やっぱりか
日本に戻ってから2週間が経った頃、姉の結婚式が行われた。
我が家の長女は今年24になる吹雪まりあだ。
容姿は、将来順調に育ったらりりんはこんな感じになるんだろうなーと言う感じ。
具体的に言うのなら、くりくりとしたどんぐり眼の可愛らしい顔立ちで、背丈は小さめ。
髪型はショートカットで活動的な印象を与える。
ちなみに、可愛らしげなみためのくせに性格は結構きっつい。
頭の回転も速いみたいで、たまに父がうかつなことを口走って泣かされていたりするんだよね。
もうちょっと優しくしてあげて欲しい。
ちなみに、りりんとまりあのくりくりしたどんぐり眼と低めな背丈は、きっと父親似なんだろうなと思う。
ウチの父って、男の割には背が低いから。
逆に母は170センチを超える高身長のモデル体形なので、母似の私も背は伸びるかもしれない。
スタイルは……まぁ、努力次第か?
りりんは是非、ちんまりと育って欲しいと思う。
そうしたら、滅茶苦茶可愛くコーディネートをしてやるんだと、それが今から楽しみで仕方がない。
ちなみに結婚式は教会式っぽいやつで、私とりりんはフラワーガールと言うお役目を任され、何とかその大役を果たす事に成功した。
これは、りりんが委縮してしまってちょっぴり危なかったんだけど……。
そりゃあ、3歳の子供がやるのにはちょっと難しいお仕事だよなぁと思いながら、『これは遊び』と妹に思い込ませた自分の機転を褒めてやりたい。
具体的に言うなら、『こんな楽しい遊びは他にはない』と自分に暗示を掛けて妹を巻き込んで異様な程のテンションで盛り上がった。
お陰で、真っ白に燃え尽きる程に疲れたけれど、全てが終った後に自分で自分を褒め称えた。
良くやった!
グッジョブ!!
私!!!
後で、その事について両親と姉からお礼を言われて、私はご満悦。
りりんも、きちんと大役を果たせた事を褒められて、良く分かっていないながらにもニコニコしていた。
ちなみに、姉の夫になった男って言うのが何と言うか……。
うん。
分かってたんだけどさ。
地球の創造者は、絶対に妹の近くに現れるだろうとは思ってたよ?
でも、その為に姉をたぶらかすっていうのはどうなんだ??
憮然とした面持ちで、披露宴で出された豪華版お子様ランチを食べていると、新郎新婦のなれそめVTRが流れ始めて、私のその疑いの根底を覆す。
いや、出会いが6年前にまりあがクリフの店に通い詰めたって時点で、前世の妹の死ぬ時期もその後の転生する事も確定してなかったんだから、りりんの近くに居る為にまりあを捕まえたって言うのは少し無理があるってだけだけど。
私が側に居る間中、りりんに対してやたらと過保護な兄だった事を考えると、そばに居る為に何か対策はしたと思うんだけどな……。
……アレか。
自分の恋人の親の元に、私達が転生するように仕向けたのか。
プリンを掬ったスプーンを咥えたまま納得していると、母にスプーンを取り上げられた。
ああ、お行儀悪いからか。
そっとプリンの元に戻されたスプーンを使って、改めて食べようとしたところで、隣から視線を感じて横を向くと、りりんが指を咥えて私のプリンを見詰めていた。
彼女のプリンの器は既に空っぽだ。
「……あーん?」
「あ~♪」
思わず口元を緩めてしまいながら、妹にプリンを掬ったスプーンを差し出すと、嬉しそうに大きく口を開く。
あげるフリして、自分で食べちゃうのも面白いけど、私は妹の嬉しそうな笑顔が見たいという自分の欲望に従って、せっせと彼女の口にプリンを運ぶ。
一口食べる毎に、にへら~と口元が緩むのが堪らない。
私のプリンが全て妹の口の中に消えてしまうと、母から口直し用のジェラートが私用のデザートとして提供された。
「らんちゃ、あーん♪」
「あ~ん」
「本当に蘭ちゃんとりりんちゃんは仲が良いわねぇ……。」
「子供同士でこうしてるのを見るのは和むなぁ。」
そのジェラートは妹が食べさせてくれて、何とも言えない幸福感と共にソレを味わう。
そんな私と妹を見ながら、嬉しそうに目を細める両親に囲まれて、ひっそりと現在の幸せに感謝する。
女に産まれててどうしたものかと思いはしたけど、こんな第3の人生も悪くない。
そんなことを思えるのも、記憶が残ったまま転生しているからなんだよな。
と、高砂席っていうのに新婦と並んで座る新郎を眺めながら考える。
地球の創造主は、一体何でそんな事をしたんだろう??
考えても分からないまま、結婚式は終わり、新郎と新婦は新婚旅行に旅立っていった。
その翌日、父が終ったのかと思っていた海外赴任に戻っていくのを見送りに、妹と母と共に空港まで出向く。
どうも、海外赴任はまだ続くらしい。
いつ戻るか分からないから、私達が来年から幼稚園に入る年齢になる為、姉の結婚式を期に母と私と妹の三人を先に日本に戻らせる事にしたんだそうだ。
海外に単身赴任して行く父は、何とも寂しそうで少し胸が痛む。
しょんぼりした様子の父に別れ際、抱きしめられた時には、出血大サービスでほっぺにチューをしてやる事にする。
父は滅茶苦茶喜んで踊りださんばかりだったものの、妹が私の真似をして同じ事をすると、嬉しさのあまり卒倒しかかって私の度肝を抜いた。
おっさん、どんだけ嬉しいんだ?!
結局、母にどつかれて正気に戻った彼は、後ろ髪を引かれながら旅立つ。
そんな父に、一言だけ言わせて貰おう。
これからますます可愛くなっていくりりんの事、たっぷりと堪能させて頂きます!
可愛い可愛いりりんの為にも、身を粉にして働いて下さい。
え?
鬼の様な発言だって?
親ってのは、子供のために働くもんなんだからいいんだよ。
きっと、長めの休みを取る隙があればちょくちょく帰ってくるに違いないから、娘の成長を楽しみに頑張ってほしいと思う。
……いやぁ。
自分の事じゃないと、気軽に言えていいね。
こう言うセリフ。
前世では直接的な言葉じゃないけど、ほぼ毎日言われてたからなぁ……。
真面目な話、前世の私みたいに潰れない程度に頑張ってくれる事を祈りたい。
小狸みたいな見た目だけど、今生の父の事は本当に可愛いと思っているから割と切実にそう思う。