。オレ達はほとんどゴブリンと遭遇することなく2階層に進んだ。ここもまだ人が多い。
「ハリソンさん。これだけ人が多いと魔物と遭遇する機会も少ないよ。ドロップ品が手に入らないけどいいの?」
「9階層まではゴブリンだから大したものも出ないし、構わんさ。」
問題なく9階層まで進んだ。10階層はボス部屋のようだが、その前に3組の冒険者達がいた。どうやら順番待ちのようだ。
「ボスが倒されてどのくらいで復活するの?」
「そうだな。だいたい1時間だな。」
「なら、あと3時間近く待つってことだよね。」
「シン。我慢しろ!」
「師匠。暇だよ。」
3時間近く待ってようやくオレ達の順番が来た。
「シンさん、ナツさん。ここで待っていてくれ。相手はゴブリンキングだ。強敵だからオレが相手をするよ。」
ハリソンさんはいい人のようだ。オレと師匠のことを心配してくれている。なんか騙しているようで申し訳なく思ってしまった。
扉の中に入ると確かにゴブリンキングがいた。ゴブリンキングはオレと師匠を見て怯えている。だが、そのことに気づかず、ハリソンさんが剣を抜いて切りかかった。ゴブリンキングも大剣で応戦しているが、オレと師匠に気を取られているようだ。オレは目に見えないように風魔法でゴブリンキングの足を切り付けた。ゴブリンキングが体勢を崩した瞬間、ハリソンさんが首を撥ねた。すると、ゴブリンキングは霧となって消えて大きな魔石を落とした。
「さすがに、ゴブリンキングは強かったよ。さぁ、下に降りよう。」
ハリソンさんの後をついてオレと師匠も階段を下りていく。11階層だ。
「ハリソンさん。この階層の魔物は何がいるの?」
「ここからはウルフ系だな。11階層はホーンウルフが群れで襲ってくるから気を付けろよ。」
冒険者の数がいきなり減ったかと思ったら、ハリソンさんの言った通りホーンウルフが群れで来た。
「ハリソンさんどうするの?」
「オレが中央突破するから、その後ろをついてきてくれるか?」
「でも、ドロップ品を回収するんだよね。逃げていたらドロップ品が手に入らないよ。」
「仕方ないだろう。命の方が大事だからな。」
オレは師匠を見た。師匠が首を横に振った。つまり手出しするなということだ。オレはせっかくなので、ドロップ品の回収をしようと考えた。
「じゃぁ、行くぞ! 力いっぱい走れよ!」
ハリソンさんが走り出した。オレと師匠が後に続く。ハリソンさんは剣で前方のホーンウルフを切り捨てていく。ホーンウルフは霧となって魔石をドロップした。オレはそれをすかさず空間収納に仕舞っていく。
「いよいよ12階層だ。どうする? この階層には安全地帯があるからそこで休んでいくか?」
「師匠。どうします?」
「そうだな。少し休んで行こうか。」
オレ達3人は安全地帯までいき、買ってきた食料を出して食事をとることにした。
「すまんな。俺の分まで用意してもらって。」
「たくさんありますから、遠慮しないでくださいね。」
食事をとった後、しばらく仮眠して再度12階層からスタートした。
「12階層もウルフ系ですか?」
「ああ、19階層まではそうだな。」
ハリソンさんの言った通り、19階層まではホーンウルフとブラックウルフだった。そして現在20階層の扉の前だ。
「この中には何がいるんですか?」
「キングウルフだ! こいつも強敵だぞ! 2人とも怪我をしないように下がっていてくれ。」
「わかりました。」
扉の中に入ると、そこには体高が2m、全長5mほどの巨大なウルフがいた。頭には角が2本出ていて、2本の角からは電流が放電している。恐らく雷魔法を放つつもりだろう。
ハリソンさんが勢いよくキングウルフに切りかかった。キングウルフは軽々とジャンプして避け、逆にキングウルフがハリソンさんに向かって角から電流を放った。ハリソンさんは手にはめているグローブのようなもので電流を防いでいる。
ハリソンさんがキングウルフの頭上に大きくジャンプした。オレはゴブリンキングの時と同じように、目に見えない風魔法でキングウルフの足を攻撃した。キングウルフは足を切られて避けることができない。ハリソンさんが剣に炎の魔法を付与して上段から切りつけた。するとキングウルフの頭が2つに切れて霧となって消えていった。その後にはキングウルフの大きな角2本がドロップしていた。
「ハリソンさん、強いですね。」
「ああ、これで家族を養っているからな。でも、今回は不思議だ。ゴブリンキングもキングウルフも本当はもっと強いぞ! いつもは少しずつ傷つけて体力を奪ってから勝負するんだがな。」
師匠がオレを見て笑っている。
「さぁ、次は21階層だ。21階層にも安全地帯があるから休んで行こうか。」
「はい。」
ダンジョンの中では時間の経過が分かりづらい。ダンジョンに入ってから何日過ぎただろうか。
「ここまで、オレも師匠もほとんど何もしていないですよ。なんか申し訳ないですよ。」
「別にいいさ。オレが怪我をしたときに、救助隊を呼びに行ってくれる人間が必要だからな。それに、飯もうまいしな。」
食事をして仮眠を取った後、再び魔物との戦闘に戻る。
「21階層からはどんな魔物ですか?」
「オークとオーガだな。」
「するとボスはオーガキングですか?」
「そうだ! だが、オレはオーガキングに勝つ自信がない。だから、29階層で引き返すのさ。」
「もしかして、安全地帯にあるあの円形の筒で地上に出られるんですか?」
「説明してなかったな。シンさんが言う通り、あれが転送装置だ。もし、俺が怪我をしたら
あの転送装置まで運んで外に連れ出してくれるか?」
「いいですよ。」
オレ達は21階層の探索を始めた。確かに21階層の魔物はオークだった。さすがにオーク相手にハリソンさん一人では大変だ。オレと師匠も参戦することにした。
「ハリソンさん。オレと師匠の力も見ておいてください。ここからはオレ達も参戦しますから。」
「わかった。だが、危ないと思ったらすぐに俺の後ろに下がってくれ。」
「はい。」
前方から5体のオークがやってきた。それぞれが剣を持っている。オレは刀を取り出した。横目で見ると、ハリソンさんがオークに切りかかった。オークも剣で対抗している。力ではオークの方が上のようだ。ハリソンさんはオークの剣を受け流しながら、少しずつ優勢になっていく。オレはオークを刀で一刀両断にする。オークが防ぐために構えた剣ごと切った。師匠は手刀に見せかけて風魔法でオークを切り裂いていく。高等技術だ。そして、すべてのオークを倒した。
「シンさんもナツさんも強かったんだな。」
「いいえ。それほどでもありません。まだまだ修行の身ですから。」
「だが、2人が戦えることが分かって心強いよ。」
その後、26階層からはオーガが出てきた。さすがにハリソンさんはオーガに苦戦していたが、それでも今まで使わなかった火魔法を使ってオーガを倒していた。そして、いよいよ30階層だ。
「ハリソンさんどうしますか?」
「今日は心強いシンさんとナツさんがいるから、行ってみようと思う。協力してくれるかい?」
「はい。最初からそのつもりでしたので。」
オレ達は30階層の扉を開いた。思った通りそこにはオーガキングがいた。
「では、シンさん、ナツさん。援護を頼む。」
ハリソンさんは最初から剣に炎の魔法を付与して、オーガキングに向かって切りかかった。オーガキングは大剣で軽々と防ぐ。逆に大剣をハリソンさんに向かって振り下ろした。このままだとハリソンさんが防ぎきれない。
オレは転移でオーガキングの後ろに行き、刀でオーガキングの背中を刺し、再度転移で元の場所に戻った。恐らくハリソンさんからは何も見えていない。オーガキングが後ろによろめいた。そこを、ハリソンさんが下から剣で突き刺した。
オーガキングは呆気なく霧となって消え、一本の薬がドロップした。恐らくエリクサーだろう。
「やりましたね。ハリソンさん。」
「ありがとう。シンさん。エリクサーを手に入れたぞ!」
31階層に降りてオレ達は安全地帯で休むことにした。ハリソンさんが寝た後、オレは師匠に気になることを話した。
「師匠。オレ考えたんですけど、このダンジョンって誰も踏破してないんですよね?」
「ああ、ハリソンはそう言っていたな。」
「なら、古代遺跡がここにあるのは不自然じゃないですか? 誰も来てないんですよね?」
「言われてみればそうだな。だが、未発見の遺跡があるかもしれんぞ!」
「そうですね。」
「ここまで来たんだ。最後まで行くぞ!」
「はい。」
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